腫瘍学レ点ノート

2019-11-11

当直医の発熱性好中球減少症対応マニュアル

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このページには、『当直医のがん化学療法中の発熱性好中球減少症対応マニュアル(勝手版)』について記載します。

日中に起こる発熱性好中球減少症の対処と異なり、がん診療を専門としない当直医が時間外外来で行う初期対応はどのようにすればよいのか迷うことも少なくありません。ここに記載の内容は、非専門医による当直対応という非日常的な非常事態に簡潔かつ間違いの起こりにくさ優先した内容となっており、一部に不足があったり過剰診療となっている部分があります。各種ガイドラインの推奨から若干逸脱するところもあり、ご注意ください。

なお、免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボ、キイトルーダ、ヤーボイ、イミフィンジ、テセントリク、バベンチオ)を投与中または投与後に生じた全身状態悪化はここの記載の内容とは異なる対応が必要になることがしばしばありますのでご注意ください。


はじめに

がん化学療法を行っている患者に起こる副作用のうち、生命を脅かす事態になることがあり得る上に発生頻度が高く注意を要するものの筆頭は発熱性好中球減少症(Febrile Neutropenia;FN)です。発熱性好中球減少症は入院・外来を問わずがん化学療法を行っている患者の血球減少期に起こり、迅速な対応を要するため、しばしば主治医・専門医以外の医師が病棟当直や救急外来で直面することになります。

ここでは、非専門医ががん化学療法中の発熱性好中球減少症に出会った時に行って欲しい初期対応について記載します。なお、各医療機関で診療指針や対応マニュアルを定めている場合はそちらを優先してください。

発熱性好中球減少症が起こりやすい時期

一般的な抗癌剤(殺細胞性抗腫瘍薬)の血球減少期は投与から7〜14日目にピークがあることが多い。薬剤やレジメンによっては投与から14〜20日目など少し遅れて起こることもあります。タキサン系、イリノテカン、ネダプラチン、アムルビシンなど血球減少をきたしやすいことで知られる薬剤もありますが、ほとんどの抗腫瘍薬で起こる可能性があると考える方が無難でしょう。

過去に同種のレジメンによる治療を行っている場合は、その時の血球数の推移や発熱の有無などが発熱性好中球減少症の発生の予測に有用です。過去に発熱性好中球減少症の既往があること自体が、再び発熱性好中球減少症をきたす重大なリスク因子と考えておいて問題ないでしょう。

がん化学療法を受けている患者が発熱を主訴に外来を受診した場合

問診・バイタルサインの確認・一般的な身体診察はもちろん行うべきです。投薬中の抗癌剤以外の薬剤も含めて(がん患者はステロイドや免疫抑制剤を使用していることもしばしばある)、投薬歴の確認を行います。また下記の検査を行います。

実施すべき検査

好中球減少を伴う発熱がある場合、下記の検査は必須です。

必須検査

時間外外来では血液像や白血球分画は測定できないという施設も少なくないと思いますが、好中球数を測定できない場合はひとまずは「白血球総数の半分が好中球数」とみなして読み進めてください。

プラスアルファの検査

さらに以下を必要に応じて追加実施します。

血球減少がなくても、普段発熱が見られなかったがん患者が発熱している時点で注意を要します。バイタルサインに乱れがある、意識障害がある、重篤な肝機能・腎機能障害がある場合、好中球数100以下の場合はとりわけ注意が必要なので、至急がん専門医にコンサルトすることが望ましいでしょう。

特殊な状況について

血液腫瘍

急性白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫などの血液腫瘍では、積極的化学療法が実施されていなくても、あるいは重篤な血球減少がなくても易感染性を示すので注意が必要です。

血液内科の担当医と事前に対応手順を打ち合わせておくという方法もありますが、血液腫瘍の化学療法中に生じた発熱性好中球減少症の場合は当直医で判断せず直接血液内科医に電話でコンサルトすることも考慮します(取りこぼした時の重篤性が高いため)。

閉塞部位への感染

ドレナージが必要な部位に生じた閉塞性感染症では一般の感染症治療に加えて専門診療科による処置を要することがあります。胆道閉塞による胆管炎を伴う膵頭部癌、無気肺に膿瘍を生じた肺癌などが当てはまります。

その他に肝膿瘍、腸腰筋膿瘍、化膿性脊椎炎などは時間外外来の検査でフォーカスを特定しにくいですが重症化しやすく、注意が必要です。

その他に注意を要する因子

下記は特に注意を要する因子として知っておくとよいでしょう。

治療

抗菌薬の選択

各種培養などの採取後に、速やかに抗菌薬の投与を開始します。緑膿菌を含む広域をカバーする抗菌薬を用います。

メロペネム(メロペン)1gを8時間毎

または

ピペラシリン・タゾバクタム(ゾシン)4.5gを6-8時間毎

または

セフェピム(マキシピーム)1gを6〜8時間毎

過去には推奨されていたセフタジシム(モダシン)は、現在は耐性の問題から推奨されません。

抗MRSA薬が必要かどうか

過去にMRSAが検出されている患者や、カテーテル感染や蜂窩織炎などの皮膚感染症を伴う場合は入院でバンコマイシンの併用も考えます(ただし安定しているなら抗MRSA薬の投与は当直帯に開始せず翌日判断でよい)。

バンコマイシンの投与を行う場合は、初回投与と2回め投与はローディングが必要なので腎機能が多少悪くてもある程度の投与量が必要なことが多いですが、その後は血中濃度に応じた調整が必要です。バンコマイシンは急速投与するとヒスタミン遊離によるレッドネック症候群をきたすので、ゆっくりと投与してください。

バンコマイシンは1gを2時間かけてゆっくりと投与、

その12時間後に再度1gを2時間かけてゆっくりと投与。

その次からの投与量は、血中濃度を測定してそれに基づく投与設計が望ましいので、薬剤部などに確認をする。

ルーチンのウイルス、真菌のカバーは不要

夜間の当直対応では(明らかに活動性の帯状疱疹があるなどでない限り)ウイルス感染症・真菌感染症に対する治療をルーチンに行う必要はありません。

可能であれば、血液検査でβ-Dグルカンやアスペルギルス抗原の測定を行います。カンジダ症では肝臓・脾臓の腹部エコー、アスペルギルス症では副鼻腔CTが有用なこともあります。

ガンマグロブリン製剤もルーチンでは使用しません。抗菌薬に反応しない重症感染症に限って考慮することはありますが、当直医が使用することはまずないと考えてよいでしょう。

抗菌薬の投与期間はいつまでか

当直医が判断すべきことではないかもしれませんが、抗菌薬投与により解熱しても再発する危険があるため好中球数が500を上回るまでは抗菌薬投与を継続します。

G-CSFの対象、使用方法

G-CSFの適用は本邦の場合、医学的妥当性と保険適用に乖離があることに注意すべきです。本邦の保険適用は好中球が減少してから、あるいは好中球減少症を背景にした発熱が起こってからのG-CSF投与を想定していますが、G-CSFは投与してから血球数回復までタイムラグがあることなどから発熱性好中球減少症を来してから投与(治療的投与)するのではなく好中球減少症が予測されたら減少が始まる前に投与するほうがG-CSFの本領を発揮できます(G-CSFガイドラインの一次的予防、二次的予防の項を参照)。発熱してからのG-CSF投与は、発熱の寛解や入院期間短縮のエビデンスはあるが死亡率低下のエビデンスはないということになっています。

しかし発熱性好中球減少症を来してからこう言っても仕方がないので、実際には下記の場合にG-CSFの投与を検討します。

G-CSFの投与を考える目安

また上記に該当しない場合でも、すでに予防的投与が開始されている場合に発熱が出てきた場合は、好中球数が回復するまでG-CSF投与を継続します。

単球数は好中球数に先行して増減するので、好中球数が少なくても単球数が200を超えてくるようであれば急場はしのいだと言えます。一方で単球が一向に増えてこないようなら骨髄抑制は長引くと考えておくとよいでしょう。

抗がん薬投与当日にはG-CSFを投与しない

抗がん薬投与から24時間以内にはG-CSFの投与を行ってはいけません。多くの殺細胞性抗がん薬は増殖が旺盛な細胞に対して毒性を示すという機序で腫瘍細胞を攻撃します。抗がん剤とG-CSFが同時に投与されると、G−CSFにより増殖のアクセルがかかった骨髄細胞に対して抗がん薬が細胞傷害性を示し、次週からの骨髄抑制がかえって強まってしまうという問題が生じます。

G-CSFの投与法

固形がんの場合はフィルグラスチム75μgを皮下注射で投与します。静脈注射の場合は同じ投与量では効果が落ちますので、かならず皮下注射を選びましょう(皮内注射ではない)。

フィルグラスチム150μgおよび300μgは造血器腫瘍の患者に対して使用しますが、これについては保険適用の範囲が難しいので、当直医で判断せず血液専門医にコンサルトすることを考えても良いかもしれません。

フィルグラスチム(グラン) 75μg 1日1回皮下注射(好中球数2000を回復するまで連日)

くどいようですがG-CSFは予防投与がベストで、FNを発症してから投与するのは望ましい状況ではありませんが、あくまで緊急避難的な処置と考えています。なにしろFNは場合によっては命を落とすことがある疾患ですし、当直時間帯は日中の専門外来ではありませんので、多少の過剰診療は許容されると考えます(過剰診療を避けるよりも、取りこぼしを減らすことを重視する)。

発熱性好中球減少症の治療は入院か外来か

基本的には発熱性好中球減少症の治療は入院で行うことが無難でしょう。これまで自分が担当していた患者ではなく初めて会った人の場合や、当直医が普段からがんの診療を行っていない非専門医ならなおさら慎重めの判断がベターです。

入院治療のハードルが高い欧米においては一定の条件を満たすケースにおいて外来での治療が行われていますが、日本の場合は入院治療のハードルがそこまで高くないこともあり、基本的には入院の方向で考えましょう。

入院か外来化を判断する基準の一つとしてMASCCが入院適応に関するスコアリングシステムを公表していますが、非常に覚えにくい(スコアが高い方がリスクが低いという直感に反するスコアリングである)ことに加えて、本邦と海外の医療事情の違いもあるので、本法では発熱性好中球減少症の場合の入院閾値は低めに定めても良いのではないかと考えます。

ただし、無熱性の好中球減少症の場合は必ずしも入院は必要ではありません(この場合は発熱したら病院に連絡するよう指導しておくことが重要である)。また発熱を伴っていても全身状態が非常に判定していると判断できれば通院治療を行うこともあります。具体的には、以下の条件に該当する場合が通院での発熱性好中球減少症治療の候補となりそうです。

外来通院でのFNの治療を考える因子

外来通院で行う発熱性好中球減少症の治療の例

レボフロキサシン(500mg 1回/日 5日間)+オーグメンチン配合錠(250mg 4錠分4/日 5日間)

キノロン単剤でのFN治療はエビデンスが十分でなく、また近年はキノロン耐性菌の頻度が増えてきているので、上記の2種類併用が望ましいでしょう。海外ではレボフロキサシンの代わりにシプロフロキサシンが使われ、こちらのほうがエビデンスは豊富です。なお、NSAIDsとキノロンの同時使用は注意が必要です。

終わりに

がん化学療法中の発熱性好中球減少症の対応については、様々な臨床試験から得られた知見が積み上げられており各種ガイドラインが公表されるなどして、初期対応はある程度決まったものに従ってゆけば大きな外れを心配することはなさそうです。

全身状態を評価して、培養検査などを提出したあとは、迅速に広域抗菌薬の投与を開始するというのが基本的な流れになります。翌日以降、さまざまな検査や培養結果を元に治療をどうモディファイしてゆくかはがん専門医に任せるとして、ひとまず時間外外来で発生する初期対応について記載しました。