レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2020年 / 03月29日

総合病院のパンデミックへの想定訓練

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国立がん研究センター中央病院の病棟看護師2人が新型コロナウイルス感染症に罹患したというニュースが出ました。同じ病棟で働く看護師は自宅待機に、接触した入院患者や医師はウイルス検査を行う、この看護師が勤務していた病棟では新規入院を停止するということが報じられています。

国立がん研究センター 看護師2人感染確認 東京 中央 | NHKニュース
【NHK】東京 中央区にある国立がん研究センター中央病院は看護師2人が新型コロナウイルスに感染していたとして、2人が勤務する病棟で…
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200328/k10012355591000.html

3週間前には国立循環器病研究センターでも看護師が感染したという報道が出ていました。感染症指定医療機関ではないがんと心臓病のナショナルセンターでスタッフが隔離対象となる感染症に罹患したというのは、重大なニュースとして報じられました。

国立循環器病研究センター 看護師感染で外来休診 大阪 | NHKニュース
大阪・吹田市にある国立循環器病研究センターは、非常勤の看護師が新型コロナウイルスに感染していたことを受け、今月13日まで…
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200307/k10012319011000.html

Facebookでは、大曲貴夫先生が感染症指定医療機関ではない一般医療機関がもはや新型コロナウイルス感染症を避けることができない局面であることについて警鐘を鳴らされています。

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https://www.facebook.com/norio.ohmagari/posts/3120851841260952

発熱が4日間続いた場合のような従来の基準とは異なる、嗅覚や味覚の異常があった場合に新型コロナウイルス検査の対象とするかどうかということについては、今のところまだデータが少なすぎるのでその是非を論じるのは難しいのですが、いずれにせよ病院職員が感染した場合の対処については、感染症指定医療機関でなくても想定した準備を進めておく必要がありそうです。

いずれも私個人の私見(想像)で、実在の医療機関がこの通りの対策を行っているというわけではないので、ご注意ください。

パンデミック下の医療機関のダメージコントロール

医療者はこれまでテレワークというものが基本的に存在しない業界で、一部の一般企業のようにスタッフの大部分を自宅待機にするわけにはゆきません。ここからは指数関数的に罹患者が増えてマンパワーが歯抜けのように欠けてゆくでしょうから、全国の医療機関ではスタッフ脱落に対する病院機能を維持するためのダメージコントロールの手腕が問われてくることになりそうです。

具体的にはどのようなことを考えておく必要がありそうでしょうか。総合病院の場合は、ざっと考えつくだけでもこれくらいはありそうです。

受診の抑制

当然すでに行っている対応として、不要不急の外来受診を抑制します。

医療スタッフの欠勤への対応

看護師や医師が次々と隔離対象となる事態を想定して、その場合にも病院の指揮系統が乱れないようにして根幹業務は維持することが重要です。

非緊急手術の停止

看護師の欠員が増えて病棟や外来の運営が難しくなってきたり、術後管理に使っていた集中治療室やハイケアユニットが人工呼吸管理の必要なCOVID-19患者に優先的に割り当てられるようになると、もはや従来の手術業務を継続することは難しくなります。

繁忙部署の負担軽減

感染症科や呼吸器内科や集中治療科などCOVID-19対策の前面に押し出される診療科は仕事が急増して忙殺される一方で、急性期診療に関わらない科は業務がかなり減ることが予想されます。病院によっては非緊急手術がすべてストップになり、外科系業務がほとんど無くなるかもしれません。COVID-19対策に前面に立つ診療科が業務負担に押しつぶされないように負担軽減をしたり一部の業務を分散して、病院全体として繁忙部署を守るという姿勢が必要です。

防護資材の逼迫への対応

マスクやアルコール消毒が足りません。政府は増産して支給に務めると発表していますが、半月たっても一向に入荷される見込みは立っていません。各施設で残存資材の節約に努めていますが、こうなったら各施設にも苦渋の決断が求められるでしょう。増援部隊も補給もないままに米軍の猛攻撃にさらされた硫黄島の日本陸軍の心境です。

院内の接触機会の抑制

院内勉強会などはすでに中止になっているところが多いと思いますが、さらに多職種が集まる機会を減らせるだけ減らします。

(3〜4月限定)新入職職員の渡航歴・接触歴の確認

3月下旬から4月初旬に限っての対応として、多数の新規採用職員の海外渡航歴を確認しておくほうが良いでしょう。ある感染症メーリングリストで、4月から採用の新規初期研修医が海外へ卒業旅行に行っていたことが明らかになった事例が載っていたほか、本日にはイギリスなどへ卒業旅行に行ったあと症状があるまま大学の卒業式に出席した女子大学生の件もニュースで報じられていました。

さらに事態が進行した場合

それでもスタッフの欠員が続けば、病院運営はいずれかの時点で維持できなくなります。どの時点で病院全体の通常診療を全閉鎖してCOVID-19に全振りするか、これを決めるのは院長など催行責任者の責任でしょうし、パンデミックの最中で外来閉鎖するのが地域医療における病院の立ち位置の面で難しければ保健所や行政とのすり合わせも必要になるでしょう。

最後に

考えればきりがないCOVID-19対策ですが、この状況になってきた中で総合病院として想定しておくべきことを思いつくままにリストアップしました。それぞれの病院の状況に応じてmodifyしていただき、来たる事態に向けて十分に準備をしておきたいものです。そして、これらの念入りな準備がすべて空振りの杞憂に終わることを祈っています。


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更新日:2020-03-29 閲覧数:4784 views.