レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2021年 / 10月29日

医療現場がアベノマスクで助かった話

なんだか、衆議院総選挙が近づいてきて各方面で政治談義が盛んになると、一部から「昨年のアベノマスクは壮大な無駄だった」という主張が出てきているようですが、医療現場にいる1人としてのアベノマスクへの評価をメモしておきます。


去年の春頃は病院でもマスクが足りなくて、一番きつい時は病院で外来やってるのに「マスクは1人1週間で1枚」という時期がありました。汚い話だけど、同じマスクを毎日使い回していると、自分のなのにだんだんマスクが嫌なにおいしてくるんですよね。

去年の春頃は病院でもマスクが足りなくて、一番きつい時は病院で外来やってるのに「マスクは1人1週間で1枚」という時期があった。汚い話だけど、自分のなのにだんだんマスクが嫌なにおいしてくるのよな。

— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) October 28, 2021

非常事態宣言で外出を控えるように言われているのに、ドラッグストアには6時台からマスクを求める高齢者が行列し、メルカリとかいう泥棒市場では転売ヤーのマスク出品に1箱5000円という値が付き、情けないことに院内でマスクが盗難される事件も起き、それはそれは悲惨な現場でした。

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上の図は神奈川県が公式に出していたものです。本当に新型コロナウイルス感染症の入院患者を受け入れていた医療機関がこのような貧相な物資供給のもとで仕事をさせられ、一方でメルカリという闇市にはマスクの箱が高額で山積みされていたのですから、太平洋戦争末期の日本と似ていませんか。対策をするすると言いながら一向に手を打たず物資不足で大きな利益を上げたメルカリという会社のことは、ぼくは今でも人の不幸につけ込み商売をする泥棒稼業だと思っています。

手洗いして日陰干しするというのも試してみたことがありますが、どうやら不織布マスクは濡らしてしまうとその病原微生物への防護効果が低下してしまうらしく。アルコール消毒液を噴霧するのも静電気吸着効果が失われるので不可です。耐熱バッグに入れてオートクレーブしたり乾熱滅菌して見るのも試してみたけど、全員分のマスクをこれするのは現実的ではありません。

昨年5月にブルーインパルスが飛んだ頃はまだ「応援よりマスクを寄越せ」「拍手より消毒用アルコールをくれ」と言っていました。マスクも無いのに帰国者接触者外来を担当させられ、テレビでは「医療者に拍手を」と言われても、複雑な気持ちです。エールの寄書きと折り鶴と中古のレインコートが届いても本当にマスクと防護衣がなく、1週間使い通したマスクと自分達でゴミ袋に首の穴をあけたガウンを着て仕事してたんですよ。

消毒用アルコールが本当に手に入らないから、医療機関ですら本物の消毒液は患者の身体に直接触れるところだけに使い、処置台の清拭など物品には酒造メーカーが消毒液代わりに作ってくれた度数70%のリキュールとか使ってたんですよ。非常事態だから厚労省も医療現場が「アルコール度数が60-70%くらいの『お酒』を消毒液がわりに使用することを黙認する」という通達を大真面目な顔で出しています。

https://www.nta.go.jp/taxes/sake/kansensho/pdf/0020004-127.pdf

それがアベノマスクが配られたあたりから一気に在庫逼迫が解消されて解決したんです。ドラッグストアに早朝から並ぶ高齢者はいなくなり、メルカリで高額売買されていたマスクの値段は下がり、週1枚だったマスクは週2枚、2日に1枚、毎日交換と徐々に状況が良くなり、現場は救済されたわけです。

消毒用アルコールの需給状況の改善にはその後も少し時間がかかったけれど、あの医療物資不足の狂気に一手で終止符を打ったアベノマスクは、本当に効果絶大だったと思います。

アベノマスク配布前のマスクの需給状況を考慮せずに、今在庫があることを批判する人たちは、パンデミックが終焉を迎えた際、感染症病床やそれに従事するために確保される一見余剰な施設や人員が、一斉に無駄と批判すると思う。
その次のパンデミックへの備えなど頭の片隅にでも入ることも無いだろう。

— 田舎の元外科医 (@inakashoge) October 28, 2021

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更新日:2021-10-29 閲覧数:8958 views.