レ点腫瘍学ノート

がんゲノム/ミスマッチ修復機能欠損の判定検査方法による結果の違い の履歴差分(No.1)


#author("2021-03-19T01:29:36+09:00;1970-01-01T18:00:00+09:00","default:tgoto","tgoto")
ミスマッチ修復機能欠損を判定するための検査としては、現在おもに以下のようなものが臨床現場で利用可能であり(2021年3月現在)、それぞれの一致率は非常に高いと考えられています。

-MSI検査(マルチプレックスPCRベース、FALCO)
−IHC検査(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2の免疫化学染色)
−NGS検査(FoundationOne CDx、NCCオンコパネル)

※NCCオンコパネルによるMSI判定は従来は不能であったが、2021年3月から新たに機能が追加されました。

以前はMSI検査やパネル検査を用いなくても組織標本の免疫染色でもdMMRの判断が可能であることからIHC法が使われていることが多かったのですが、2018年12月にMSI検査が保険収載されてからはこれが主流になっています。海外ではIHC検査を使うことが多いようですが、日本ではIHC検査に使う染色抗体試薬が承認審査を受けなかったためにこうなったのではないかと言われているようです。

dMMRとMSIの一致率は非常に高いと考えられていますが、しかし中にはdMMRとMSIの不一致が見られる事例があるので注意を要する。

*腫瘍細胞率が低い場合 [#qc537182]

腫瘍細胞率が低いと(PCRベースの)MSI検査の感度は低下することが知られています。MSI検査はマイクロサテライトの反復配列回数を読み出す方法でミスマッチ修復機能欠損を判定していますが、この反復回数の判定が腫瘍細胞率が低い検体であればあるほど難しくなる(MSI判定のPCR結果の図をご覧になった方はおわかりいただけると思いますが、山がだんだん重なってくる)ので判定が困難となり、感度が下がってくるのです。

したがって、腫瘍細胞率が低い検体を用いる場合、MSI検査でMSI-LやMSSと判定されていてもdMMRのケースが発生する可能性が生じます。

*MSSとMSH6 [#k58b1556]

(PCRベースの)MSI検査でMSSと判定がなされてもMSH6については異常を有することはあるので、濃厚な家族歴があるなど臨床的にリンチ症候群を疑う場合はMSI検査でMSSと判定されていても組織標本でMSH6の免疫化学染色を検討することを検討して良いと思われます(ただしコンパニオン検査で陰性だったのでペムブロリズマブの保険適用には疑問符が付きます)。

*放射線治療後やプラチナ製剤化学療法後 [#pbc21bf5]

DNA損傷を多数引き起こすような治療の修飾によりMSH6蛋白質やMSH1蛋白質の発現が消失することが知られています((Am J Surg Pathol 2010 1798-1804))((Br J Cancer 2001 1064-1069))((Hum Pathol 2014 2029-2036))。この場合は免疫染色でdMMRがpMMRと判定される可能性が生じます。

*MSI検査とNGS検査のマイクロサテライト判定箇所の違い [#o73d9c0b]

ミスマッチ修復機能欠損があるとDNAの反復配列箇所のエラーが増えるため、DNAのうちこれらのエラーが生じやすい箇所をいくつか選んでミスマッチ修復機能欠損が生じているかどうかを判定しています。保険適用されているFALCOのMSI検査では5箇所のマイクロサテライトを用いて判定していますが、NGSでのミスマッチ修復機能欠損の判定は全く異なる場所で行われています。

たとえばFoundationOne CDxは95箇所のイントロンの反復配列を用いてミスマッチ修復機能欠損の判定を行っています。これはMSI検査やIHC検査との同等性検査をすでに実施しており、97%の一致率を示したとされています。NCCオンコパネルによるMSI判定はまだ可能となったばかりですのでどのような仕様で判定を行っているのかまだ不明です。