レ点腫瘍学ノート

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ネオアンチゲン

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がん細胞が様々な免疫応答からの回避を示す際に、PD-1CTLA-4TIM-3LAG-3などのチェックポイント受容体を発現することが知られるようになり、これを阻害することで抗腫瘍効果を示す抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体などの免疫チェックポイント阻害剤が実用化されてきています。しかしがん患者でも免疫チェックポイント阻害剤に反応するか否かは大きな差があり、効果が得られる患者の予測や効果向上のための介入に関する研究が精力的に進められています。

このページでは、免疫チェックポイント阻害剤の有効性や抵抗性に関連する因子について記載します。

ネオアンチゲンの量

ネオアンチゲン特異的T細胞の活性があるかどうかが抗腫瘍効果に関連します*1*2。また非小細胞肺癌や悪性黒色腫ではネオアンチゲンの量の多寡が抗PD-1療法や抗CTLA-4療法に関連があることも知られています。たとえば悪性黒色腫によるCTLA-4抗体の有効性に関する報告*3や、非小細胞肺癌に対する抗PD-1抗体の有効性に関する報告*4があります。またdMMR大腸癌に関しても類似の報告があります*5

nonsynonymous mutationの量(tumor mutation burden;TMB)

これらのネオアンチゲンは単位塩基数あたりのnonsynonymous変異(アミノ酸置換を伴う塩基置換)の数、つまり腫瘍のmutation burden(TMB)に依存するため、TMBの高低で免疫チェックポイント阻害剤の有効性が予測できると考えられるわけです。実際に、頭頚部癌*6や尿路上皮癌*7や小細胞肺癌*8の付随研究ではTMBが高い群が免疫チェックポイント阻害剤の効果が期待しやすいことが明らかにされています。

この中で頭頚部癌に対するKEYNOTE-012では102 mutations/exome、つまり全エクソン解析あたり102変異というカットオフ値が出てきていますが、これは頭頚部癌なので(頭頚部癌は喫煙飲酒などの変異源に日常的にさらされやすいため)このような高い値となったと思われます。内臓腫瘍ではこれより低い変異頻度になるものが多い印象です。

一方で、抗腫瘍免疫はもちろん微小環境やT細胞疲弊など環境側や宿主側の因子の影響を受けますし、抗原提示回避などの腫瘍細胞側の因子にも免疫チェックポイント阻害剤の有効性に影響を当たるものは多くありますから、ネオアンチゲンの発現量や、ましてやTMBの高い低いだけで決まるわけではありません。具体的には、奏効例と非奏効例でのTMBを比較するとかなりオーバーラップする層がある*9*10*11ことから、TMBだけでは免疫チェックポイント阻害剤の有効・無効を層別化し予測することはできないという結果を示す研究もあります。

これについてはこの論文*12で詳しく検討されています。

このサイトでもTMBに関しては適宜追加しています。

ネオアンチゲンの質

ネオアンチゲンの免疫原性

ネオアンチゲンの量だけではなく質が重要であるとの研究成果もあります。微小環境に関する研究が進んでいる膵癌では、膵癌の長期生存患者でネオアンチゲンの免疫原性が高いとの報告がなされています*13。またNatureの同じ号の隣のページでは実験系ではネオアンチゲンの免疫原性が免疫チェックポイント阻害剤の反応性に関連すると報告しているものもあります*14

ただし、免疫原性の定量的な評価は容易でないため、臨床応用という視点では腫瘍特異的T細胞の活性であるとかIFNγやTGF-βなどのサロゲートマーカーを使わねばこれを評価するのは難しいのではないかと思われます。

ネオアンチゲンのクローナリティ

ネオアンチゲンのクローナリティが重要であるという考え方もあるようです*15。クローナリティをどうやって定量するのか?という問題はありますが。

ネオペプチド

これに関しては、現段階では研究レベルであり臨床応用には時間がかかりそうですが、ネオアンチゲンではなくネオペプチドに着目してその精度を高めようという研究もなされています*16*17

また腫瘍細胞のネオアンチゲンよりもウイルス原性のアンチゲンはさらに免疫原性が高い傾向もあるようです*18*19

腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の数

ネオアンチゲンに反応しているT細胞の活性がネオアンチゲンに対する宿主応答のサロゲートマーカーとなるのではないかという考え方です。単純にHE染色での腫瘍浸潤したリンパ球数を測定するというのが最も単純な考え方ですが、現在普及しつつある使い方はPD-L1で免疫染色を行い、「全腫瘍細胞数」を分母として「PD-L1陽性腫瘍細胞数+PD-L1陽性免疫細胞数」を割り算するCPS(Combined Positive Score)でしょう。CPSとTPSの違いは、分母は「全腫瘍細胞数」で共通ですが、TPSでは分子はPD-L1陽性免疫細胞数を含まずに「PD-L1陽性腫瘍細胞数」となります*20

MSD connetct PD-L1検査「CPS」の臨床的意義

また、ネオアンチゲン特異的CD8+ T細胞を測定するのも似た考え方です。

多くの腫瘍では非小細胞肺癌のPD-L1や大腸癌のMSIほどの強さを持つバイオマーカーとは言えないようですが、胃癌*21*22や頭頚部癌*23*24*25に関する免疫チェックポイント阻害剤の治療開発はCPSで層別化した患者を対象に行われているなど、かなり実用化寸前まで来ているバイオマーカーと言えそうです。

IFNγ経路の異常(JAK1/JAK2、STAT1、IRF1)

インターフェロンなどは抗原提示を促進し、またT細胞の免疫応答を強化しえます。活性化されたT細胞から放出されたIFNγは腫瘍細胞でJAK1/JAK2およびSTAT1のシグナル活性を介してIRF1(interferon regulatory factor 1)を活性化します。したがってこのIFNγ経路の活性化がない場合は免疫チェックポイント阻害剤の効果が示されにくくなります*26

IFNγ経路はさまざまな遺伝子発現の関与があり複雑ですが、悪性黒色腫ではJAK1やJAK2の機能喪失変異が免疫チェックポイント阻害剤の耐性に関与していると報告されています*27*28。dMMR大腸癌でも同様の報告があります*29

一方でJAK3の活性化変異(機能喪失変異ではないことに注意)では肺癌の長期生存に関与したとの報告もあります*30

抗原提示の異常

CD8+ T細胞が腫瘍抗原を認識するためには、MHCクラスI(あるいはHLA)で腫瘍細胞に関連する抗原が提示される必要があります。免疫チェックポイント阻害剤の有効性が発揮されない原因としては、HLAパスウェイの異常により抗原提示が正しく行われなくなるというパターンもあります。

MHCクラスI(HLA)発現消失

免疫チェックポイント阻害剤の耐性にはそもそもMHCクラスI(HLA)が提示されないというものがあります*31。その機序には様々なものがあります。MHCクラスI(HLA)が発現消失してしまうとCD8+ T細胞から腫瘍細胞が見えないので、免疫チェックポイント阻害剤の効果が示されようがありません。

β2-ミクログロブリン

臨床では尿中に排泄されるβ2-ミクログロブリンは尿細管障害など腎疾患の臨床検査としてよく知られていますが、もともとこれはあらゆる細胞で発現していてHLAclass1を構成する蛋白です。β2-ミクログロブリン蛋白質の発現喪失(loss)は腫瘍細胞の抗原提示が失われることを意味するので、免疫療法全般に対する耐性に繋がります*32*33*34

MHCやHLAについてはこちらのサイトがわかりやすいです。

HLAをより深く知る | HLAについて | HLA研究所
HLAをより深く知る
http://hla.or.jp/about/detail/

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*1 Nature 2014. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25428507/
*2 Nat Commun 2017. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28916749/
*3 Science 2015. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26359337/
*4 Science 2015. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25765070/
*5 NEJM 2015. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26028255/
*6 Lancet Oncol 2016. KEYNOTE-012 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27247226/
*7 Lancet 2016. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26952546/
*8 Cancer Cell 2018. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29731394/
*9 Science 2015. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26359337/
*10 Science 2015. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25765070/
*11 NEJM 2014. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25409260/
*12 Cancer Res 2016. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27197178/
*13 Nature 551, 512–516
*14 Nature 551, 517–520.
*15 Science 2016, 1463-1469. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26940869/
*16 Nat Med 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23644516/
*17 Science 2015, 1387-1390. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26516200/
*18 Cell 2015. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25594174/
*19 JCI Insight 30135306 2018. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30135306/
*20 https://www.agilent.com/cs/library/usermanuals/public/29314_22c3_pharmDx_hnscc_interpretation_manual_us.pdf
*21 Lancet 2019. KEYNOTE-061 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(18)31257-1/fulltext
*22 ASCO2019. KEYNOTE-062 https://www.ascopost.com/issues/june-25-2019/keynote-062-pembrolizumab-in-gastricgej-cancer/
*23 Lancet 2019. KEYNOTE-048 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(19)32591-7/fulltext
*24 JCO 2016. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27646946/
*25 JCO 2017. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28328302/
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*28 Nat Commun 2017. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28561041/
*29 Cancer Discov 2017. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27903500/
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*31 Clin Cancer Res 2018. https://clincancerres.aacrjournals.org/content/24/14/3366.abstract
*32 JNCI 1996. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8537970/
*33 Cancer Discov 2019. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29025772/
*34 NEJM 2016. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1604958

更新日:2020-05-25 閲覧数:2595 views.