レ点腫瘍学ノート

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炎症性腸疾患患者に対する免疫チェックポイント阻害剤

このページでは、クローン病(Crohn病)や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)を有する患者に対する免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の投与は安全に行えるかについて記載しています。

背景

JCOに掲載された文献

それでは、逆にもともとIBDを有する患者に対してニボルマブやペムブロリズマブなどの抗PD-1抗体を投与するのはどうでしょうか。どの程度のリスクがあり、その治療は医学的に妥当でしょうか。実はIBD患者に対するICIの投与経験に関する報告はそれほど多くはありません。しかし、JCOにまとまった文献があったのでそれを見てみることにしましょう。

https://ascopubs.org/doi/pdf/10.1200/JCO.19.01674

この文献は102人のIBDを有する担癌患者に対するICI投与の後方視的観察研究で、投与されたICIは抗CTLA-4抗体(7%)、抗PD-1抗体(83%)、またはその両者の併用(10%)です。気をつけて読まなければいけないのは日本の状況との違いで、患者の9割が白人(アジア系人種に比べて白人はIBDが非常に多く、また内訳も相対的に潰瘍性大腸炎が少なくクローン病が多い)であること、また患者の半数近くが悪性黒色腫であることなどに注意が必要です。本邦ではクローン病と潰瘍性大腸炎の患者数比率は1:3*8ですが、本研究はほぼ1:1です。NSAIDの利用率が3割を超えているのもかなり高い印象を受けます。IBDの状態は落ち着いている患者が大部分でした(これは当然と言えば当然で、活動性IBDがある状態でICIの投与を検討するのはあまりにハイリスクです)。

結果

102人中42人の患者が消化管irAEをきたし(irAE発症までの期間の中央値は62日)、その半分がICIの投与中止を余儀なくされています。41人は下痢をきたしましたが、半分はgrade 3-4の下痢で、76%がステロイド投与を、また29%はインフリキシマブかベドリズマブといった生物学的製剤を投与されています。IBDを有さない患者は全gradeで消化管irAEの発生割合が11%(これも随分高い値という印象ですが)だったことに比べると、IBD患者ではやはりirAEの頻度はかなり高くなっています。4人で消化管穿孔が見られました。全体として抗CTLA-4抗体でより消化管irAEの頻度が高かったものの、抗PD-1/PD-L1抗体も安全とは言えません(オッズ比3.19)。

統計学的な検定はされていないもののIBDの活動性が高かった症例では消化管irAEがより強く生じたとも言及されています。IBDの既往がある症例、とくにそのIBDの活動性が強い場合には、ICIの投与は慎重に判断する必要がありそうです。最終的には、IBDが増悪するリスクを背負ってもICIを投与することによる治療効果が期待できるのかということを天秤に掛けて臨床的に判断すると言わざるを得ません。

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*1 N Engl J Med 378:158-168, 2018
*2 JAMA Oncol 2: 234-240, 2016
*3 J Clin Oncol 36:1905-1912, 2018
*4 Ann Intern Med 168:121-130, 2018
*5 Clin Gastroenterol Hepatol 12:210-218, 2014
*6 Aliment Pharmacol Ther 43:252-261, 2016
*7 Am J Gastroenterol 105:1480-1487, 2010
*8 https://www.medience.co.jp/forum/pdf/2016_02.pdf

更新日:2020-06-15 閲覧数:1784 views.