腫瘍学レ点ノート

2020-08-27

モノクローナル抗体の皮下注射問題

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複数の抗体を混ぜて同時投与する

もともと免疫グロブリンは多種多様なものが血中を巡っています。抗「モノクローナル抗体」抗体を別とすれば、抗体と抗体が混ざっても問題はなさそうに思えます。頻繁に併用されるトラスツズマブとペルツズマブでは異なる抗体医薬品を同時投与する報告もあり、特に有害事象を増やすことなく投与時間を短縮できたようです。

モノクローナル抗体の皮下注射をする

実はモノクローナル抗体の皮下注射はすでに臨床現場でもよく使われています。代表的なのは関節リウマチやクローン病などで使われているアダリムマブ(ヒュミラ)でしょう。自己注射製剤としても承認されています。オンコロジー領域で最もよく使われているのは抗RANKL抗体のデノスマブ(ランマーク)と思われます。

また、現在はほとんど点滴静注で投与されているモノクローナル抗体は、実は投与経路も必ずしも点滴静注でなくても良いことも示唆されています。トラスツズマブの皮下注射製剤に関しては以前から治験が進んでおり、米国でFDAがトラスツズマブとペルツズマブの皮下注射合剤製剤を承認しています。ヒアルロニダーゼと共に投与することで皮下から吸収された際に点滴静注とほぼ同等の効果を示すように設計されています。

Hematology / Oncology Approval
https://www.fda.gov/drugs/drug-approvals-and-databases/fda-approves-combination-pertuzumab-trastuzumab-and-hyaluronidase-zzxf-her2-positive-breast-cancer

トラスツズマブ以外のモノクローナル抗体薬でも開発は進んでおり、KEYNOTE-555試験でペムブロリズマブの皮下注射と静注の比較も行われています。このKEYNOTE-555試験、非常に複雑な設計で、「コホートB」というコホートではペムブロリズマブの3週間毎投与(既存の標準治療)に対して倍量6週間毎投与という投与方も検討されています。

抗CD20抗体リツキシマブでも皮下注射製剤の開発は進んでいます。

A pilot study previously demonstrated that thrice-weekly, fractionated-dose intravenous rituximab (RTX) limits CD20 loss from chronic lymphocytic leukemia (CLL) B cells, thereby enhancing immunotherapeutic targeting. Here, we investigated the feasibility of giving 20 mg rituximab subcutaneously thri …
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19679883/

皮下注射のメリット

モノクローナル抗体の皮下注射による投与には、投与時間の短縮のほかにもメリットがあります。点滴に比べて調剤が容易で必要な資材や廃棄物も少なく、場合によっては往診・在宅医療での投与が可能となります。これらは広い意味では医療費の削減にも繋がる可能性があります。点滴の穿刺による疼痛も少なくすみます。これは外来化学療法室の混雑にいつも悩まされている現場にとってはありがたいメリットです。

また皮下注製剤は血中濃度の立ち上がりが緩やかになるため、投与時過敏反応(infusion reaction)も起きにくいと言われています。デメリットとしては皮下注射部位の局所の発赤や硬結などの皮膚トラブルがありますが、メリットと天秤にかけると許容されるものではないでしょうか。

Treatment with monoclonal antibodies (mabs) has become an established component of oncological therapy. The monoclonal antibodies available for this purpose are mainly administered intravenously in individually adapted doses according to body weight over ...
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4078128/
Trastuzumab is the standard treatment in Canada for patients with breast cancer positive for (human epidermal growth factor receptor 2), dramatically improving outcomes in that patient group. However, its current intravenous (IV) administration is associated ...
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6380645/

モノクローナル抗体ではありませんが他のクラスの分子標的薬では思わぬ副産物も報告されています。多発性骨髄腫の治療に使われるプロテアソーム阻害薬ボルテゾミブ(ベルケイド)は有害事象として末梢神経障害が問題となることが少なくありません。しかし、ボルテゾミブの静注と皮下注を比較した非盲検無作為化MMY-3021第3相試験では有効性は同等であったにもかかわらず末梢神経障害の全体の発生頻度が3割減、grade3以上に限ると3分の1まで減ることが明らかになったのです。

~新たな投与経路で安全性が向上し、患者さんと医療従事者の利便性が高まるご参考資料: 当資料は、ベルギーのヤンセン社が、2012年6月26日(現地時間)に発表した英文プレスリリース抜粋の翻訳版として、発表させていただくものです。従いまして、日本の状況を必ずしも反映したものではなく、正式言語が英語であるため、内容については英文リリースが優先されます。 英文サイト: http://www.jnj.com/connect/news/product/velcade-receives-positive-regulatory-recommendation-in-the-european-union-for-subcutaneous-administration  
https://www.janssen.com/japan/press-release/20120719
多発性骨髄腫の治療では、新規薬剤と呼ばれる3種類の薬がよく使われています。ベルケイド*、サレド*、レブラミド*という3種類です。取材・文 ●柄川昭彦
https://gansupport.jp/article/drug/drug01/6783.html

従来からある治療薬の投与経路を変えることで、同等の効果を維持しつつ副作用を減らすというのはロマンを感じます。新しく高価な治療薬を湯水のごとく使うばかりが治療開発ではなく、このような地道な工夫が広がっていってほしいものです。

Tag: 分子標的薬 モノクローナル抗体 皮下注射 ドラッグデリバリー