レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2021年 / 6月12日

ASCO2021感想まとめ(3)

こちらから続く

ASCO2021が終幕しました。今年も色んな領域の新しい知見が発表されました。この1週間、TwitterにもたくさんのASCO関連のツイートが流れてきたので、印象深かったのをまとめておきます。Thank you to the oncology community (all 32,500 of you!) for joining us
こちらから続く #ogpi(https://oncologynote.jp/?eaad40b042)TRUSTY試験 #3507 大腸癌二次治療のFTD/TPI+Bev vs FOLFIRI+Bev さて次は大腸癌の二次治療の演題を見てみましょう。大腸癌二次治療のFOLFIRIはかれこれ15年くらい今のポジションをキープし続け

EA1131試験 #605

術前化学療法でpCRとならなかったbasal-lineトリプルネガティブ乳癌に対する追加化学療法のCape vs プラチナレジメン

Early #BreastCancer Oral Abstract session at #ASCO21: very important data from @eaonc #EA1131 trial (online in #JCO) showing NO superiority or non-inferiority of adjuvant #platinum agent vs. #capecitabine after neoadjuvant #chemotherapy in #TNBC without #pCR@OncoAlert #bcsm pic.twitter.com/U48X38MsxP

— Matteo Lambertini, MD PhD (@matteolambe) June 6, 2021

EA1131試験は、標準的術前化学療法を受けたのち切除を受けたが1cm以上の残存病変がありnon-pCRだったbasal-likeのトリプルネガティブ乳癌に対して、さらにカペシタビンかプラチナ製剤の術後化学療法を上乗せする比較試験です。

術前化学療法でnon-pCRだったトリプルネガティブ乳癌に対して術後にカペシタビンをさらに載せるのはCREATE-x試験で有効性を示されてすでに標準治療となっていますが、術後の追加化学療法の至適レジメンがカペシタビンなのかどうかを検証しようとしたデザインです。

トリプルネガティブ乳癌ですからBRCA変異などとの関連も想起させ、プラチナ製剤による治療がカペシタビンを上回ると予想した人も多かったと思いますが、結果を見てみると、、、

biologyを考えるとプラチナが負けたのは驚きで、逆にワセクロ問題で下火になったカペシタビンの効果が間接的に示されたような気がしないでもないですが乳がんクラスタの方々いかがでしょうか😔 https://t.co/zJpTnOjt8S

— じなん (@MTCOSB) June 7, 2021

これは意外な結果でした。差が無いどころかカペシタビンはプラチナより優れているようです。理由については様々な考察がなされているようです。

basal-likeの中でもgBRCAなどHRDっぽいサブサブタイプの人は術前化学療法の感受性が高いためにnon-pCRとならずに、逆にpCRになってない症例はbasal-likeでもHRRっぽくない人(いわゆるBL2?)がセレクションされてるというようなことも考えられそうです。

《新着図鑑》
【トリプルネガティブ乳がん:術後治療】術前化学療法後に1cm以上の残存病変が確認されたbasal-likeタイプの人が術後治療を考える場合、「プラチナ製剤」を選択しても「カペシタビン」を選択した場合を上回る3年無浸潤性疾患生存率は期待しにくい。https://t.co/PqVHJVXQCZ

— 日本がん対策新聞 (@gantaisaku1105) June 7, 2021

なお、このEA1131試験についてはJ Clin Oncolに早速文献が掲載されています。

Randomized Phase III Postoperative Trial of Platinum-Based Chemotherapy Versus Capecitabine in Patients With Residual Triple-Negative Breast Cancer Following Neoadjuvant Chemotherapy: ECOG-ACRIN EA1131 - PubMed
Platinum agents do not improve outcomes in patients with basal subtype TNBC RD post-NAC and are associated with more severe toxicity when compared with capecitabine. Participants had a lower than expected 3-year iDFS regardless of study treatment, highlighting the need for better therapies in this h …
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34092112/

FECのFはいらんって言ってみたり5-FU系内服の地固めはアリって言ってみたり、もうわかりませんです(投げやり)

— じなん (@MTCOSB) June 7, 2021

OylmpiA試験 #LBA1

gBRCA変異乳癌に対する術後化学療法としてのオラパリブ vs プラセボ

Program Guide – ASCO Meeting Program Guide
https://meetings.asco.org/abstracts-presentations/196707

#ASCO21 plenary begins! OlympiA trial for adjuvant olaparib in high risk HER2-neg early breast cancer improves 3y invasive and distant disease-free survival-- need to keep pushing for BRCA testing in this PARPi world! @ASCO pic.twitter.com/ZPHI9TP75z

— Sarah J. Mah, MD (@SarahJMahMD) June 6, 2021

gBRCA1/2乳癌の術後療法としてのこの辺は乳癌に詳しい先生に解説してもらう方が良さそうなので演題の要点だけ…。

gBRCA乳癌術後オラパリブ1年(OlympiA試験)。3年DFSは局所も遠隔も良好。全生存の解析はHR0.68と良好に見えるけど中間解析の有意水準を0.01に置いたのでp=0.02で未達(昨日のKEYNOTE-361を思い出す)。
/NEJM https://t.co/tkkbBOU6TJ

— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) June 3, 2021

当初はトリプルネガティブ乳癌に限定していましたが途中からはLiminal typeもエントリー可能となったようです。

BRCA変異陽性HER2陰性早期乳癌の術後療法でのオラパリブの優越性がOlympiA試験の中間解析で基準をクリア、早期主要解析へ:日経メディカル https://t.co/2pA3jauOh8 #日経メディカル

有効中止になるかしら…?

— ねこまた見習い (@vc_neco) February 18, 2021

NEJMにも同時掲載され、そのインパクトの大きさが伝わります。

Among patients who had mutations in BRCA1 or BRCA2 and were at high risk for disease progression, those who were assigned to a year of olaparib adjuvant therapy had 3-year invasive disease–free survival of 86%. #ASCO21

— NEJM (@NEJM) June 3, 2021

他にもNEJMに同時掲載された発表も

ついでに、今回のASCO21に合わせてNEJMに掲載されたのは、KRAS G12C変異陽性非小細胞肺癌のソトラシブ(CodeBreaK100)や、進行尿路上皮癌の術後療法としてのニボルマブ(CheckMate-274)などがありました。

Sotorasib for Lung Cancers with KRAS p.G12C Mutation - PubMed
In this phase 2 trial, sotorasib therapy led to a durable clinical benefit without new safety signals in patients with previously treated <i>KRAS</i> p.G12C-mutated NSCLC. (Funded by Amgen and the National Institutes of Health; CodeBreaK100 ClinicalTrials.gov number, NCT03600883.).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34096690/
既治療KRAS G12C変異陽性NSCLCへのsotorasibの効果はサブグループでも確認、同時発生変異で効果が変わる可能性も【ASCO 2021】
前治療のあるKRASG12C変異陽性進行非小細胞肺癌(NSCLC)に対するKRASG12C阻害薬sotorasib(AMG510)の良好な抗腫瘍効果は、年齢、全身状態、治療歴数、抗PD-1/PD-L1抗体の投与歴など、ベースラインの特徴別のサブグループでも認められることが明らかとなった。また、同時に発生している遺伝子変異の解…
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/news/202106/570539.html
Adjuvant Nivolumab versus Placebo in Muscle-Invasive Urothelial Carcinoma - PubMed
In this trial involving patients with high-risk muscle-invasive urothelial carcinoma who had undergone radical surgery, disease-free survival was longer with adjuvant nivolumab than with placebo in the intention-to-treat population and among patients with a PD-L1 expression level of 1% or more. (Fun …
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34077643/

いつもはもう少しNEJMに載ったような気もしたので、もしかして今年はNEJM的には惹かれる演題が少なかったんでしょうか??

他にちょっと興味あるテーマ

MBCに対する化学療法の治療強度を患者さん自身が決めるという発表

MBCに対する化学療法の治療強度を患者さん自身が決めるという発表

通常MBCに対する化学療法の強度はpIの結果をもとに決められているが...
86%は有害事象の経験あり
20% ER受診歴あり

83%は減量で症状改善
92%の症例が治療強度を話し合って決めたいと思っている#ASCO2021

— Hawk_Eye (ほーくあい)⛸🐰🐯 (@tkdmHawkeye) June 5, 2021

周術期化学療法の治療強度は安易に落とさないことが重要ではありますが、一方で根治不能な状況では患者の考え方・価値観に応じてQOLを保った治療を考えることが重要なのは言うまでもありません。

こういう研究はなかなか大々的に取り上げられることがないのが少し残念で、今後こういう観点からの演題も増えてほしいです。ACPとか、老年腫瘍学(Geriatric oncology)にもつながるテーマ。

eNRGy試験 #3003

固形がんの新たな治療標的NRG1 fusion

https://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/JCO.2021.39.15_suppl.3003

NRG1が新たなターゲットになりそう。#ASCO21 https://t.co/wxeE1l5Stm pic.twitter.com/jRTPuXJI4s

— Muntari (@SAMuntari) June 6, 2021

eNRGy trialはエナジー試験と読むのでしょうか。

新たな臓器横断的としてNRG1 fusionが注目を集めているようです。ゼノクツズマブ(MCLA-128)の第1/2相試験のウォーターフォールプロットを見ると肺癌が多く「また肺癌かよー」という気がしなくもないですが、膵癌でもかなり見られるマーカーのようで、しかも分子標的治療暗黒大陸だった膵癌でも割と成績が良い。今後に期待です。

Zenocutuzumab Demonstrates Clinical Activity in a Variety of NRG1+ Cancers
Zenocutuzumab represents a promising novel targeted therapeutic option for patients with NRG1 fusion–positive cancers.
https://www.onclive.com/view/zenocutuzumab-demonstrates-clinical-activity-in-a-variety-of-nrg1-cancers

U31402-A-U102試験 #9007

EGFR-TKI不応非小細胞肺癌に対する抗HER3-ADC

Patritumab deruxtecan addresses an unmet need in EGFR TKI–resistant, #EGFR-mutated #NSCLC ➡️ https://t.co/oGWttfD6Me #ASCO21 #ASCODailyNews #lcsm pic.twitter.com/fKS9V9OiSP

— ASCO (@ASCO) June 7, 2021

EGFR-TKI抵抗性肺癌への抗HER3抗体を使った新規ADC、パトリツマブデルクステカンの第1相試験。EGFR-TKIの前治療歴があっても(それがオシメルチニブであっても)奏効率39%でDCRも7割前後あるのでかなりの好成績です。HER3(ERBB3)も今後は治療標的になってくるんでしょうか。

EGFR阻害薬に抵抗性となったEGFR変異陽性NSCLCに抗HER3抗体薬物複合体HER3-DXdが有効な可能性【ASCO 2021】
抗HER3抗体薬物複合体であるpatritumabderuxtecan(HER3-DXd、U3-1402)が、EGFR阻害薬に抵抗性となったEGFR変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)に有効である可能性が改めて明らかとなった。フェーズ1試験で、フェーズ2の推奨用量となったHER3-DXd5.6mg/kgを3週毎に投与した患者の観察期間を延長した結果示…
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/news/202106/570553.html

ICIにプロバイオティクス #4513

#ASCO21
#4513
ホンマかいなww
Nivo+Ipiに整腸剤(CBM-588, 多分日本で言うミヤBM?)を上乗せすると奏効率もPFSも良くなる。たった29例のP1bなので症例数増やしてフォロー期間も延ばさないとなんとも言えないと思うけど。

— きつね@おんころじぃ (@Kitsunestudy) June 7, 2021

ニボルマブ+イピリムマブに整腸剤を併用するとORRもPFSも改善するという話。腸内細菌叢とICIの奏効の関係については多種多様な報告が上がっており、細菌叢のdiversityが関係していると言ったり抗菌薬投与は有効性を損ねたりするという話も耳にしますが、今回の研究は29例だけの第1b相のようなので今後の前向き検証的試験が必要ですね。

そもそも経口整腸剤がどの程度腸内に生着しているのか自体がかなり怪しいと思っているので(腸内細菌叢を外部から人為的に変化させるのはそう簡単ではなさそう)、どちらかと言うと経口プロバイオティクスがICIの有効性にそこまでの影響を与えることについてはやや懐疑的に見ています。あるいは、むしろdiversityを低下させてかえって逆効果な可能性もあったりして…。続報待ち。

ASCOとTwitter #11039

Poster by Drs. Gil Morgan @weoncologists et al shows sig #OncTwitter growth over last 5y of @ASCO Annual Mtgs & esp #ASCO20. Nice to see we're finding ways to connect & disseminate #science & #MedEd despite #COVID19. Curious to see how #ASCO21 compares: https://t.co/GFrA8zCyRW. pic.twitter.com/BSRR23O881

— Tatiana Prowell, MD (@tmprowell) June 4, 2021

以前からも海外の学会に比べて日本は(日本循環器学会以外は)うまくインターネット、特にSNSを使えていないと思っていましたが、ASCOはうまくSNSとの融和を進めて行っているように思います。

日本ではまだweb開催が珍しかった頃の2020年6月から完全web開催で実施していますが、Twitter上でのASCOの存在感、あるいはASCOでの Twitterの存在感はどんどん増しているようです。

まとめ

今年は2020年に比べるとなんとなく予想された結果の演題が多くて、開けてビックリということは少なかったように思います。それでもKEYNOTE-811やEA1131など結果の解釈が悩ましいものもあり、また臨床試験の結果がOSの有意差だけでは確定できない新時代になってこの結果が承認許認可当局にどのように判断されるのか気になるものも沢山ありました。

ASCO21のうち注目の演題、またガイドラインを書き換えたりして日本の臨床に影響を与えそうな演題については、業界を代表するエキスパートの解釈を踏まえて解説講演をしてもらえるBest of ASCO Japanが来月に開催されます。

どの演題が採択されるのかは未定ですが昨年は新型コロナウイルス感染症のドタバタで1日に短縮されていたのが今年は2日間に復活しており、今から楽しみです。


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更新日:2021-06-12 閲覧数:1877 views.