レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2021年 / 10月27日

内科医のキャリアパスにおける内科専門医資格の価値についての考察

内科認定医ではなく内科専門医の資格を取ることに意味はあるのかということに関連して、そもそも内科医のキャリアパス上で専門医制度が意味を持つかどうかについての考察をメモしておきます。

内科専門医資格よりもサブスペ専門医資格

今の新専門医制度の下では、もう内科認定医の資格があれば内科専門医の資格を取る意味なんてないんじゃないかという考えが湧いてくるのも無理はないと思います。旧専門医制度から新専門医制度への移行期で、内科は内科認定医資格がまだかなりの有効性をキープしている一方で、新制度の内科専門医資格を取得するために避けられないJ-OSLERの負担の大きさがしばしば話題になっています。

ネームバリュー的にも実務的にも、形骸化していて実用性の乏しい内科専門医の資格よりは、どちらかと言うと循環器専門医だとか消化器病専門医のようなサブスペ領域の専門医資格の方が自分が持つ知識や技術の高さを証明してくれそうな気がします。

将来的には内科認定医にはサブスペ専門医資格を認めないという案が出たりもしていましたが(実際、日本臨床腫瘍学会ではそのような案が議題に上っていたこともありました)、現状では内科認定医だけでもサブスペ専門医の受験資格を得られるので、最終目的がサブスペ専門医資格であれば内科認定医は要るとしても、わざわざ内科専門医資格を取るのは無駄な労力にも見えます。

逆に、内科医の多くがジェネラリストとしての内科医ではなく何かしらのサブスペ的な専門性を持った医師として存在している今の日本では、内科専門医資格があってもサブスペ専門医資格がなければ何かアンバランスな感じがして、ややもすれば「途中で研修を放り出したワケあり人材なのではないか?」という視線すら向けられてしまいそうです。総合診療科に所属するジェネラリストとしての内科医ですら「総合診療専門医」という内科専門医とは別の専門医資格を取得する世の中です。やはりサブスペ専門医資格があってナンボの世界で、サブスペシャリティの無い内科専門医というのは単独で存在するのはちょっと厳しい。

それを考えると、やっぱり内科認定医の資格があれば内科専門医までは要らないのではないか…。

あえて必要性を考えてみる

でもそれでは身もフタもないので、ここではあえて内科専門医資格を取る必要性に焦点を当てて考えてみましょう。

将来開業する場合や研修医がいない病院の内科医の場合は、確かに内科専門医資格を持っていないことによるデメリットはないかもしれません。しかし、臨床研修病院で勤務医を続ける場合は在籍している専門医数・指導医数に応じて施設認定や専攻医の採用上限数が決まるという新専門医制度の縛りがあるため、教育病院で働き続ける場合は内科専門医資格を取らないと次世代にしわ寄せがいくという問題はあります。

多くの教育病院では内科専門医が多数存在しているため、今のところこれが理由でレジデントの採用ができないという問題はあまり目立っていません。旧制度でも内科の場合は認定医を取ったうち7割以上は専門医を取ってない時代が長かったので、今後も内科の半分が専門医を取らなくても残りが頑張ればなんだかんだで回っていくことでしょう。

しかし、もし内科医が少ない地方の中小病院で働こうと思ったときに、自分を含めたその病院の内科医たちが内科専門医(に付随する内科指導医)の資格を持っていなければ、専門医を取得するまでのおおむね8年目までの内科系志望の若手医師の採用に苦労することになります(自院で新専門医制度内科研修プログラムが組めなくなるので)。もし将来的に専攻医マッチング制度が始まればこの傾向はさらに強まりそうです。

自分のためと考えると存在価値が考えにくい内科専門医資格も、次の世代を担う若手を育てるためと考えると必要性が見えてくる気がします。

内科勤務医が目指す将来のキャリアパス

もう少し長期的なスパンで、いまJ-OSLER世代にいる若い内科医が40代〜50代にどういうキャリアパスを歩んでいるかを考えてみましょう。

医師の進路の選択肢はかなり幅広いけど、臨床研修病院の中堅内科医がその後もバリバリ働くルートは「院長(開業)」「教授(研究)」「部長(教育病院)」のいずれかを目指すことが多く、後者2つならやっぱり専門医資格を取らざるを得ない。開業する、あるいはバイト医などになる場合は不要かも。

— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) October 25, 2021

医師の進路の選択肢はかなり幅広く、特に内科の場合はその多様さは飛び抜けています。その中で、特に臨床研修病院の中堅内科医がその後もバリバリ働こうと思った場合のルートは「院長ルート(開業)」「教授ルート(研究)」「部長ルート(教育病院)」のいずれかを目指すことが多いかと思います。他に、教育病院ではない中小病院・療養型病院などで働いたり、在宅訪問診療、バイト専業、高齢者施設嘱託医、検診、産業医、企業の健康管理センター、、、まあ選択肢は数え始めたらキリがありませんが、話を簡単にするためにここではバリバリ働く場合のルートとして院長ルート(開業)、教授ルート(研究者)、部長ルート(教育病院)かのいずれかのルートに絞って考えることにします。

将来は実家のクリニックを継ぐことが決まっているような人は院長ルートに当てはまります。院長ルートを選んで開業する、あるいはバイト医などになる場合は資格よりも技術そのものや人柄、コミュ力、人脈、外来を捌く能力などの医師個人の属人的な能力そのものが重要なので専門資格の有無はどちらかと言うと枝葉の問題かも。

継ぐクリニックがあるわけでもなく自分で新規開業をしない場合はどうでしょうか。後者2つ(研究者としての教授ルートか教育病院での部長ルート)ならやっぱり専門医資格を取らざるを得ないでしょう。先ほど述べた、自施設で採用できる若手世代の数に影響しますし、施設責任者が指導医資格を持っていないと自分の部下たちが専門医資格を取得する要件を満たせないなど若い世代のキャリアパスにも影響する可能性があります。なので、大学病院の臨床系講座で研究者としてのキャリアを思い描く、あるいは研修医やレジデントを採用している臨床研修病院で勤務医を続ける場合は、やはり認定医だけでなく専門医資格が必要です(専門医資格を取った後は指導医の認定も要りますし、教授なら評議員なども受任しなければならないでしょう)。

専門医資格だけでなく医局に所属するかどうかも

専門医資格について少し考えてみたので、さらに一歩踏み込んで医局制度についても考えてみましょう。

というのも、医局に所属している場合は専門医資格を取る環境が自動的に備わっていることが多く、一方で医局に属さずにある程度中堅の年齢を終えてから(つまり新専門医制度のレジデント向けプログラムに参加する年齢層を越えてしまってから)専門医資格を取るのは比較的容易でないからです。専門医資格を取ることと、医局に属することは、比較的親和性が高い問題だと思います。

さきほど上げた内科医としてバリバリ働く3つのルートのうち後者2つ(研究者としての教授ルートか教育病院での部長ルート)は、専門医資格の有無だけでなく「医局」か「生え抜き」のいずれかが必要な病院が多いように思います。聖路加国際病院などのような比較的独立してやっていけるブランド力がある病院か、徳洲会・民医連など独自の団体系列の病院を除けば、教育病院・臨床研修病院はどこかしら大学の医局人事の影響を受けているところが少なくありませんし、そのような病院で若いうちは医局に属さず働くことができても、40〜50代になってくるとやはり医局の意向を無視して院内で昇進してゆくことは難しくなってきそうです。

また単独でブランド力がある病院などはレジデント時代からの生え抜きスタッフとして10年以上働いたような経歴の人でない限り、やはり昇進してポストを獲得するのは難しい。それ以前に、研修医やレジデントの頃はあれだけ引く手あまただったのに卒後15年くらいから内科勤務医として働く場合には、医局に属していない場合は希望する病院に就職するハードルもかなり高くなってしまいます。勤務医を続ける場合、医局に属したほうがバリバリ働く3ルートを選ぶ場合の選択肢は断然増えるといわざるを得ない。

ちなみにいわゆる"マイナー科"を志向する場合は、先の3ルートのうち開業ルートの比率が高く部長ルートが少なく、バイトルートなどが増える科が多そうに思います。一般的に小さい科ほど医局の締め付けは強くなるので、専門医取得と医局所属のメリットはいわゆるマイナー科のほうが相対的に大きくなるんじゃないでしょうか(もちろん科によるし地域にもよる)。

長期に勤務医を続けるならやはり取れるものは取っておいた方が

したがって、将来的に大学病院か臨床研修病院・教育病院で勤務医を続けたいのであれば、やはり専門医資格は取るべきと考えます。選択肢を増やすという意味では、医局に属しておくほうがつぶしも効くでしょう。医局は別に気に食わなければある程度の年限を過ごした後であれば抜けるのは難しくないはずです(実際にある程度大きな診療科であれば毎年抜けていく人は何人もいるので、教授も医局長も医局員が医局を辞めると言い出すことにはある程度慣れているでしょう)。一度所属しても気に食わなければ、抜ければ良いだけです。専門医資格を取らないことにより狭まる選択肢に比べれば、医局に所属している方がよほどその後の生き方を好きなように選べるんじゃないかという気がします。

最後に

Twitterに非常に大切なコメントが載っていたのでここで紹介します。

専門医はゴールではなくスタート。

— 野巻秀蔵 (@nomakisyuzo) October 26, 2021

専門医資格を取るまでの最短ルートを考えるだけではなく、むしろ専門医資格を取ってからの医師人生のほうがよほど長いことを踏まえて、長い目でのキャリアパスを考えてみてはどうかと思いました。

まあ、こういうことを言い出したら若い世代には「老害が!」と言われてしまうのかもしれませんけどね…


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更新日:2021-10-27 閲覧数:749 views.