レ点腫瘍学ノート

2019-12-24

フィラデルフィア染色体

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フィラデルフィア染色体―遺伝子の謎、死に至るがん、画期的な治療法発見の物語 | ジェシカ ワプナー, Wapner, Jessica, 隆央, 斉藤 |本 | 通販 | Amazon
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死に至るがん

サブタイトルの「遺伝子の謎、死に至るがん、画期的な治療法発見の物語」というフレーズが、本書に描かれた物語を端的に表している。CML(慢性骨髄性白血病)の原因染色体異常であるフィラデルフィア染色体が発見され、病態の本質がブレーキの効かなくなったチロシンキナーゼにあることが明らかにされ、それに対する阻害作用を持つ新薬が開発されてゆく過程を克明に描いたノンフィクション書籍である。

CMLとチロシンキナーゼの歴史は、がんの研究と治療の歴史でもあった

CMLとチロシンキナーゼ阻害剤の話が物語の中心に据えられてはいるが、その歴史は当然ながらCMLに限らず様々ながんの研究と治療の歴史とも密接に関わっている。1959年にダウン症の遺伝的原因(つまりある染色体がひとつ余分にあること)が明らかにされたのと同じ年に、白血病患者の血球細胞で染色体のうちの1本が極端に短かいことを顕微鏡を通して目の当たりにした場面から物語が始まる。

その後はがんにまつわる医学史に関心のある方ならばよく御存知の通り、ラウス肉腫ウイルスRSVとがん遺伝子srcの発見に端を発するがん関連遺伝子を探る競争が世界中で始まってゆくわけだが、この競争の副産物がCML研究の進展に多大な貢献をし、逆にまたCML研究で得られた知見が他のがんの研究にも大いに影響を与えてゆく。人類が染色体転座を「見る」ことを可能にしたGバンド分染法の開発や、たまたま試薬の管理を怠ったことから幸運にも発見に繋がったチロシンキナーゼの知見や、タンパク質解析の研究に精通した戦友との出会いなど、治療薬の開発の過程でいくつもの偶然が続くゆくさまはまさに奇跡の積み重ねと言ってもよい。

しかし、手からするりとこぼれ落ちていてもおかしくなかったこのような偶然を逃すことなくしっかり掴み取って歴史に残る偉業につなげたのは、まさに最大の貢献者であるブライアン・ドラッカーががんの病態解明にただならぬ情熱を持って取り組み続けたからであった。

キナーゼ阻害剤化合物の研究の発展

STI-571というコードネームで呼ばれたキナーゼ阻害化合物の開発は、対象疾患がCMLという"商業的には旨味の小さい市場"であったこともあって、製薬企業上層部の意向に阻まれてなかなか臨床試験にこぎつけることができない。

有用で待ち望まれている薬であることがわかっているのに巨大企業の官僚主義に阻まれたドラッカーが抱いたもどかしさは、我々の普段の業務に通じるところがありそうだ。みなさんも身に覚えがあるように、臨床医たるものは、いつの世も医療的・科学的な正義と社会のしがらみや組織の理論の間で翻弄されるものらしい。以前に紹介した「ハーセプチンHer-2画期的乳癌治療薬ハーセプチンが誕生するまで」では、開発企業の経営的困難に振り回される様子やターゲット分子となるHer-2の発見からリード化合物となる抗体製剤の開発までの苦難は克明に描かれていたが、創薬の段取りがついてからは世間的にもハーセプチンを歓迎する機運が徐々に高まってゆく様子が描かれている。それに対してSTI-571の開発では、機序も明らかで動物実験での膨大なデータも積み重ねてきた新薬もヒトへの投与はなかなか行われず、保守的な上層部にこの臨床試験の重要性を納得させるまでも苦難が続く。

それにしても、医学的な問題だけでなく社会経済的な困難さも既存の薬とは全く段違いであることそれ自体が、「分子標的治療薬」というそれまでの医学の世界には全く無かった新しいカテゴリの薬の偉大さを、逆説的に表しているといえるだろう。

そしてイマチニブ(グリベック)の誕生へ

ASH(米国血液学会議)本会議での期待と高揚感に満ち満ちたドラッカーにの発表を経て、2001年2月27日にノバルティスからFDAに新薬承認のための書類を満載したトラックが運ばれてゆく。本誌の読者なら皆さんご存知であろうイマチニブ(商標名グリベック)の誕生である。CMLに脚の短い異常染色体が発見されて40年、分染法によりフィラデルフィア染色体の転座が発見されて30年が経過した年の出来事であった。

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