腫瘍学レ点ノート

2020-06-10

BRCA異常を持つ人の膵癌スクリーニングはどうあるべきか

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BRCA1またはBRCA2などに病的変異を持つ人は乳癌と卵巣癌のリスクが高く(遺伝性乳癌卵巣癌症候群)、そのサーベイランスが重要であることは既によく知られています。一方で、BRCAとの関連を指摘されている膵癌・前立腺癌・悪性黒色腫などに関してサーベイランスを行うべきかどうかについてはまだ意見がわかれるところです。このページでは、BRCAに病的変異を持つ人の膵癌スクリーニングはどうあるべきかについて記載します。

膵癌で重要視される遺伝性腫瘍に関連する遺伝子

膵癌のうち5〜10%程度が遺伝性素因を持つという予測があります*1。一般にBRCA2は膵癌のリスク向上に関与し、BRCA1は乳癌・卵巣癌ほどには膵癌のリスクを向上しないと言われています。またPALB2なども家族性膵癌のリスクに関連するとされています。直接膵癌を惹起するものではなく膵炎を繰り返すことにより膵癌リスクが高まる遺伝性膵炎につながるPRSS1遺伝子も重要です*2

BRCA1/BRCA2に関連する膵癌に対してはオラパリブによる維持療法の有効性がPOLO試験*3で示されているように、これらの遺伝子異常は治療にも大きく関わるため、今後は臨床医にとってさらに遺伝子異常を正確に把握する重要性が増してゆくことは間違いなさそうです。

臨床面の課題

NCCNガイドライン

NCCNガイドラインのうち「Genetic/Familial High-Risk Assessment:Breast, Ovarian, and Pancreatic*4」というものがあるのでこれを見てみましょう。現時点での最新バージョンは2019年12月に公開された「Version 1.2020」です。
https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/default.aspx

該当する遺伝子変異と、遺伝子変異がなくても遺伝性膵癌と扱うべきケース

NCCNガイドラインで膵癌に関連する遺伝子として挙げられているものは下記のとおりです。
ATM, BRCA1, BRCA2, MLH1, MSH2, MSH6, EPCAM, PALB2, TP53

また、1親等の家系内に2人以上、あるいは1〜2親等の家系内に3人以上の膵癌患者がいる場合はこれらの遺伝子に病的変異がなくても遺伝性膵癌の家系と扱うべきとされています。

リスク評価

まずリスク評価と遺伝カウンセリングの段階があり、その後は家系にすでに遺伝性膵癌につながる病的変異が指摘されているかどうかによって枝分かれしますが、リスクに応じて遺伝カウンセリングを経て遺伝学的確定検査を受けるかどうかというルートへ進みます。ここまではHBOCの乳癌・卵巣癌の対応と同じですね。
そのあとは大きく3つのルートに分かれています。

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家系にHBOC確定者がいるが本人はその変異が陰性だった場合

家族歴に基づくリスクはその本人は受け継いでいないと考えます。一般人口と同等のリスクにとどまると判断し、通常の検診ルートに従います。

家系にHBOC確定者はおらず、本人は検査を受けていないか、受けたが既知の病的変異が見られなかった場合

この場合はBRCA病的変異保因者とは確定しません。ですが、家系が示すとおりリスクはあることから、現在はVUSとしか見なされていない変異やBRCA以外の遺伝子が発癌に関与している可能性があります。したがって、この場合は通常の検診ルートよりはやや重みのある家族歴と既往歴を有する患者としてのサーベイランスに従います。

本人が遺伝学的検査で病的変異保有者と確定した場合

この場合は病的変異を有する場合のサーベイランスに従います。なお、家系にHBOC確定者がいるが本人は検査を受けなかった場合には「可能であれば、検査陽性であった場合と同様のサーベイランスが望ましい」ということになっています。

サーベイランスの中身と注意事項

さて、具体的にどのようなサーベイランスを行うかという問題があります。

この版のNCCNガイドラインではこのような記載があります。

The panel does not currently recommend pancreatic cancer screening for carriers of mutations in genes other than STK11 and CDKN2A in the absence of a close family history of exocrine pancreatic cancer.

すなわち、STK11とCDKN2A以外の遺伝子変異キャリアでは膵癌家族歴がない限りは膵癌サーベイランスを推奨しないということになっています。そして家族歴がある場合は、下記のように記載されています。

Consider pancreatic cancer screening beginning at age 50 years (or 10 years younger than the earliest exocrine pancreatic cancer diagnosis in the family, whichever is earlier) for individuals with exocrine pancreatic cancer in ≥1 first- or second-degree relatives from the same side of (or presumed to be from the same side of) the family as the identified pathogenic/likely pathogenic germline variant.

病的変異を持つ側の家系に膵癌の家族歴があれば、50歳または「家系内で最も若く膵癌を発症した患者の発症年齢より10歳若い歳」から膵癌サーベイランスをすることを推奨しています。サーベイランスの内容としては年1回の造影MRIかMRCP、あるいはEUSが推奨されています。

STK11病的変異があれば35歳、CDKN2A病的変異があれば40歳からのサーベイランスが推奨されます。また特殊なパターンとして急性膵炎を反復性にきたす遺伝性疾患の原因となるPRSS1に病的変異を保ち膵炎をきたすという臨床症状もある場合は「40歳」あるいは「20歳以降で最初に膵炎を発症したとき」から膵癌サーベイランスを行うべきとされています。

なお、これらのサーベイランスはハイボリュームセンターで、臨床研究としての形で行うべきであり、また検診精度の限界やコスト面、検診のデメリットについて慎重な吟味とカウンセリングを行った上でサーベイランスに取り組むことという注意書きも書かれています。ずいぶんと慎重な姿勢の記載です。

膵癌は乳癌と比べると早期発見が難しい、前立腺癌のPSAのような低侵襲サーベイランス手法もないという臓器であり、また造影MRIやEUSもそれなりに侵襲的な検査方法なので、エビデンスが未確立のものに対していたずらに検査を乱発してはいけないということもあるのでしょう。

まとめ

これらを考えると膵癌のサーベイランスは今のところ「まだ発展途上」にあるという印象はあります。膵癌の早期発見は難しく予防的治療も現実的でないことに加えて、乳癌や卵巣癌に比べると膵癌を発症する頻度が低いことから、BRCA変異の有無など遺伝的素因だけで方針を決定するのではなく実際に家系内に膵癌発症者がいたのかという臨床的側面を考慮すること、またハイボリュームセンターで患者と家族の意向をよく確認してサーベイランスを行うことが重要と言えそうです。


*1 https://www.surgonc.theclinics.com/article/S1055-3207(15)00067-8/abstract
*2 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3565835/
*3 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1903387
*4 https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/default.aspx


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