レ点腫瘍学ノート

2021-01-06

保険診療がん遺伝子パネル検査を自費診療で実施することに関する課題

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昨日のTwitterでのディスカッションを元に、保険承認されているがん遺伝子パネル検査を、保険外の自費診療として実施する上での課題など考えておくべき事についてまとめました。

どのパネル検査を採用するのか

がん遺伝子パネル検査をすでに保険診療として実施している施設(つまりがんゲノム医療中核拠点病院、拠点病院、連携病院)が平行して保険外の自費診療でもパネル検査を行う場合は、どのパネル検査をどのように行うことになるのでしょうか。もともと保険承認されているとは言っても保険償還の条件がかなり厳しいので医療機関の中には保険診療パネル検査と並行して自費診療パネル検査を実施している施設は色々あるようです。これはもともと2018年の保険承認以前から続けていたものを継続しているところも、新規に開始したところもあります。

現在は保険承認されているNCCオンコパネルとFoundationOne CDxの2つのパネル検査を保険診療パネル検査として実施している施設がほとんどです(片方のパネルしか採用していない施設は今のところ聞いたことがありません)。そして一部の施設はこの2つの保険診療パネル検査の他に自費診療あるいは臨床研究としてのパネル検査を並行して受け付けているようです。

自費診療や臨床研究としてのがん遺伝子パネル検査は基本的にどのようなパネルを採用しようがその施設の自由です。OncoprimeやGuardant360のように保険未承認のパネル検査を実施している施設が多いですが、東京大学のように2017年から臨床研究としてTodai Oncopanelを開始して2018年にそれを先進医療に発展させた施設などもあります。

自費診療パネル検査にもFoundationOne CDxを選ぶ利点

パネル検査の種類による検査の優劣そのものにはここでは言及しませんが、上記のような保険未承認パネルを利用するのに比べて自費診療でもFoundationOne CDxを採用することも十分検討の価値があります。というか、むしろ今からがんゲノム医療連携病院が保険外で自由診療を開始するならFoundationOne CDx一択ではないかというふうにも思っています。

インフラ整備がすでに完了している

その理由の一つは検査室などの院内体制が保険診療パネル検査と同一なのでインフラがすでに整備されていることです。保険診療で行っても自費診療で行っても、会計とレセプト請求以外は検査の流れから結果説明まで大きな違いはありませんので、この2点はすぐにご理解いただけるかと思います。

結果解釈の経験値がすでにある

二つ目は検査結果レポートなども(自費診療でやるとC-CATレポートは付いてきませんが)普段の保険診療パネル検査で見慣れているものなので結果の解釈がしやすいということです。

性能の割に価格が安い

三つ目は、そもそもFoundationOne CDxはOncoprimeなどと比べると安価であるという点です。保険点数が56,000点ですが検査会社に支払うのは45〜50万円程度でしょうか…。Oncoprimeが80〜90万円、Guardant360が42万円程度で行われていることが多いようですが、検査の情報量と費用負担を考えるとFoundationOne CDxは性能の割に安価と言えます。

コンパニオン診断機能が豊富

四つ目のメリットはコンパニオン診断機能などが豊富であることも治療につながりやすいと思われることです。2020年12月28日にFoundationOne CDxはBRCA1/2遺伝子変異陽性の前立腺癌に対するオラパリブのコンパニオン診断としての承認も取得しました。これで11領域のコンパニオン診断機能を持つパネル検査になり、もちろんこれは最多です。もちろんコンパニオン診断機能が使えても治療薬が保険適用になるかどうかはその対象臓器によるのですが、多いに越したことはないですね。

2020年12月28日|FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル、オラパリブのBRCA遺伝子変異陽性前立腺がんに対するコンパニオン診断として承認を取得|ニュースリリース|中外製薬
https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20201228160300_1048.html

コンパニオン診断部分だけでも保険請求ができる?(ただし混合診療に注意)

五つ目は、少し苦し紛れではありますが、がん遺伝子パネル検査としての保険点数(8,000点+48,000点)が請求できなくてもコンパニオン診断部分の点数のみは請求できるということです。点数は臓器により異なりますが、非小細胞肺癌ではEGFR・ALK・ROS1・METの部分だけ、前立腺癌や卵巣癌はBRCA1/2の部分だけが請求できるものと思われます(医事課に確認してください)。FoundationOne CDxの検査費用から考えれば焼け石に水ですが、しかし無いよりはよい。患者の自費診療としての自己負担分はこのコンパニオン診断機能として保険請求できる部分以外だけを負担して貰えばよいといえます。

ただし、これが混合診療にあたらないかどうかは確認が必要ですね。検体提出は同時なのにコンパニオン診断機能部分は保険診療でがんゲノムプロファイル機能は自費診療として扱うというのは混合診療という疑いをかけられる可能性はやはりあります。

しかし、そもそも保険診療として行っているFoundationOne CDxは検体提出は1回なのに「包括的ゲノムプロファイル取得のための本品検査実施に係る準用技術(8,000点)」と「パネル検査の結果の判断および説明などの実施に係る準用技術(46,000点)」を別々の日に分けて保険請求させているので、保険行政そのものが検査実施と結果判断説明は別の日に行われていると公に認めたも同然ですから、前者を保険診療で後者を自費診療としても「同日に混合診療を行った」という批判は免れるはずです(苦しい言い訳でしょうか?)。

そして、前もって実施して保険請求はしていなかったFoundationOne CDxの結果に基づいて、その患者が将来的に標準治療終了見込みになった段階でエキスパートパネルを実施すれば、後からでも結果の解釈と説明に係る準用技術(46,000点)の部分は保険請求できることになっています。したがって検査の後も長期間に自施設でフォローしていれば保険請求できるチャンスもでてくるわけです(そのときに以前に払い受けていた自費診療費用を返金するのかどうかとか返金しなかったら保険請求に問題があるのかどうかまでは把握していません)。

一方で、ここからは自費で行う場合の注意点です。確認せずに突っ込めば痛い間に合うかも。

エキスパートパネルに参加できるかどうかがわからない

これはがんゲノム医療中核拠点病院やがんゲノム医療拠点病院の場合は問題となりませんが、がんゲノム医療連携病院の場合は問題となります。

がんゲノム医療連携病院は保険診療パネル検査の場合は自院でエキスパートパネルが開催できないので中核拠点病院などとWeb回線でつないでエキスパートパネルを合同開催しています。

保険償還の条件として保険承認パネル検査の場合は中核拠点病院か拠点病院でエキスパートパネルで検討することが必須となっているため、これは保険適用でパネル検査を行う全症例に対して実施されているはずです(検査実施から結果判明までの間に患者が死亡した場合などの例外はあるかもしれません)。一方で自費診療でパネル検査を行った場合に中核拠点病院のエキスパートパネルに参加できるかどうかは不明です(正確には中核拠点病院の判断によります)。

中核拠点病院は自費診療パネル検査にまで手を回す余裕がない

どこの中核拠点病院も保険診療パネル検査の症例を審議するのにかなり手一杯で、自費診療パネル検査の症例までマンパワーを割く余裕はあまりないのが実情でしょう。保険診療パネル検査以外に、たとえば「自院の連携施設以外で実施され他の中核拠点病院のエキスパートパネルで患者申出療養の対象となると判定されたが通院の便の問題で流れてくる患者」について検討する必要があるパターンもあり(たとえば関西圏にあるがんセンター中央病院の連携病院、九州圏にある京大病院の連携病院などのパターンが想定されます)、いっそう自費診療パネル検査までは手が回りません。

したがって、自費診療パネル検査の場合は中核拠点病院のエキスパートパネルには参加できる可能性はかなり低いと言わざるを得ないでしょう。がんゲノム医療連携病院の中にも優秀な人材と体制を揃えて、自費診療パネル検査の場合はがんゲノム医療連携病院の単施設内で独自のエキパネを開催できる力を持つところは多々ありますが、そのように自院で完結できるだけの実力を求められるでしょう。

倫理委員会の承認などが必要になる可能性も

また分子標的薬の適用外使用については、通常の保険診療パネル検査とは別の流れで検査を行い院内エキパネだけで推奨を出すと言うことになるので、その是非について倫理委員会や医療安全委員会で審査することも必要があるかもしれません。これについては保険診療パネル検査に基づく適用外使用を各施設の倫理委員会で承認したときに、自施設の倫理委員会はどの範囲まで適用外使用を認めたのかを確認してください。

たとえば、当院の場合は保険診療パネルを元に拠点エキパネで推奨した治療薬に限って個別症例毎の審査を経ずに包括的に適用外使用を認めるという倫理委員会の判断を得ていたので、自由診療パネル検査から院内エキパネで適用外使用の推奨を出す場合は症例毎に倫理委員会などに諮る必要があると考えています。

エキスパートパネルに参加しなかった症例は患者申出療養に参加できない

患者の金銭的負担を抑えて治療薬の適用外使用を行うルートの一つとして患者申出療養制度というルートがあります。今のところは実際に適用された症例数はまだ少ないようですが、この後はそのルートの重要性はますます増えるはずです。

しかし現状では保険診療パネル検査の結果をもとに患者申出療養制度で適用外使用を行うには中核拠点病院か拠点病院のエキパネで推奨を得ることが前提となります。したがって、拠点エキパネに参加できていない場合は患者申出療養制度へのルートが絶たれてしまうことになります(拠点エキパネを経ていたとしても自費診療パネル検査の症例が患者申出療養制度が利用できるのかは別途確認が必要です)。

早期ラインでがんゲノム検査を済ませると治験アクセスが改善する可能性

いっぽうで、標準治療が終了する前の早期のラインでがんゲノムプロファイル検査を済ませておけば早期ラインでしか参加できない治験へのアクセスは改善される可能性があり、これは患者にとっても医療全体にとってもプラスです。これは初回治療時のがんゲノムプロファイル検査を行う国立がん研究センターの先進医療と目指す方向性が似ている気がします。っていうか、がんゲノム医療ってそもそもはそういうことを目指していたんですよね。

がん遺伝子パネル検査を用いた先進医療について|国立がん研究センター
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/0401/index.html

データが蓄積されない

これは患者個々人からすれば知ったことか!という問題かもしれませんが、保険診療で実施されたがん遺伝子パネル検査のデータはC-CATなどに蓄積されて今後の医学研究や創薬などに活用されることになっています。しかし上記で言及してきたように自費診療でパネル検査を行った場合はエキスパートパネルで検討されることも無くデータもC-CATに蓄積されず、その後のフォローも当該医療機関の中にとどまるのみになってしまいます。

実際には保険診療パネル検査の症例数よりずっと少ないので実害は乏しいかもしれませんが、こういうパターンがどんどん増えれば日本のがんゲノム医療の発展という点で国益を損ねる可能性は(ごくわずかに)ある。

リキッドバイオプシーパネルはどうか

このようにFoundationOne CDxを中心に自費診療パネル検査を行う上で考えておくべき点を列挙しましたが、どうせ自費診療をやるならFoundationOne CDxだけでなくリキッドバイオプシーのパネルも揃えたいですよね。というのも、病状や今後の治療を考えるとパネル検査を検討したいのだが検体がどうしても取れない(手術検体も無く生検ルートも確保できない)というケースは少なからずあるからです。したがって、どうせ自費診療パネル検査をやって院内エキパネなどの体制を整えるのなら、FoundationOne CDxとGuardant360(あるいは将来的にはFoundationOne CDx liquid)を両方揃えるというのもよいかもしれません。

おわりに

まあ、まだまだ考えれば利点も欠点も出てくる気はします。

そもそもなぜこのようなことを考えたかというと、がんゲノム医療に携わっている立場からしても現状の「標準治療終了後または終了見込み」という保険適用の基準が渋すぎるためです。そして今の保険適用の基準ではがん遺伝子パネル検査を受けることができず、結局遠方の大学病院まで自費診療パネル検査を受けに行く患者もしばしば目にするためにです。どうせそこまでいくのなら当院で保険診療で行っているがん遺伝子パネル検査を全額自己負担でもしてあげればwin-winなのにというように感じただけです。

実際にこれを運用するにはがんゲノム医療の担当医1人の力ではどうにもならず、医療機関全体として自費診療のパネル検査も行っていくのだという総意が必要です。したがって、やるならやるで皆さんの所属先でも皆で話し合って入念な準備(および周到な根回し?)をしてから取りかかってください。

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