レ点腫瘍学ノート

がんゲノム/二次的所見 の履歴ソース(No.1)

#author("2019-09-06T08:21:27+09:00","default:tgoto","tgoto")
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*がん遺伝子パネル検査で発見される二次的所見(secondary  finding)について

がん遺伝子パネル検査は本来は腫瘍細胞に生じた体細胞変異(somatic  mutation)を見つけるためのものだが、これらの検査では偶然に先天的に有する生殖細胞系列変異(germline  mutation)を検出することがある。生殖細胞系列変異の中にはBRCA変異のように有効な治療薬候補が見つかる有用な所見もあるのだが、これらの予期せず検出される検査は患者本人だけでなく親子・兄弟など血縁者全体の遺伝性疾患の発見につながることもあり、それらの予期せぬ所見は二次的所見(secondary findings)と呼ばれて慎重な扱いを求められることが一般的である。生殖細胞系列の遺伝子異常などの二次的所見が発見される頻度が急速に増えるにつれて、一般のがん診療の現場でも遺伝カウンセリングの重要性や一般臨床でこれらの変異をどのように扱うかという問題に関する議論が盛り上がりつつある。

* パネル検査で偶然に見つかる二次的所見の頻度はどの程度あるか

そもそも、偶然に見つかる遺伝性腫瘍に関連する二次的所見はどの程度あるのか。

乳癌に関しては、日本の乳癌患者の5.7%に生殖細胞系列に病的バリアントを認めたと報告がある。全年齢では5.7%(コントロール群の健康女性では0.60%)であったが、40歳未満発症の乳癌患者では15%以上と非常に頻度が高く、また80歳以上でも3.2%の生殖細胞系列の病的バリアントを認める。遺伝子の種類はBRCA1、BRCA2、PALB2、TP53などが多く見られた。/Nat Commun 2018

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30287823

一方で癌腫を問わず横断的に実施されたデータでは、日本の国立がん研究センター中央病院などが中心になって実施したTOPGEAR-2計画中で判明した頻度に関する報告で559例のうち20例(3.6%)に生殖細胞系列に報告対象の病的変異を認めたと報告されている。内訳は乳癌6例、卵巣癌4例、腹膜癌2例と女性に多く見られる腫瘍が多いが、ほかに肉腫なども挙げられている。発見された遺伝子はBRCA1、BRCA2、TP53、MSH2、RB1などが報告された。一方、問診や既往歴・家族歴からこれらの存在が推定できた症例は半分に過ぎなかったという点が特筆すべきである。
/JSMO2019 学会抄録 O2-6-2 Tanabe et al.

*本人や家族に開示すべき遺伝子のリスト

二次的変異のうち開示すべきものとして最も有名なのはACMGの遺伝子変異リストである。2019年8月現在で59遺伝子が掲載されている。最近になってNTRK1は除外された(2019年)。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/clinvar/docs/acmg/

日本ではもう少し対象遺伝子を狭めたもののほうが実臨床に合致しやすいとの意見もある。AMEDのサイトにて公開されている小杉班の二次的所見開示のミニマムリストはもう少し対象遺伝子を絞っている(2019.01.21版で11遺伝子)。リンチ症候群の原因遺伝子やHBOCのBRCAなどのactionable性が高いものが対象になっている。ACMGのリストで含まれていたTP53などは含まれていない。

https://www.amed.go.jp/content/000045428.pdf

* アレル頻度からgermline変異を見つけられるか。あるいは遺伝子の種類からgermlineと判定できるか。

アレル頻度が13%でもgermlineのこともありアレル頻度だけでgermlineかどうかを判断するのは難しいという報告がある。TP53やAPCはほとんどがsomaticなのに対してBRCAは8割がgermline mutationであるなど、遺伝子の種類によってある程度の推測ができるという報告もある。BRCAについてはNCCNもこの理由から遺伝学的検査を推奨するとしている。/Ann oncol 2016

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26787237

/JCO 2018 Identification of Incidental Germline Mutations in Patients With Advanced Solid Tumors Who Underwent Cell-Free Circulating Tumor DNA Sequencing. - PubMed - NCBI

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30339520

* 従来の「単遺伝子検査」で発見される遺伝性腫瘍性疾患と「多遺伝子パネル検査」で発見される遺伝性腫瘍性疾患の表現型に差はあるか

多遺伝子パネル検査で発見されるリ・フラウメニ症候群は従来のような単遺伝子検査で発見されるものに比べて発がん頻度も低く、その発症年齢も遅いとの報告がある。この報告ではTP53変異は単遺伝子検査では0.2%しか検出されないのに対して多遺伝子パネル検査では4%に生殖細胞系列TP53異常を認めた一方で、発癌年齢は多遺伝子パネル検査で発見されたリフラウメニ症候群は発癌が女性で約10歳、男性はそれ以上に遅いとの傾向が見られた。パネル検査で発見された遺伝性腫瘍は単遺伝子検査で明らかになったものよりも表現型が緩やかに現れることを示唆する結果であった。

この知見がリ・フラウメニ症候群以外でも成り立つのかどうか、また多遺伝子パネル検査で発見された遺伝性腫瘍はこれまでとサーベイランス・サバイバーフォローアップの方法を変えるべきなのかについては、まだデータが非常に少ないために判断困難である。/JNCI

https://academic.oup.com/jnci/article/110/8/863/4911462

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