レ点腫瘍学ノート

2020-08-06

遺伝子別

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がん遺伝子パネル検査で検出される遺伝子異常と悪性腫瘍の関連に関する、個人的なメモです。量が多いのでカバーしきれていませんが、適宜追記しています。正確な内容になるよう注意はしていますが誤っている可能性や古い情報であることもあるので、常にご自身で正確かつ最新の情報で検証するようにしてください。(2020.5.25)

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目次

重要な参考資料

小杉班リスト

がんゲノム医療を進めるにあたって、クリニカルシークエンスが拾い上げる二次的所見への対応の必要性が高まっています。これに関して日本医療研究開発機構(AMED)のゲノム創薬基盤推進研究事業が実施され、様々な提言がなされています。とくに実臨床において重要な資料として二次的所見を患者にどう開示すべきかに関する推奨度のリストがあり、これはがん遺伝子パネル検査の実務に関わる医療者は頻繁に参照し、その内容を把握しておく必要があります。

がん遺伝子パネル検査二次的所見患者開示 推奨度別リスト(Ver2.0_20191210)
PDFファイル:https://www.amed.go.jp/content/000056448.pdf
掲載ウェブサイト:https://www.amed.go.jp/news/seika/kenkyu/20200121.html

ACMG59リスト

ACMGが提示する二次的所見に関するデータも重要な参考資料になる。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/clinvar/docs/acmg/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27854360

AKT1/AKT2/AKT3

PARP阻害剤またはAKT阻害剤が候補と考えられているが、現時点では推奨される治療は無いと考えられる。PTENの欄も参照。

AKT阻害剤は主に乳癌(TNBCおよびER陽性乳癌)で開発が進行している。トリプルネガティブ乳癌に対して中外製薬からイパタセルチブ、アストラゼネカからカピバセルチブが第3相試験進行中。

乳癌

イパタセルチブはPIK3CA/AKT1/PTEN変異を有する進行乳癌などに対して2020年に保険承認の可能性あり。TNBCに対してはイタパセルチブ+アテゾリズマブ+細胞障害薬の試験も進行中(IPATunity170試験)。

カピバセルチブは、TNBCの一次治療でPAKT試験(第2相)においてパクリタキセルとの併用でPFSが3.7→9.3ヶ月まで延長あり*1
ER陽性乳癌の一次治療ではBEECH試験(第2相)においてパクリタキセルとの併用でPFSの延長が認められず(PFS 8.4→10.9ヶ月)、PIK3CA変異陽性の患者群に絞ってもその差は見られなかった(PFS 10.9→10.8ヶ月)*2
ER陽性乳癌の二次治療ではFAKTION試験(第2相)においてフルベストラントとの併用でPFSが延長された(PFS 4.8→10.3ヶ月)。*3

乳癌以外

第2相試験では胃癌でFOLFOXにイパタセルチブを併用してもPFSの延長は見られなかった(PFS 7.7→6.5ヶ月)*4

PTEN欠損去勢抵抗性前立腺癌ではイパタセルチブの開発が進行している。PTENの欄を参照。

ALK

肺癌。ALK阻害剤。

APC

somaticには、adenoma-carcinoma pathway(つまり通常型散発性大腸癌)で高頻度に不活化変異が見られるなど消化管癌ではcommonな遺伝子異常。現時点でAPC異常に対する標的治療は無い。

遺伝性腫瘍(家族性大腸腺腫症)

家族性大腸腺腫症(FAP)の原因遺伝子。しかしFAPによる消化管腫瘍(大腸癌、胃癌、小腸癌)以外ではこれがドライバー変異であることはそれほど多くない。T-only panelでAPC異常を検出した場合は二次的所見の有無に注意を払う必要がある(小杉班リスト20191210では開示推奨度は最上級のAAAだがgermline test推奨度は△)。

先天的にAPC異常を有する家族性大腸腺腫症の場合は20〜50歳で極めて高頻度に大腸癌を発症するため予防的大腸全摘術が考慮されるが、近年は大腸全摘は行わずに内視鏡的大腸ポリープ切除術を繰り返す選択を取られることもある。

大腸以外には十二指腸(5-10%)・膵臓(2%)・甲状腺(2%)・髄芽腫(1%未満)・肝芽腫(小児で1%未満)を伴うことがある。下顎骨に腫瘍を伴うものはガードナー症候群と呼ばれ、歯科から紹介された場合は大腸内視鏡を考慮すべき。

大腸全摘後は定期的な上部内視鏡検査、年1回の甲状腺診察・甲状腺エコーなどが推奨されている*5。COX2阻害剤(セレコキシブ)が大腸全摘後も消化管癌を抑制する可能性が示唆されて*6、米国ではFAPに対するセレコキシブが承認されている*7

ARID1A

現時点治療薬候補はなさそう。

ATM

DNA修復機能異常に関連する遺伝子(HRD)。BRCA1/2の欄も参照。

PARP阻害剤またはプラチナ製剤が候補になり得る。去勢抵抗性前立腺癌においては第3相PROfound試験コホートAでBRCA1/2またはATMに変異を有する患者でPFSが3.6→7.4ヶ月に延長(HR 0.34)という良好な成績を示した*8

遺伝性腫瘍

小杉班リスト20191210ではgermline test推奨度◎だが、NCCオンコパネルのgermline対象遺伝子にはなっておらず、他の二次的所見候補の遺伝子と異なってNCCオンコパネルでは確定できない(今後のパネル検査の仕様変更によって変更される可能性あり)2020/5

極めて稀であるが、ホモ接合性ATM遺伝子異常がある患者では放射線治療は絶対的禁忌ということがNCCN乳癌ガイドラインに記載されている*9

BMPR1A

小杉班リスト20191210では開示推奨度はAAだがT-only panelで二次的所見である頻度は高くなくgermline test推奨度は無し。

BRAF

BRAF遺伝子異常はclass I〜IIIに分類する考え方が一般的である。

class Iはキナーゼ活性が野生型に比べて500倍と高く、単量体で活性化したシグナルを発する。V600Eがキナーゼ活性が最も高いclass Iとされ、このクラスではBRAF阻害剤の有効性が高く標準治療になっている。
class IIは単量体では活性化シグナルを発しないが野生型と二量体を形成することでシグナルを発し、そのキナーゼ活性がは野生型の数倍から50倍程度とされる。
class IIIは野生型よりもむしろキナーゼ活性が低下している。
さらに、class I〜IIIのいずれにも分類されないVUSも存在している(未知の新規融合遺伝子など)。
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/basic-med/can-dia-an-thera/advanced-cancer-therapeutics/

BRAF V600E

BRAF遺伝子変異でがん遺伝子として機能するものの多くはBRAF V600E変異である。

悪性黒色腫ではBRAF阻害剤+MEK阻害剤の併用療法が標準治療となる。一方でBRAF変異大腸癌ではフィードバック機序やCRAFなどパスウェイの迂回経路が生じることからBRAF阻害剤+MEK阻害剤の2剤併用では腫瘍を抑制できず、BRAF阻害剤+MEK阻害剤+抗EGFR抗体の3剤併用が必要となる(BEACON試験)。

大腸癌ではBRAF V600Eは抗EGFR抗体の有効性が乏しいと考えられており、日本およびESMOのガイドラインではBRAF V600E変異陽性大腸癌に対してはセツキシマブ・パニツムマブを推奨しないとの指針が示されているが、米国(NCCN)では2019年時点ではこの考え方はエビデンスが乏しく確定的でないとのスタンスになっている。一方で、二次治療では日本の2019年版では抗EGFR抗体は選択肢の1つとされている。

胆道癌の第2相ROAR試験では、ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法が二次治療であるにも関わらず奏効率47%と非常に良好な成績を示した*10

V600E以外のBRAF変異

V600E以外のBRAF変異やfusionはclass IIまたはclass IIIの異常とされBRAF阻害剤の有効性は期待しにくい。一方でMEK阻害剤は候補となる可能性がある。

大腸癌ではV600の10分の1くらいの頻度で594か596の変異があり、V600Eは「右側結腸・高齢・MSI・治療抵抗性・予後不良」な因子であるのに対して594と596はいずれも「直腸・MSS・予後良好」な因子とされる*11。悪性黒色腫でも594と596は予後良好因子とされる*12

悪性黒色腫ではV600E以外のBRAF変異に対するBRAF阻害剤+MEK阻害剤の報告があり、V600E以外にもある程度の有効性があるとの報告もある*13が、もともとV600E以外のBRAF変異は予後が良いということもあるので解釈には注意が必要。

大腸癌では、class I〜IIIの全てにおいてBRAF阻害剤やMEK阻害剤での治療を行う場合には上流シグナルであるEGFRを遮断する抗EGFR抗体を併用するのが標準的と考えられる。また、抗class II変異にはBRAF阻害剤は効きにくいが抗EGFR抗体+MEK阻害剤の併用療法が有効との報告もある*14

BRAF fusion

BRAF fusionもBRAF阻害剤の有効性が期待しにくいBRAF異常であるがclass IIに分類されるものが多いと考えられる。BRAF融合遺伝子に対してはBRAF阻害剤+MEK阻害剤の有効性のエビデンスは少数のみある。MEK阻害剤が単剤で使われることはある?

報告としてはKIAA1549-BRAFのfusionが多いが、fusionの相手となる遺伝子は多岐にわたる*15

BRAF増幅

BRAF V600E変異に対するBRAF阻害剤+MET阻害剤による治療を行っている課程で出現する耐性変異としてBRAF増幅が見られることがしばしばある。ここから考えてもBRAF増幅に対するBRAF阻害剤は推奨されにくい。

BRCA1/BRCA2

HRD遺伝子の1つ。HRD遺伝子にはBRCA1/BRCA2のほかに、CHEK2、ATM、CDK12、PPP2R2Aなどがある。

BRCA1/BRCA2の以上に対してはPARP阻害剤オラパリブが良い適応で、乳癌(アンスラサイクリン・タキサン既治療でgBRCA異常あり)または卵巣癌(プラチナ感受性またはgBRCA異常あり)ではすでに保険適用されている。前立腺癌や膵癌での承認も期待されている。また2020年9月に卵巣癌に対してニラパリブも承認された。PARP阻害剤が保険適用でない臓器の場合は同じく相同組み換え修復異常を標的とするプラチナ系抗腫瘍薬も候補になる。

reversion変異(復帰変異)とは主に薬剤の奏効因子となる遺伝子変異(PARP阻害剤に対応するBRCA機能欠失など)に対して、さらに二次変異が生じてその機能を回復し、それによって治療薬耐性を生じることなどをreversion変異と呼びます。復帰変異とも呼ばれます。BRCA関連腫瘍に対するPARP阻害剤の耐性父母から受け継い…

プラチナ系抗腫瘍薬とPARP阻害剤の感受性は連動していることが多く、PARP阻害剤を使用する場合はプラチナ系抗腫瘍薬に抵抗性になる前に治療開始することが望ましい。卵巣癌においてはプラチナを含む3レジメン以上の化学療法を受けた症例に関しても奏効率30%、DoR 8ヶ月という成績を示した報告*16*17もあり、プラチナ化学療法でPDとなってもPARP阻害剤が有用なケースは一部には見られる。

なお、BRCA異常は特に若年乳癌・若年膵癌などで変異が見られる頻度が高い遺伝子異常だが、gBRCA膵癌に対するPOLO試験の検討からgBRCAがある患者に対するオラパリブは年齢によらず高齢でも有効性があることが示唆されている*18

変異やframeshiftが主でClinVarでデータベースが数多く収載されている。ミリアドはBRCAにhg38(GRCh38)とは異なる延期番号を振っているため、BRACAnalysisとパネル検査のBRCA1変異塩基番号はずれていることに注意が必要(BRCA2はこの問題はない)。

BRCAの融合遺伝子(fusion)

まれながらBRCAと他のfusionが報告されているとのことだが、BRCA fusionに対する治療は報告が極めて少ない。

二次的所見(HBOC:遺伝性乳癌卵巣癌症候群)

遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の原因遺伝子。特に、若年乳癌、卵巣癌、膵癌、前立腺癌などに関与する。これらの家族歴をよく聴取することが重要となる。二次的所見が疑われる場合は積極的に遺伝カウンセリングを考慮する。小杉班リスト20191210では開示推奨度は最上級のAAAであり、germline test推奨度も◎。なお、予防的子宮付属器切除が保険適用となる(2020〜)。

乳癌

タキサン・アンスラサイクリンの治療歴がある場合はBRCAnalysisが保険適用で実施可能であり、病的変異を認めればオラパリブが保険診療で実施可能。

germline BRCA変異を有するTNBCに対するベリパリブがBROCADE3試験のサブ解析でPFS延長を示した*19

プラチナ感受性卵巣癌

プラチナ感受性卵巣癌については保険診療であり標準治療。

なお、プラチナ抵抗性卵巣癌であってもgermline BRCA変異があればある程度の感受性があるとの報告がある*20。従来はプラチナ抵抗性卵巣癌の後治療化学療法は奏効率15%程度であるとされているのに対してオラパリブは30%程度あると考えられている。

膵癌

PARP inhibitors in pancreatic cancer: molecular mechanisms and clinical applications(レビュー2020年3月)
https://molecular-cancer.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12943-020-01167-9

前立腺癌

BRCA1/2・ATM・FANC family・CHEK2を含むDNA修復異常についてはPARP阻害剤が候補。第2相試験で有望な結果あり*21

米国ではBRCA1/2変異を有する進行前立腺癌に対してルカパリブが迅速承認された*22。単群試験TRITON2試験の結果に基づくもの。迅速承認時点での奏効率は44%、奏効期間は未到達。

大腸癌

ベリパリブ+テモゾロミドの第2相試験
オラパリブの第2相 Oncologist

gBRCAとsBRCAで奏効率に差があるか

前立腺癌に対するルカパリブ第2相試験(TRITON2試験*23)の結果ではgBRCAとsBRCAの間で奏効率に差は見られなかった。

PARP阻害剤の放射線増感作用

BRCA変異を有する有さないに関わらず、PARP阻害剤は1本鎖DNA切断を生じた細胞に対する細胞死誘導の効果があるため放射線治療の増感作用があると考えられ、これに関する臨床試験が頭頚部癌などで行われている*24

BRIP1

卵巣癌に関与

CCND1、CCND3

CDK4/6阻害剤

アベマシクリブ、パルボシクリブなどが候補と考えられていたが、NCI-MATCHの結果からは36人のCCND増幅固形がん(うち1例のみCCND3増幅で他は全例CCND1増幅。対象臓器は23種類)の患者に対してパルボシクリブを投与した際の奏効率が0%であったとの報告がされている*25。したがってCCND1増幅に対するCDK4/6阻害剤の効果への期待はあまり高くないかもしれない。

なお、ホルモン感受性乳癌でCCND1増幅を認めた場合は内分泌療法剤+CDK4/6阻害剤の併用療法を未使用であれば(genome-based治療ではなく標準治療として)実施を検討すべきである。

CDH1

治療薬候補は無し。

遺伝性胃癌の原因遺伝子。ただし胃癌の場合は悪性度の高い未分化癌・低分化癌になる傾向あり。H.pylori陽性の分化型胃癌などではCDH1の関与の度合いは低い。胃癌の場合は開示を積極的に考慮する。小杉班リストver2では開示推奨度はAA、germline testの必要性◯。

CDK4/6

CDK4/6の活性化変異についてはアベマシクリブ、パルボシクリブが候補となり得ると考えられるが、HR陽性乳癌以外の臓器についてはエビデンスが非常に乏しいために積極的に推奨できるかどうかは判断が難しく、現時点では否定的なエビデンスも使用を推奨するエビデンスも乏しい(2020.8)。

CDK12

HRD遺伝子の1つ。したがって、欠失の場合はPARP阻害剤やプラチナ製剤が候補になり得る。
増幅の場合は推奨治療なし。

CDKN2A

有望な治療薬は乏しい。アメバシクリブパルボシクリブなどのCDK4/6阻害剤が推奨されていたこともあるが、有力な候補としての根拠は乏しく、TAPUR試験ではCDKN2A lossまたはmutationを有する胆管癌・膵癌に対するCDK4/6阻害剤は否定的な結果であったとの結果が2019年に報告された*26。また非小細胞肺癌でもCDKN2A alterationを有する29症例に対してパルボシクリブを投与した中で奏効例はわずか1例だったとの報告がある*27
これらのことからも推奨治療に挙げにくく、2020年8月時点のC-CATレポートでも推奨度Eとなっている。

二次的所見

ACMG59リストには含まれないが、小杉班リストでは開示推奨度A、germline test必要性◯となっている。しかし実際にはパッセンジャー変異のことが少なくない印象。悪性黒色腫に関してはCDKN2Aによる遺伝性発癌の可能性を検討する必要がある*28

CHEK2

DNA修復機能異常に関連する遺伝子(HRD)。BRCA1/2の欄を参照。
悪性黒色腫や膵腫瘍に関連あり。開示推奨度A、germline test必要性◯。

CSF1R

TAPUR試験ではスニチニブが候補と考えられている*29

DICER1

小児胸膜肺芽腫の原因遺伝子で遺伝性腫瘍に関連する*30

EGFR

EGFR-TKIの治療対象となるが、その変異部位によって感受性が大きく変わる。これまでにCOSMICには約600種類のEGFR遺伝子異常が報告されているが、その93%はチロシンキナーゼドメインであるエクソン18-21の範囲に見られる。とくにEGFRエクソン19のコドン E746〜A750の欠失変異およびL858R(エクソン21)に変異がある頻度が高い*31。そのほかにL747-E753へのS挿入、L747-E751欠失、L747-E750欠失+P挿入、G719X(Xは様々)、E709X、S768I、L861Qなどの変異がある。

高感受性変異

エクソン19欠失変異

EGFR変異の約40-45%を占める。L858R変異に比べて相対的に若年者・喫煙者に見られることが多い。EGFRの活性化変異でありEGFR-TKIの最も良い適応となる。

L858R変異

EGFR変異の約40%を占める。EGFR-TKI感受性はエクソン19欠失変異に次いで高いグループ。
NEJ026試験(エルロチニブ+ベバシズマブ)やRELAY試験(エルロチニブ+ラムシルマブ)で血管新生阻害剤との併用の有用性が示されたが、サブグループ解析ではL858R変異群で併用例のPFSが良好であった。

中間感受性群

EGFR-TKIの中でも薬剤により感受性が異なる。

G719X

まれな遺伝子変異。第1世代EGFR-TKIは効果が乏しい一方で、LUX-Lung 2,3,6試験の統合解析から第2世代EGFR-TKI(アファチニブ)は比較的効果が高い。

S768I、L861Q

まれな遺伝子変異。第1世代EGFR-TKIは効果が乏しい一方で、アファチニブとオシメルチニブは比較的効果が期待される群。

耐性変異

T790M

ゲフィチニブ、エルロチニブなどの耐性変異となる遺伝子変異である。初期治療前から存在している一次的変異と、EGFR-TKIによる治療の経過中に生じた二次的変異で扱いが多少異なる。EGFR-TKIによる治療中に生じた耐性の50-60%はT790M変異とされる。二次的変異の場合は耐性変異オシメルチニブが候補。

ロシレチニブ、オルムチニブなどオシメルチニブ以外の第3世代EGFR-TKIはいずれも毒性などのために開発が中止された。ほかにアビチニブ(アヴィチニブ)、EGF816など。

EGFR エクソン20挿入変異

EGFR変異の5-6%。EGFR-TKIへの耐性を示す。中にはオシメルチニブが奏効するサブタイプもあるという6例の症例報告がある*32が、基本的にはオシメルチニブに関してもexon20挿入は耐性と思われる。ほかにTAK-788などいくつかexon20を標的にした治療開発が進んでいる*33

オンコマインDX target testマルチCDxはエクソン20挿入変異をシークエンスしているがレポートには含まれないので解釈に注意を要する(これについては2020年春からレポートに含まれるようにバージョンアップされる見込みとのこと)。

L833V、A839T、V851I、A871T、G873E

まれなEGFR変異。いずれもEGFR-TKI耐性に関連するとされている。L858R変異の12.8%に合併して起こりゲフィチニブ耐性となる1次的変異のことがある*34

そのほかにEGFRの耐性機序としては以下のようなものが考えられている。

C797S、T790M-loss(オシメルチニブ耐性変異)

T790M変異肺癌に対するオシメルチニブ耐性変異の22%にC797Sが、68%にT790Mのlossが見られるとの報告がある*35。C797S変異はオシメルチニブ以外のEGFR-TKIの変異にもつながる。C797S変異に対してはブリガチニブとEGFR抗体の併用が有効である可能性が報告されている*36ものの、C797Sに対する創薬が困難であるとの指摘もある*37

T790M-lossは早期にオシメルチニブに耐性となった症例で見られることが多いことから二次的変異というよりももともと存在していたマイナークローンである可能性がある。

脳転移病変の扱い

EGFR-TKIはいずれも中枢神経移行性は高く脳転移への有効性も報告されているが、中でもオシメルチニブは非常に優れた中枢神経移行性を示す。

EGFR変異陽性+PD-L1発現陽性

1次治療としてペムブロリズマブを投与した第2相試験で奏効例がなかったことから無効中止となった*38

EGFR増幅

FISHなどでEGFR変異が陽性の場合はEGFR-TKIの有効性と改善したとの報告がある*39が、肺癌での知見によるとEGFR増幅が見られる症例ではEGFR変異を背景にともなっていることが多いことに加えてEGFR増幅で層別化しても有効性に差がないことからEGFR増幅はEGFR-TKIのバイオマーカーとは考えにくい*40との報告がある。EGFR増幅はむしろEGFR-TKIに対する耐性機序となり得るとの報告もある*41。このことから、EGFR変異を伴わないEGFR増幅については慎重に解釈する必要がある。

IPASS試験のバイオマーカー研究などから、現在ではFISHなどでEGFR増幅を評価するよりもEGFR変異のほうがEGFR-TKIの有効性に関係する優れたバイオマーカーであると考えられている。またEGFR増幅のみでEGFR変異がない場合にはゲフィチニブの奏効例が0例だったという報告もある。

食道腺癌・胃癌に関してEGFR増幅がある症例では抗EGFR抗体セツキシマブが有用だったという報告はある*42が、この報告ではcopy numberの中央値が40で最大は375と極めてコピー数が高かったため、コピー数が低い増幅でなければ効果が期待できないかもしれない。

EGFR増幅に対してはセツキシマブやパニツムマブなどの抗EGFR抗体などが試みられたことはあるが、現時点ではEGFR増幅に対する抗EGFRモノクローナル抗体による治療はコンセンサスを得ているとはとは言えない。

EGFR増幅を有する上部消化管腫瘍については光免疫療法の治療開発も進行中とのことで、国立がん研究センターなどで治験を募集していることがある。臓器により異なるので確認が必要。

その他のEGFR変異

これまでにも多数の報告があり、意義不明のものもある。

EGFR変異はKRAS・HER2・ALK転座・ROS1転座とは相互排他的(mutually exclusive)であるので同時に発生することは基本的にないが(治療中の二次的変異はある)、PIK3CAはEGFR変異と相互排他的ではない。またEGFR・PIK3CAにともに変異がある場合はPIK3CA変異はゲフィチニブの有効性に大きな影響は無いことが多い。

EP300

有望な治療薬は少ない

EPCAM

EPCAMはミスマッチ修復遺伝子ではないが生殖細胞系列で欠失が見られた場合にはリンチ症候群を考慮すべきであると考えられている*43(massiveな欠失の場合は変異アレル頻度の解釈を慎重に行う必要がある)。欠失の場合は開示推奨度AA。

ERBB2(HER2)

ERBB2増幅

ERBB2の変異や増幅が検出された場合は組織でのHER2 IHCも確認を行っておくことを検討する(必須ではない)。増幅があってもHER2がIHCで陽性とならない場合も、HER2 IHCで強陽性でもERBB2増幅がないこともありえる。NCCNガイドラインでは、NGS検査でERBB2増幅がある場合はIHCまたはFISH/DISHでERBB2陽性を確認すべきと記載されている。

ERBB2増幅肺癌

非小細胞肺癌のHER2増幅/過剰発現/変異(特にエクソン20)への標的治療に関するレビュー。
/JCOPO
https://ascopubs.org/doi/pdf/10.1200/PO.19.00333

ERBB2増幅婦人科癌

婦人科癌に対するT-DM1の第2相、Ann Oncol 2019?

ERBB2増幅大腸癌

トラスツズマブ+ペルツズマブ、トラスツズマブ+ラパチニブが治療候補となる。大腸癌の場合はトラスツズマブ単独では効果が乏しいと考えられる。

ERBB2変異

ERBB2の変異は増幅と明確に区別する必要があり、トラスツズマブをはじめとする抗HER2療法は一般にERBB2変異には効果が乏しいと考えられる。ラパチニブなどのHER2-TKIの方が奏効の報告あり。

ERBB2変異非小細胞肺癌に対してピロチニブ(パイロチニブ pyrotinib)が有望視されている。サーモフィッシャー社のコンパニオン診断薬が開発されている*45

ERBB3(HER3)

アファチニブ

ERBB4

ESR1

変異があれば内分泌療法(アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール)の無効予測因子となりえる。これらの治療に体制が生じた場合はフルベストラントが治療候補となる(あるいはタモキシフェンが使うこともある)。

閉経後ホルモン感受性乳癌に対する長期のアロマターゼ阻害剤の治療後に高頻度に異常を生じる遺伝子。この変異は第534〜538に集中している。原発巣ではESR1変異はmajor cloneとして存在する頻度は3.3%以下と非常に稀である一方で、転移性乳癌に対するアロマターゼ阻害剤の治療歴がある患者では26.8%にESR1変異が見られたとの報告があることから、アロマターゼ阻害剤の治療歴によって原発巣にわずかに存在していたESR1変異陽性のsubcloneがclonal expansionする機序などが推測される*46。アミノ酸エストロゲン非依存的なER活性をもたらし、内分泌療法抵抗性を示す事が多い。

乳癌内分泌療法への耐性機序としてのESR1変異

内分泌療法耐性機序としてのESR1遺伝子変異
/日本内分泌甲状腺外科学会雑誌2019
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjsts/36/2/36_96/_article/-char/ja/

ESR1 Y537S、D538G

アロマターゼ阻害剤の耐性変異と考えられている。一方でSERD(フルベストラントなど)はESR1変異があっても比較的効果が保たれるため、アロマターゼ阻害剤のかわりにフルベストラントを選択することを考慮しても良いのではないかと思われる(Y537Sなどの高活性型変異に対してはSERDも有効性が低いという報告もある*47)。

またmTOR阻害剤についてもエベロリムスについては次のような研究がある。転移性乳癌に関するBOLERO-2試験のcfDNA解析において、Y537SやD538Gを有する患者は生存期間が短いことが示されている(野生型32.1ヶ月、Y537S変異が19.98ヶ月、D538G変異が25.99ヶ月)*48。なお、この研究ではY537S変異は13.3%の患者に、D538G変異は21.1%の患者に見られたため、いずれも比較的頻度の高いESR1異常といえる。BOLERO-2試験は閉経後乳癌に対するエキセメスタンに対するエキセメスタン+エベロリムスの有効性安全性を検証した第3相試験*49

FANC family(FANCA、FANCC、FANCG、FANCL)

ファンコニ貧血関連遺伝子。
FoundationOne CDxにはFANCA、FANCC、FANCG、FANCLが収載されている一方、NCCオンコパネルにはこれらは収載されていない。

FANCD2

FANCD1はBRCA2の別名である(FANCD1=BRCA2)のでFANCD1についてはBRCA2の欄を参照。

FGFR family

増幅も変異も起こり得る。全固形腫瘍の7.1%に異常が見られるとの報告がある*50。この報告によると、66%が増幅で、26%が変異、8%が染色体構造異常(rearrangement)。FGFR1が3.5%、FGFR2が1.5%、FGFR3が2.0%。

FGFR1-3阻害剤のフチバチニブ(TAS-120)やほかにいくつかのFGFR阻害剤が候補。また、FGFR1増幅の場合はパゾパニブが有効との報告もある。ただしFGFRは小児がんなどで強いドライバー変異となるものがあるものの、成人では多くの場合はFGFR familyの異常がドライバー変異とは言えないケースが少なくないために、真に治療標的になり得るものかどうかは慎重な検討が望ましい。FoundationOne CDxでは、FGFR1増幅などがある場合でも臓器によってパゾパニブなどが推奨薬に載ったり載らなかったりするようである(胆膵癌や乳癌では推奨され、婦人科癌などでは推奨されない?)。今後のエビデンスの蓄積により推奨が変わる可能性がある。

FGFR1変異陽性胆道癌などで臨床試験がすでに先行している。

FLT3

治療薬の候補は乏しい。
グリテリチニブなどが候補となる可能性あり?
FLT3変異陽性大腸癌に対するレゴラフェニブなどの症例報告があるも、大腸癌そのものに対してレゴラフェニブが標準治療として確立されており、大腸癌以外のFLT3変異腫瘍に対してレゴラフェニブを推奨する根拠は乏しそう。
またFLT3増幅とKRAS変異を有するがんに関してソラフェニブが有効であったとの症例報告あり。

HGF

HGF増幅などが報告されることがあるが、現時点では有効な治療候補はない。

IDH1/IDH2

グリオーマや軟骨肉腫ではIDH1の変異が、急性骨髄性白血病や血管免疫芽球性T細胞リンパ腫においてはIDH2遺伝子の変異が、多く報告されている。神経膠腫においてはIDH変異および1p/19q co-deletionの有無がWHO分類上も必要な因子となっていて、分子診断が行われない場合はNOSとして確定診断ができない*51

血液腫瘍ではダサチニブなどの治療開発が進行中。

脳腫瘍

Diffuse astrocytoma、Glioblastoma、Oligodendrogliomaは2016年から分子マーカー(IDH変異および1p/19q共欠失)の有無がWHO診断基準に含まれている。IDH1変異を有する症例では予後が良好とされているが、現時点で標的治療はない*52

IDH1変異胆管癌

第3相ClarIDHy試験でIDH1変異胆管癌の二次治療におけるイボシデニブ(ivosidenib、AG-120)の有用性が、プラセボ群に比べて優位にPFSを延長したことが報告されている*53

IGF1, IGF1R, その他IGF family

胃癌や肝癌などで見られ、予後不良因子と考えられている。現時点で治療薬の候補は乏しい。

JAK1/JAK2/JAK3

JAK1は固形がんでは子宮体癌・乳癌・大腸癌・前立腺癌などで変異が報告されており、その変異頻度は全がんの1.78%とされる*54が、これはMSI-H固形がんでJAK1 frameshiftが高頻度に見られることに関連しており、子宮体癌や大腸癌でもMSSの場合はJAK1変異の頻度はそれほど高くはない*55。また同じ報告の中でTMBが高い癌でJAK1変異が多く見られることも報告されている。JAK1/JAK2変異を有する固形がんはPD-L1やINFγの発現が欠損して抗PD-1療法に耐性を有することが報告されている*56。JAK2/JAK3の変異はJAK1に比べて極めてまれ。

2020年9月時点では実用化された標的治療は存在しない。JAK1/JAK2阻害剤ルキソリチニブの有用性は造血器腫瘍(骨髄線維症、真性多血症)では認められているが、固形がんでは有効性の報告は乏しい。

JAK1阻害剤フィルゴルチニブは関節リウマチ等に対してFDAに承認申請が出されていたが、2020年9月時点では精液への悪影響の懸念などから承認が保留となっている*57

KIT

イマチニブ・ボスチニブ・ニロチニブ・ダサチニブなどが候補となる可能性あり(特に変異塩基によってニロチニブで悪性黒色腫での有効性報告あり)。
またレゴラフェニブが候補となることもある。

KRAS

下記に挙げた限られた塩基の変異以外にはほとんど治療効果がある選択肢は無い。一方で大腸癌などで標準治療となっているEGFR抗体はKRAS変異があると耐性となる。C-CAT調査報告でトラメチニブが推奨されることがあるが(学会報告レベル?)、積極的に有効と考える根拠は乏しい。

KRAS G12C

G12Cなど一部のKRAS変異は特異的治療薬の開発が進んでおり、AMG510が最も有力な候補となる。国内でも臨床試験が実施されている。
http://www.scrum-japan.ncc.go.jp/lc_scrum/trial/amg510/index.html

KRAS G12V

トラメチニブで有鉤例の報告あり?
現時点ではほとんどエビデンスなし。

LKB1

STK11の別名。STL11の欄を参照。

MDM2

p53パスウェイにあってMDM2の過剰発現がp53機能の不活化に関与する*58。MDM2がコードするMdm2タンパク質は別名E3ユビキチンリガーゼとも呼ばれる。予後不良因子とされているが、確立されつつある治療薬の候補は乏しい。

いくつか治験候補あり、そのうちの1つは2019年2月から国立がん研究センターでMASTER KEY projectの5つ目の医師主導治験として実施されている、内膜肉腫に対するMDM2阻害剤ミラデメタンの臨床試験。希少がんの1つである内膜肉腫は心臓や肺動脈付近に生じる予後不良の悪性腫瘍で約60-70%にMDM2増幅を伴う。
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0204/index.html

MET

METの異常は「MET増幅」と「METエクソン14スキッピング変異」を明確に区別して考える必要がある。特に後者はコンパニオン診断に基づく標的治療が実用化されている。

MET依存性腫瘍に関するレビュー(2020.6)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32514147/

MET増幅

METエクソン14に異常がなくMET増幅がある非小細胞肺癌についてはクリゾチニブが奏効したという2例の報告*59がある。なお、増幅はFISHでバックグランドに対して5倍以上の増幅と判定されている。クリゾチニブについては現在MET増幅およびMETΔex14の非小細胞肺癌に対する第2相試験が進行中*60

MET増幅進行大腸癌に対してカボザンチニブ単剤またはカボザンチニブ+パニツムマブ併用の比較第2相試験が行われている*61。本研究はBRAF V600が野生型であることが条件となる(BRAF V600E変異を要する大腸癌の場合はそちらに準じて標準治療を行うか、BRAF阻害剤+MEK阻害剤(±EGFR抗体)を選択する。

またMETエクソン14スキッピング変異に対して使用されるカプマチニブが、コピー数10以上のMET増幅に対してもFoudantionOne CDxで推奨されるとの話がある。

METエクソン14スキッピング変異(METΔex14)

クリゾチニブ

METΔex14変異を有する非小細胞肺癌に対するクリゾチニブの有用性が報告されている*62。第2相試験が進行中*63

Y1230C

METΔex14の非小細胞肺癌に対するクリゾチニブの耐性を生じる変異としてMET Y1230Cの報告がある*64

MET阻害剤(テポチニブ、カプマチニブ)

METΔex14変異を有する非小細胞肺癌に対しては、日本ではテポチニブ、米国ではカプマチニブが承認されている*65

テポチニブ(テプミトコ)

日本で承認されたテポチニブはVISION試験(第2相)で奏効率42.4%、走行期間中央値12.4ヶ月で、肺癌に対して世界で最初に承認されたMET阻害剤である*66

なお、非小細胞肺癌に使用する場合もArcher社のコンパニオン診断システムで検出したMETΔex14変異であることが必要である。

カプマチニブ

米国で承認されたカプマチニブは脳転移を有するMETエクソン14スキッピング変異陽性非小細胞肺癌に対してはGEOMETRY mono-1試験(第2相)で有効性が示唆されている*67。カプマチニブも近いうちに日本でも承認される見込み。

カプマチニブ投与前のMETΔex14変異の判定のためのコンパニオン診断薬はFDAおよび日本で共にFoundationOne CDxが承認されている*68

なお、テポチニブもカプマチニブもMET阻害剤のエビデンスは「EGFR変異陰性かつALK融合遺伝子陰性」の非小細胞肺癌に限って行われた試験に基づいている。「EGFR変異陽性」の場合はMET変異が陽性でもMET阻害剤の有効性が期待できるとは言えない。この場合はEGFR変異陽性腫瘍に基づいて治療を行うことが標準治療と考えられる。

MEN1

MLH1、MSH2、MSH6、PMS2(ミスマッチ修復遺伝子)

ミスマッチ修復遺伝子の代表的な4遺伝子*69。多くは1塩基置換だが、まれながらMLH1とMSH2には大きな領域の重複や欠失が見られることがある*70*71*72

MSSとMSH6

MSI検査やパネル検査を用いなくても組織標本の免疫染色でもdMMRの判断が可能であり、dMMRとMSIの一致率は非常に高いと考えられている。しかし(PCRベースの)MSI検査でMSSと判定がなされてもMSH6については異常を有することはあるので、濃厚な家族歴があるなど臨床的にリンチ症候群を疑う場合はMSSと判定されていても組織標本でMSH6の免疫化学染色を検討することを検討して良い。

リンチ症候群と大腸癌のBRAF変異変異

大腸癌において、MSI-HまたはMLH1発現消失を認めた場合であってもsomaticなBRAF V600E変異が陽性であればリンチ症候群はほぼ否定できる*73*74ため遺伝性腫瘍確定診断検査に進む必要性はかなり低い。つまりMLH1変異の場合は「BRAF変異陽性ならリンチ症候群は否定的」はほぼ確実に成り立つ。一方でPMS2発現消失を認めるリンチ症候群の場合はBRAF V600E変異が合併する事があり*75、必ずしも「BRAF変異陽性だからリンチ症候群は否定的」とは成り立たないため、注意が必要である。

候補薬剤

免疫チェックポイント阻害剤

ミスマッチ修復遺伝子機能欠損がある場合はdMMRであることから免疫チェックポイント阻害薬が強力な治療候補として検討されるが、保険診療としてペムブロリズマブを使用する場合はコンパニオン診断薬(MSI検査)での確定診断が必要となる。

ペムブロリズマブはMSI-H固形がんに対して臓器横断的に承認されているが、ニボルマブはMSI-Hでも固形がん全般ではなくMSI-H大腸癌に限って承認されていることに注意(2020年5月時点)。

フッカピリミジン系薬剤耐性

大腸癌での検討からMSIおよびdMMRでは5-FUやフッカピリミジン系薬剤の耐性が高頻度に見られることが知られている。また切除可能腫瘍である場合は転移再発などをきたす頻度が相対的に低い。このために術後化学療法による予後改善効果が得られにくく、リンチ症候群やMSI-Hの大腸癌では切除後の術後化学療法の必要性が散発性大腸癌に比べて相対的に低下することがメタ解析で示されている*76*77

臨床的にハイリスク群であることから術後化学療法を行う場合は、stageIIIに関してはNSABP-C07試験やMOSAIC試験での追加検討の結果からプラチナ系の併用が推奨される*78(つまりカペシタビン単独療法ではなくCAPOX療法を検討する)。stageIIでは術後化学療法は推奨されない。(遺伝性大腸癌診療ガイドライン2016年版)

イリノテカン

小規模ながら、散発性MSI-H大腸癌ではイリノテカンの奏効率が高いとの報告がある*79が、一般に散発性MSI-H大腸癌自体がMSS大腸癌より予後良好であることから、この研究のみでイリノテカンを推奨することがコンセンサスを得ているとは言えない。

アスピリン(予防的投与)

CAPP2試験*80でリンチ症候群における長期アスピリン療法が大腸癌および大腸癌以外のリンチ症候群関連腫瘍を抑制したということが報告されたが、これはアスピリンを大量(600mg/day)に投与した試験なので日本人集団には外挿しがたい。その他に後方視的研究がいくつかなされている。低用量アスピリンがリンチ症候群において発癌を抑制するかどうかは現在臨床試験が進行中。

遺伝性腫瘍(リンチ症候群、家族性非ポリポーシス大腸癌:HNPCC)

生殖細胞系列にミスマッチ修復遺伝子(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2)のいずれかの異常を生じた場合はリンチ症候群の原因遺伝子として非常に重要。特にMLH1とMSH2は浸透率が高い。この4つのほかにEPCAMやMSH3もリンチ症候群の原因となり得る。変異の頻度はMLH1(32%)、MSH2(39%)、MSH6(14%)、PMS2(15%)と報告されている*81

開示推奨度は最上級のAAA、T-only panelでのgermline testの必要性も◎であり、積極的に遺伝カウンセリングを考慮する。特に消化管癌、子宮体癌、卵巣癌などでは高頻度である。ほかに胆道癌・膵癌・腎癌・尿管癌・脳腫瘍・皮膚腫瘍などの関連が示唆される。遺伝性大腸癌診療ガイドラインでは、消化管癌と婦人科癌の他に腎盂・尿管癌の1-2年毎のサーベイランスを提案しているが、そのサーベイランスに関してどの方法(尿定性?細胞診?)などは定まったコンセンサスはない。

リンチ症候群を疑う場合はgermlineの確定検査は保険適用となる(ただし保険診療で検査実施できる施設には条件がありどの医療機関でも実施できるわけではない)。

ミスマッチ修復遺伝子異常ではリンチ症候群が非常に注意を向けられがちだが、他にターコット症候群(MLH1、PMS2遺伝子異常)やムア・トレ症候群(MSH2遺伝子異常)もある。特にターコット症候群は大腸癌だけでなく脳腫瘍・神経膠芽腫を合併することがある。

原因遺伝子の違い

リンチ症候群における大腸癌の発生リスクはMLH1とMSH2はほぼ同等であるが、大腸以外ではMSH2で尿路上皮癌など大腸癌以外のリスクが高いとされている*82

MSH6変異例では大腸癌のリスクがMLH1やMSH2より低いが子宮体癌のリスクはMSH6のほうが高い。

PMS2変異例は発癌リスクはやや低いとする考察もあるが、そもそも発見される頻度がやや少なくデータが乏しい。なお、PMS2変異例ではBRAF変異陽性でもリンチ症候群を否定できないことに注意(後述)。

リンチ症候群関連腫瘍の原因遺伝子別の70歳までの発癌頻度*83。これは米国のデータであることから日本人集団に比べて胃癌などの発生頻度が大きく異なることに注意が必要。

MLH1MSH2MSH6PMS2一般集団
大腸癌41%48%10-22%15-20%5.50%
子宮体癌18-54%21-30%16-71%15%2.70%
胃癌3-6%0.2-7%3%以下1%以下
卵巣癌13-20%9.5-24%1-11%1.60%
腎盂尿管癌0.2-2.9%2.2-12%1%未満1%未満

MLL2

小児白血病やBurkittリンパ腫のような高悪性度(aggressive)の造血器腫瘍に関与する。現時点で確立された標的治療なし。

ERBB2-TKI耐性

HER2陽性腫瘍細胞で増殖にMLL2が関与しているとの話があり、ラパチニブ耐性に関与するとの報告がある*84

MUTYH(MYH)

常染色体劣性遺伝の遺伝形式をとるため、両親の両方から病的アリルを譲り受ける必要がある?

遺伝性腫瘍(MYH関連大腸癌、家族性大腸腺腫症)

MYB-NF1B fusion

腺様嚢胞癌に高頻度に見られ(50〜80%)、とくに唾液腺癌などの頭頚部癌に特徴的。予後不良因子、特異的治療は無し。

NF1/NF2

NF1の変異についてはGlioblastomaや一部の脳腫瘍*85および悪性黒色腫*86ではトラメチニブなどのMEK阻害剤が有効との報告がある。ただし有効であった症例報告は生殖細胞系列にNF1変異を持つ神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)の症例なので、体細胞変異のみのNF1変異を検出したほかの臓器では推奨とは考えにくい。(2020.9)

神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)に関連する腫瘍の場合は二次的所見の可能性を考慮する。脳脊髄腫瘍(視神経膠腫・毛様細胞性星細胞腫・脊髄腫瘍など)、消化管間質腫瘍(GIST)、褐色細胞腫、悪性末梢神経鞘腫瘍などがこれに含まれる。

NF2に伴う遺伝性疾患としては多発性髄膜腫や前庭神経鞘腫を来す神経線維腫症2型があるが、極めてまれ。どちらかというとめまい・平衡機能障害など前庭神経機能に異常を来す疾患として知られている。歴史的にはNF1異常(レックリングハウゼン病)の部分症と考えられていた時期が長かった。

NRAS

悪性黒色腫での報告から免疫チェックポイント阻害剤、MEK阻害剤(トラメチニブビニメチニブなど)が治療候補となる。ただしビニメチニブに比べるとトラメチニブの単剤のエビデンスは乏しく、優先度はビニメチニブが上(推奨の対象や患者申出療養の対象となるかどうかは症例による)。MEK阻害剤で有用性が示されているのはNRAS変異の中でもQ61K変異が多い。

NRAS変異悪性黒色腫に関するレビュー
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4830486/

NRAS変異自体は悪性黒色腫で予後不良因子の1つと考えられている。

NTRK(NTRK1、NTRK2、NTRK3)

成人では全癌腫で1%程度が該当するとされているが、小児癌では検出頻度が高い。エヌトレクチニブの良い適応となる。ラロトレクチニブ(本邦未承認)も有用だがラロトレクチニブは本邦未承認。FoundationOne CDxはラロトレクチニブに対してもコンパニオン診断の承認申請を提出した*87。(2020.10)

エヌトレクチニブはFoundationOne CDxがコンパニオン診断薬として承認されているため、NCCオンコパネルでNTRK1変異などを検出した場合は保険適用とならない(コンパニオン診断薬であるFoundationOne CDxで変異を検出する必要がある)。また、NCCオンコパネルにはNTRK3 fusionが検出できないなどの問題もある(2020年7月現在)。

以前はNTRK1は遺伝性腫瘍に関連する二次的所見として考慮すべきACMG遺伝子リストに含まれていたが、2019年から削除されたとのこと。

p16過剰発現

免疫染色で見る因子であり遺伝子変異ではないが、頭頚部癌においてHPV関連腫瘍かどうかを推定するのに有用な因子。p16陽性であればHPV関連腫瘍であると考えられる。中咽頭癌では早期からp16陽性と予後良好の関連が示されており*88、また非中咽頭癌でもp16陽性が予後良好であることが示された*89。これらの研究ではHPV-DNAのPCR法との一致率は級内相関係数0.80とされておりある程度は信頼性がある検査と考えられているが、1割程度に不一致が見られる。

中咽頭癌などではp16の有無によってTNMのstagingも基準が変わるので非常に重要な因子である。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshns/28/1/28_9/_pdf /頭頸部外科2018
https://ganjoho.jp/public/cancer/mesopharynx/treatment.html /がん情報サービス

PDGFR

パゾパニブはVEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3、PDGFRα、PDGFRβ、c-Kitのリン酸化阻害をするため候補となりえる?が、GISTではPDGFRα変異に対するパゾパニブは(Kit変異陽性のものに比べて)効果が期待できないとの報告もある。

PD-L1

PD-L1増幅

免疫染色PD-L1陽性は非小細胞肺癌のほかに多々の腫瘍で有効性が確認されているが、PD-L1増幅(amplification)で有効かどうかは症例報告レベルとなる。増幅と免疫染色は一致する傾向にあるが同値ではないのでPD-L1増幅があった場合には免疫染色も確認してみる価値がある。患者申出療養にエントリーできる可能性がある(※患者申出療養は本来はゲノム異常に基づいて判断されるものであるので免疫染色の結果まで求められるかどうかはわからない)。

PD-L1 rearrangement

PD-L1 rearrangementを有し免疫染色でもPD-L1高発現があった卵巣癌がペムブロリズマブの投与によってCRとなった症例報告がある*90。rearrangementによってPD-L1の発現が異常亢進したことが有効性の前提となったと考えられるので、PD-L1の高発現を伴わないPD-L1 rearrangementでは免疫チェックポイント阻害剤が有効かどうかは定かでなく、免疫染色での裏付けを確認することが望ましい。

PIK3CA

PI3K/AKT/PTEN経路に存在し、ER陽性乳癌の40%で変異が見られる。このパスウェイの活性化は乳癌のSERD以外の内分泌療法に対する耐性を生じさせうる(これに対してmTOR阻害剤が内分泌療法と併用される)。そのほかにアポトーシスとの関与、Ki67低下への関与、などが示唆されている。

PIK3CA変異があっても必ずしもmTORの活性化は生じていないことが示唆されている*91。PI3K経路の遺伝子異常を有する主要に対してはC-CATやその他のデータベース参照結果からはmTOR阻害剤が推奨されることは多いが、PI3K系に対するmTOR阻害剤(エベロリムス)の第2相試験がネガティブであったことなどからPI3KはmTORパスウェイを阻害しても抗腫瘍効果を発揮できないのではないかとの意見もある。

上記のエベロリムスの結果に対して、第3相SOLAR-1試験の結果からアルペリシブは一定の有効性が期待されている。ESMO2020の時点の発表*92では、ホルモン感受性乳癌に対するフルベストラントvsフルベストラント+アルペリシブを比較したところ統計学的有意差は無かったもののOSは30.8→39.2ヶ月と大きく延長しており、今後の長期フォロー解析の結果が待たれるところ。ただしアルペリシブは基本的に単独ではなくフルベストラントなどの内分泌療法と併用で効果を示すものであり、「ホルモン感受性乳癌以外の固形がん」に対する治療効果については慎重に判断する必要がある。ER依存性腫瘍以外に対するアルペリシブの有効性については、PIK3CA変異またはPTEN lossを有するTNBCのnabPTX±アルペリシブの第3相EPIK-B3試験が進行中*93

他に治験候補としてAKT阻害剤などが候補となる可能性があり、PIK3CA変異乳癌に対するpan-AKT阻害剤MK-2206(AKT1〜AKT3を阻害)の第3相試験などが進行中*94

ダブルPIK3CA変異

進行ER陽性乳癌に対するタセリシブ+フルベストラントを評価した第3相試験SANDPIPER試験の結果から、PIK3CA変異の数が1つの場合はORRに有意差がなかったがPIK3CA変異が2つ以上になる場合は奏効率が有意に高まる(プラセボ群に対して8.7→30.2%)と報告された*95*96。その基礎研究的な裏付けとして2019年にScienceに掲載された単一細胞シークエンスの結果からシスで同一アレルに2つ以上の変異が入った場合にPI3Kα阻害剤の感受性が増幅されることが報告されている*97

抗HER2療法とPIK3CA

ASCO2020で発表されたKATHELIN試験(HER2陽性乳癌の標準術前化学療法でnon-pCRにT-DM1を追加した試験)のサンプルゲノム情報追加解析から、PIK3CA変異の有無は抗HER2療法の有効性には差がない可能性を示唆する結果あり。

EGFR-TKIとPIK3CA

EGFR変異陽性肺癌に対するEGFR-TKI治療中の獲得耐性を生じる二次的変異としてPIK3CA変異が見られることがある。一方で初期治療前から
EGFR変異とPIK3CA変異が両方見られる場合のPIK3CA変異はEGFR-TKI耐性には関与しないということも言われており、初期治療前からEGFR変異とPIK3CA変異が並存している場合はEGFR-TKIの投与を検討する。

PI3K/AKT/mTOR経路の変異を有する小細胞肺癌

臓器を小細胞肺癌に限定して、LC-SCRUM-Asiaでゲダトリシブの第2相試験が実施されている。
http://www.scrum-japan.ncc.go.jp/lc_scrum/trial/pi3kaktmtorgedatolisib_pf-05212384ii/index.html

POLE、POLD1

hypermutationに関与し、免疫チェックポイント阻害剤の奏効予測因子となり得る。大腸癌などでよく研究されている。

MSK-IMPACTのデータを用いた悪性黒色腫以外の皮膚腫瘍での探索的研究では、POLEとPOLD1の変異がある場合は免疫チェックポイント阻害剤を使用した際のOSが有意に長いとされており、またMSSやMSI-Lでも効果が見られると報告されている*98。大腸癌においてもPOLEとPOLD1の機能欠失変異についてはhypermutationを惹起するため免疫チェックポイント阻害剤を検討すべき因子と考えられている*99。子宮内膜癌での研究では、POLE変異は免疫チェックポイント阻害剤の奏効を予測する有望なバイオマーカーであると報告されている*100

一方で、POLEとPOLD1に関連があるはずのPOLD2およびPOLD3などはhypermutationの原因遺伝子であるかどうか、免疫チェックポイント阻害剤の奏効予測バイオマーカーであるかどうかについてはこれまでコンセンサスには至っていないし、NCCオンコパネルおよびFoundationOne CDxの解析対象遺伝子にも含まれていない(2020年5月現在)。

POLEとMSIの関連

大腸癌の網羅解析の報告では、POLE変異が見られる場合にはTMBは高値を示すが、その症例のほとんどMSI-HおよびCIMP、MLH1サイレンシングは陰性である*101。また上述のMSK-IMPACTのデータでもPOLEまたはPOLD1の変異がある場合はMSSやMSI-Lでも免疫チェックポイント阻害剤の有効性は高いとされている。MSIとは別の機序によるTMB増加要因と考えられる*102

PTEN

がん抑制遺伝子で、PI3K/AKT/mTOR経路に関与。乳癌(luminal typeで4%、HER2で2%)など。C-CATレポートではエベロリムスが推奨されることはあるが、有効性を示唆するエビデンスが乏しく推奨されないことが多い。

PTEN loss

PTEN欠損去勢抵抗性前立腺癌ではAKT阻害剤イパタセルチブを抗アンドロゲン薬アビラテロンに上乗せすることでPFSの延長がある*103

PTEN lossについてもエベロリムスが候補ではないかと推奨されることがあるが、乳癌ではBOLERO試験(のいずれか)のサブ解析でPTEN変異の有無にてエベロリムスの有効性の差がなかったことからPTEN変異の有無はエベロリムスのバイオマーカーとしては推奨しにくいと考えられている。骨肉腫ではソラフェニブ+エベロリムスの治療が検討されたことがあるが、これは骨肉腫全般に対する試験であってPTENのバリアントによる有効性を示したものでは無い。ただし乳癌などエベロリムスが保険承認されている臓器であれば(ゲノム診療としてではなく)標準治療として行うことは推奨される。

なお、PTENはがん抑制遺伝子であるのでPTEN lossが臨床的に影響を来すのはhomoのlossの場合のみではないかと考えられる。(FoundationOne CDxはheteroのlossは拾えずhomoのlossのみが検出されるという話あり)

乳癌

PIK3CA/AKT1/PTEN変異サブグループのトリプルネガティブ乳癌に対してAKT阻害剤イパタセルチブが第2相試験の結果から有望*104と考えられおり、第3相試験が進行中*105で2022年頃終了見込み。

遺伝性腫瘍(コウデン症候群、PTEN Hamartoma Tumor Syndrome)

生殖細胞系列のPTEN異常(欠失または機能喪失性変異)で生じる疾患はPTEN過誤腫症候群(PTEN Hamartoma Tumor Syndrome)とも称される一連の疾患群があるが、そのうちの代表はコウデン症候群(Cowden症候群)である。コウデン症候群は、皮膚・粘膜、消化管、乳腺、甲状腺、中枢神経、泌尿生殖器などに良性の過誤腫性病変が多発する。甲状腺癌(髄様癌>乳頭癌。他はまれ)、乳癌(生涯85%と高頻度)、子宮内膜(生涯で28%)には30-40歳ごろまでに良性or悪性の腫瘍を生じる。20代後半までに巨頭症、外毛根鞘腫、乳頭腫性丘疹、生殖器奇形、知的障害を生じるが必発の症状ではない。Bリンパ球の成熟障害により自己免疫疾患の発症と関連するとも指摘されている*106。なお、コウデン症候群のうちPTENに異常を認めるのは80%程度とされる。国内患者数は500-600人で比較的まれ。
https://www.shouman.jp/disease/html/detail/12_04_012.html

開示推奨度はAA、germline testの必要性は△で家族歴や本人の臨床所見などから疑わしい場合には考慮する(そうでない場合は必須ではなさそう)。

RAD51D

RAD51D機能欠失変異はPARP阻害剤の有効性につながる。一方でBRCAと同じようにreversion変異でRAD51Dの機能が回復するとPARP阻害剤に耐性となる*107

卵巣がんに関連する。開示推奨度はAで、germline testの必要性は◎となっている。

なお、FoundationOne CDxでRAD51Dのframeshift(とくにコドン1〜8程度のリード領域のかなり前の部分に見られるもの)は日本人特有のSNPを拾い上げている偽陽性であることがしばしばあるので、これは有意な所見とは考えるべきではない(NCCオンコパネルではこの問題は生じないようである)。中外製薬によると、このRAD51D frameshiftの問題は修正予定とのこと。

RAF1

エビデンスは乏しいながら、レゴラフェニブとソラフェニブが治療候補として推奨されることがある。TAPUR試験ではGroup13でRAF1変異に対してレゴラフェニブが推奨されている*108

またRAS/RAFよりもシグナル顆粒でコビメチニブの有効性を示すデータがある*109。コビメチニブは本邦未承認だが国内でアクセス可能なMEK阻害剤ではトラメチニブビメニチニブが候補となる。トラメチニブは患者申出療養の候補。

RB1

網膜芽細胞腫の原因因子。二次的所見としては若年での家族歴がほぼ必発なので家族歴がなければ除外される。

RECTOR

推奨治療なし。

RET

甲状腺髄様癌の場合

甲状腺髄様癌の場合は先天的なRET変異が高頻度(甲状腺髄様癌の30%)に見られるが、この変異が体細胞変異であれば甲状腺半側切除に対して生殖細胞系列からの変異であれば甲状腺全摘が推奨される(したがってRET変異の有無で術式が変わる)。

甲状腺髄様癌の診療指針については「多発性内分泌腫瘍症診療ガイドブック」などを参照し専門医にコンサルテーションを行うこと。

RET変異

RET融合遺伝子

RET融合遺伝子については第2相試験の結果からレンバチニブ*110バンデタニブ*111が候補となる。ほかに、症例報告レベルではアレクチニブの報告*112がある。RET融合遺伝子ではカボザンチニブも治療候補となる*113

RET異常(点突然変異または融合遺伝子)でカボザンチニブバンデタニブに不応となった後治療としてはESMO2019で発表されたRET点突然変異またはRET融合遺伝子を有する甲状腺癌と非小細胞肺癌を対象としたLIBRETTO-001試験の結果からLOXO−292(セルペルカチニブ)が候補となり得る*114が、本邦では未承認である。LOXO-292(セルペルカチニブ)については本邦でも臨床試験が進行中(NCT03157128)。有効性の報告は融合遺伝子に対するものが多く点突然変異は含まないものがあるので解釈に注意。

なお、この試験で検討されたRET異常の甲状腺癌では、RET変異143例中57%はM918Tで8%はV804M/Lであり、またRET融合遺伝子27例でRET融合のパートナー遺伝子は、CCDC6が52%、NCOA4が33%であった*115。ほかにKIF5Bなども報告が多い。

家族性腫瘍(MEN2型)

RETの機能獲得型変異はMEN2型の原因遺伝子。すなわち甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、副甲状腺を主たる症状とする常染色体優性遺伝性疾患である。上記3症状を示す2A型と、甲状腺髄様癌・褐色細胞腫・マルファン症候群、舌や口唇の粘膜下神経腫、腸管神経節腫などを示す2B型がある。2A型で浸透率の低い亜型は甲状腺髄様癌のみを示すことがあり、一方で甲状腺髄様癌の生涯浸透率はほぼ100%であるので、これは家族性甲状腺髄様癌(familial medullary thyroid carcinoma : FMTC)と呼ばれることもある。なお常染色体優性遺伝形式を取るものの、偶発的にRET変異が見つかる場合には父由来染色体の頻度が高いと言われている?
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjsts/32/4/32_267/_html/-char/ja

MEN2型の97%にRET遺伝子異常が見られる。2016年から甲状腺髄様癌に対するRET遺伝学的検査が保険収載されており*116、また現在の診療ガイドラインでもRETの評価が推奨されている。この場合は遺伝カウンセリングも考慮する。甲状腺髄様癌患者本人ではない「血縁者」もRET遺伝子異常を引き継いでいる場合は発がんリスクが高いのでRET遺伝子異常の有無を確認して変異があれば定期サーベイランスを受けることが望ましいが血縁者に対するRET遺伝学的検査は保険対象外。

RETの変異コドン別

欧州のガイドラインでは変異コドン別にもある程度のリスク分類がされている*117。2015年には米国でもガイドラインが出て変異コドン別のリスクが記載されるようになった*118。本邦のものではないことに注意。
コドン609・768・790・791・804・891の変異が低リスクで甲状腺全摘時期についてはコンセンサスはない。MEN2Aの一部およびFMTCのすべて。
コドン611・618・620・634が中リスクで5歳までに甲状腺全摘をすべき。MEN2Aの一部。
コドン918・883・922の変異が高リスクで、甲状腺全摘の時期は生後1ヶ月までが望ましく、遅くとも生後6ヶ月までに実施する。副腎褐色細胞腫にも注意する。
開示推奨度はAAA、germline testの必要性も◎。

ROS1

ROS1融合遺伝子を有する非小細胞肺癌でクリゾチニブ、全臓器でエヌトレクチニブが承認されている。オンコマインDx Target TestマルチCDxシステムがコンパニオン診断薬として承認されている*119

SMAD4

有望な治療候補なし

TGF-βシグナルに関連し、膵癌のBIG4(KRAS、CDKN2A、TP53、SMAD4)の一つ。膵癌では18番染色体長腕のlossが高頻度に見られる。
germlineの変異であれば若年性ポリポーシス症候群(Juvenile polyposis)に関連するが、表現型の浸透率は高くはない?

STK11(LKB1)

がん抑制遺伝子STK11はLKB1の別名。細胞周期やアポトーシスに関与する。HPV関連子宮頚癌で高頻度に異常が見られるとの報告もある*120

現時点で確率された標的治療薬なし。STK11はmTORC1シグナル経路に関連するが、これまでの前臨床・早期段階の検討からmTOR阻害剤の有用性は乏しい*121。免疫チェックポイント阻害剤や放射線治療の耐性に関与するとの報告がある(後述)。

免疫チェックポイント阻害薬耐性

KRAS変異肺癌に関する検討で、STK11(LKB1)変異を有する場合は抗PD-1療法の奏効率が有意に低かったとの報告がある(対照群が35.7%に対して7.4%)ことから、抗PD-1抗体に対する耐性に関与している可能性がある*122*123。肺癌のプラチナダブレットへのペムブロリズマブ上乗せ効果も得られにくいとの報告がある*124。ただし、いずれの報告も小規模の検討であることから、現時点でSTK11変異陽性の場合に免疫チェックポイント阻害剤の投与を差し控えるべきと言えるほどの強い根拠ではなさそう。

遺伝性腫瘍(Peutz-Jeghers症候群)

STK11変異はPeutz-Jeghers(ポイツイエーガー)症候群に見られ、全消化管の過誤腫性ポリポーシス、粘膜や四肢末端の色素斑を特徴とし、消化管癌・膵癌・子宮頚癌・乳癌に関連する。神経系腫瘍を合併するターコット症候群(Turcot症候群)、消化管ポリポーシスと口腔内乳頭腫に甲状腺癌・乳癌・泌尿器系腫瘍を合併するコウデン症候群(Cowden症候群)とも関連する。

TERTプロモーター変異

中枢神経腫瘍や肝癌などの発症に関与するなど、多くの発癌に関与しているが有望な治療候補なし。エリブリンが有効な可能性あり*125

TP53

現状ではTP53変異に対する有望な治療薬はなさそう。C-CAT調査報告でドキソルビシンが提示されることがあるが、特定のTP53異常を標的とした前向きの検討で検証されたエビデンスはなく、がんゲノム医療としてTP53変異をもとにドキソルビシンを推奨する根拠は乏しいと思われる。

TP53とRB1の共変異

TP53とRB1の両者に機能欠失変異がある場合(言い換えればp53とRbの両者が不活性化されている場合)は未分化癌や小細胞癌などへの形質転換などを生じることが少なくなく、薬物療法の抵抗性や腫瘍の悪性度が高いことがしばしばある(肺癌の小細胞癌への形質転換などの例*126)。

遺伝性腫瘍(リフラウメニ症候群:Li-Fraumeni syndrome)

生殖細胞系列にTP53の病的変異のある場合はリ・フラウメニ症候群となり、様々なLFS関連腫瘍を発症する(軟部組織肉腫、骨肉腫、閉経前乳がん、脳腫瘍、副腎皮質癌、白血病、細気管支肺胞上皮がん)。30歳までに50%が、50歳までに60%が発癌するという報告もある。だが、実際にはTP53変異があっても全てが臨床的に意味のある変異というわけではなく臨床所見や家族歴が当てはまらないことからリ・フラウメニ症候群には該当しないことが少なくない。

古典的なリフラウメニ症候群は世界で400家系ほどしか報告されていなかったのに対してTP53の変異は2万人に1人程度見つかると言われており、偶然に発見されるTP53変異はリフラウメニ症候群ほどの病的な表現系を示さないということが示唆されている。またある報告*127では単遺伝子検査で拾い上げられるTP53変異に比べて多遺伝子パネル検査で拾い上げられるTP53変異は若年での発癌が少ないなど遺伝性腫瘍としての表現型が現れにくい傾向があったと報告され、このことから多遺伝子パネル検査で拾い上げられるTP53変異には臨床的には意義が低い(腫瘍発生率が乏しい)ものが含まれている可能性があるという意見がある*128

古典的な診断基準

リ・フラウメニ症候群については古典的LFS症候群やChompret症候群という診断基準がある*129。変異アレル頻度が50%近くても、二次的所見と判定するためには家族歴での30歳以下で発症などの臨床的表現型が必要。

リフラウメニ症候群と放射線治療

リフラウメニ症候群の場合は放射線治療が晩期の二次性発癌を誘発するために根治的放射線治療は極力避ける必要がある*130。たとえば乳癌診療ガイドライン2018では、術後に放射線治療が必要となる乳房部分切除よりも乳房全摘が推奨される旨が明記されている*131。なお、晩期毒性よりも喫緊の症状緩和が優先されるような疼痛緩和目的の放射線照射についてはこの限りではない。

古典的な「狭義のリフラウメニ症候群」と「リフラウメニ様症候群」

古典的には狭義の「リフラウメニ症候群」と類縁疾患の「リフラウメニ症候群」が区別されていて、前者は「発端者が 45 歳以前に肉腫と診断され、かつ一度近親者に45歳未満に診断されたがん患者があり、かつ一度もしくは二度近親者に45歳未満のがん患者あるいは年 齢を問わない肉腫患者がある」と定義され、肉腫・乳癌・脳腫瘍・副腎皮質癌・白血病を有する場合はリフラウメニ様症候群とされていたが、最近ではその両者は区別されないことも増えている。

VEGFA

ソラフェニブなどのマルチキナーゼTKIを考慮。

VHL

腎癌の60-70%を占める淡明細胞癌で58%にVHL異常が見られたとの報告がある*132。VHL異常がある場合は腫瘍のHIF分解作用が低下しVEGFなどの腫瘍増殖に関与する因子が過剰生産される。

生殖細胞系列にVHL異常が見られる場合は、Von Hippel-Lindau病の原因遺伝子。常染色体優性遺伝性疾患。Von Hippel-Lindau病では腎癌、膵腫瘍、精巣上体腫瘍、褐色細胞腫(褐色細胞腫はII型のみ)、中枢神経や網膜の血管腫などが指摘されており、特に腎細胞癌(30代後半ごろに発症)と膵腫瘍は生命予後を左右する因子。ただし、ESMOの推奨では腎癌で見つけられたVHLは大部分が体細胞変異なので腎癌に関してはVHLは生殖細胞系列と考える必要はあまりない(参考記事)。

開示推奨度はAAA、germline testの必要性も◎。

WT1

ウィルムス腫瘍(小児の腎芽腫)に関連するほか、急性骨髄性白血病で過剰発現が高頻度に見られる。WT1陽性腫瘍は予後不良である。

現時点では確率された標準治療は無し。将来的にWT1ペプチド癌ワクチンが実用化されることが期待されている。

レビュー https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3987486/


Loss of Heterozygousity / Heterozygous loss / LOH

広範囲にLOHが見られるものは相同組換え修復異常(HRD)の指標とされており、多発性骨髄腫*133や卵巣癌*134などでPARP阻害剤の治療標的の候補となることが報告されている。腹膜癌でもPARP阻害剤が有効との報告もある。一方でPARP阻害剤の奏効予測因子にはなるが、PARP阻害剤を投与したときの予後に差はなく、予後予測因子にはならないとの報告もある*135

なお、FoundationOne CDxのLoss of Heterozygousity scoreのカットオフ値は16%となっている(2020年4月)。

TMB-H

UMIN000033182などTMB-Hに対するペムブロリズマブの多施設共同第II相試験が進行中(これはリキッドバイオプシーでのTMB-Hが対象)。

2020年4月にFoundationOne CDxのTMBスコア10以上に対するペムブロリズマブがFDAに承認申請された*136。これはESMO2019で発表されたKEYNOTE-158の追加解析による。MSI-H固形がんを除外すると、TMB-H群では奏効率が27.1%に対して非TMB-H群で奏効率が6.7%にとどまった。

追記(2020.6.17)FDAがこのTMB 10mut/Mb以上についてペムブロリズマブを承認したと報じられた。
https://seekingalpha.com/news/3583617-fda-oks-mercks-keytruda-for-second-application-based-on-biomarker

なお、この研究は「免疫チェックポイント阻害薬が比較的よく効きそうな臓器の腫瘍」が多く含まれていることやTMBがギリギリ10というよりは十分に高い症例が多いことから、解釈には注意が必要。また、この解析では10種類の癌腫が対象とされており、小細胞肺癌(34.3%)、子宮頚癌(16.2%)、子宮体癌(15.2%)、肛門管癌(14.1%)などがTMB-H群に多く見られた一方で、非TMB-H群では悪性中皮腫・神経内分泌腫瘍・唾液腺癌などが多く含まれていた。TMB-H群には免疫チェックポイント阻害剤の有効性が期待できそうな癌腫が多く含まれていることについて疑問を呈する声もあるようである。

一方で、ESMO2019でなされた非小細胞肺癌でTMB-Hはペムブロリズマブの治療効果の関連について検討した発表*137から、奏効予測バイオマーカーではないとのリリースもされている*138

TAPUR試験ではTMBのカットオフ値は9で乳癌は良い結果を出している。
ASCO2020でもKEYNOTE-119の付随研究から再発TNBCでTMB 10をカットオフ値としてペムブロリズマブが有効であると報告されている*139が、その内訳を見るとORRはTMB 10未満が12.7%に対して14.3%となっていてその差は微々たるものであり、TMBが有望なバイオマーカーとは言いがたい印象。また、この報告ではPFSとOSはむしろ短い傾向(1.24→1.14ヶ月、0.81→0.58ヶ月)であった。

FoundationOne CDxのTMBカットオフ値

従来はFoundationOne CDxのTMB-Hはカットオフ値を20としていたが、このKEYNOTE-158の追加解析を始めとしていくつかの研究はカットオフ値を10と定義して解析を行っているため、今後はFoundationOne CDxのTMBスコアカットオフ値は10になってゆくものと推測される。

ネオアンチゲンを作るのはエクソン部分だが、実臨床ではFoundationOne CDxのTMBスコアなどイントロンも含めたTMBによってエビデンスが作られているのが現状である。日本ではTMB-Hに対してMSI-Hのエビデンスを外挿するのは現時点では時期尚早と思われる。

2019.11.13初稿2019.11.15一部追記2020.04.21一部追記はじめにがんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査の普及に伴ってMSIが治療選択に関わるバイオマーカーの一つとみなされるようになり、また臓器にとらわれないMSI-H固形がんという疾患概念も一般的になってきました。悪性腫瘍はゲノム異常の蓄積によって引き起こさ…

DNA damage response gene alterations are associated with high tumor mutational burden and clinical benefit from programmed death 1 axis inhibition in non-small cell lung cancer.
https://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/JCO.2019.37.15_suppl.9077

FoundationOne CDxの「TMB:Cannot be determined」について

FoundationOne CDxのTMBは正しく判定されず「Cannot be determined」と報告されることがあるが、この理由にはいくつかのものが挙げられる。代表的なものを下記に挙げる。


AmplificationのEquivocalのカットオフ値

FoundationOne CDx Technical Informationでは、ERBB2のカットオフ値は5、その他の遺伝子ではカットオフ値は6となっている*141


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