レ点腫瘍学ノート

がんゲノム/TMB高値の固形がんに関するメモ の履歴ソース(No.1)

#author("2019-11-13T23:06:22+09:00","default:tgoto","tgoto")
*はじめに

がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査の普及に伴ってMSIが治療選択に関わるバイオマーカーの一つとみなされるようになり、また臓器にとらわれないMSI-H固形がんという疾患概念も一般的になってきました。

悪性腫瘍はゲノム異常の蓄積によって引き起こされますが、非常に少数だが致命的なdriver変異によって引き起こされる悪性腫瘍がある一方で、雑多な遺伝子変異の総数が非常に多いhypermutatedな悪性腫瘍もあります。hypermutated固形がんと呼ぶべきかTMB高値固形がんと呼ぶべきか、指すところはほぼ同じですが、ここではTMBとして述べることにします。

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*TMBはがん種により異なる

TMBはがん種によって大きく異なることが報告されています。特に悪性黒色腫や非小細胞肺癌などでTMBが高いことが知られていますが、これらはICIの有効性が比較的早期から認められてきたがん種でもあります。

#ogp(https://www.nature.com/articles/nature12477,amp)

大腸癌は全体としてはTMBが非常に多いがん種ではありませんが、大腸癌の中に一部TMBが非常に高い集団があり、これはMSI-H大腸癌であったりPOLE大腸癌であったりします。一部に、生殖細胞系列にDNAのミスマッチ修復の機能異常を持つLynch症候群などを含みます。

#ogp(https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(17)31142-X,amp)

#ogp(https://www.nature.com/articles/nm.4333,amp)

同じがん種であっても紫外線や喫煙などの変異源にさらされたことによって生じたがんの方がTMBが高いという報告もあります。一方で白血病や軟部腫瘍や小児がんなどでは少数だが重篤な影響を及ぼす変異によって発癌していることがしばしばあり、TMBは低い傾向にあります。

**治療歴や進行度によっても変動する

細胞障害性化学療法を受けた患者の腫瘍ではTMBが上昇する。化学療法を受けるなかで様々な遺伝子変異が蓄積することで耐性を獲得した細胞が選択されてゆくことでTMBが高くなる方向への誘導が働くことなどが推測されます。

*TMBとMSIの関係

62150人のうちTMBが4328人でMSIかつTMB-Hは699人。言い換えれば、MSI-Hのうち83%がTMB-HであるがTMB-HのうちMSI-Hは16%しかいません。MSI-HならTMBが高いというのはかなり言えそうですが、TMBが高ければMSI-Hであるというのは若干難しいのではないかという値です。なお、TMB-HとMSI-Hの重なりは消化器がんではこのデータより高めのようでもあります。

Genome Med 2017 Chalmers
#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28420421,amp)

**MSI-H陽性腫瘍はTMBが高い

そして、臓器を問わずにTMBが高くhypermutatedながんを来しやすいのが、ミスマッチ修復に異常をきたした悪性腫瘍です。MSH2、MLH1、MSH6、PMS2などのDNAのミスマッチ修復に関連する遺伝子に異常がある場合はDNAに生じた傷が修復されにくくなるため遺伝子異常が蓄積しやすくなり、TMBが高くなります。

**TMBのカットオフ値

TMBのカットオフ値については統一されたものはありませんが、今後は統一された基準を設定しようという動きがあります。

#ogp(https://academic.oup.com/annonc/article/30/1/44/5160130,amp)

**パネル検査やリキッドバイオプシーで推定するTMB

腫瘍組織DNA検体からのパネル検査やリキッドバイオプシーから算出するTMBと全ゲノム解析のTMBのconcordanceについてもさらなる検討が必要です。

*TMBは免疫チェックポイント阻害剤の治療効果に関連する

悪性腫瘍の総数はTMB(tumor mutation burden)としてしばしばがん遺伝子パネル検査に基づくがんゲノム医療でも議論されますが、その理由はTMBの高さが免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の奏効率と相関することが明らかにされたことにより、TMBの高さががん薬物療法のバイオマーカーの一つと認識されるようになったからです。TMB高値はICIの有効性の高さを予測させる因子の一つとは言えそうです。

***最初に報告された悪性黒色腫のmutation loadとCTLA-4抗体の有効性の関係

2014

#ogp(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1406498,amp)

***悪性黒色腫のPD-1抗体との関係

2016。BRCA2などにも影響を受けるかもしれない。

#ogp(https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(16)30215-X,amp)

***非小細胞肺癌でも変異量とICIの感受性に関係
#ogp(https://science.sciencemag.org/content/348/6230/124,amp)
#ogp(https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1613493,amp)

***イピリムマブ+ニボルマブ併用療法でも。
#ogp(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1801946,amp)
#ogp(https://www.cell.com/cancer-cell/fulltext/S1535-6108(18)30123-5,amp)
#ogp(https://www.cell.com/cancer-cell/fulltext/S1535-6108(18)30172-7,amp)

非小細胞肺癌に対して。2018

#ogp(https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMc1808251,amp)
非小細胞肺癌の術前化学療法でも。2018

***尿路上皮癌でも

#ogp(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)00561-4/fulltext,amp)

#ogp(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)00561-4/fulltext,amp)

***TMPとICIの奏効率は多臓器で相関する
#ogp(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc1713444,amp)

***TMBとPD-L1染色とICIの有効性の関係
#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6336005/,amp)

***MSI-H固形がんとペムブロリズマブの機序
#ogp(https://ascopubs.org/doi/pdf/10.1200/JCO.2014.59.4358,amp)

***微小環境との関係
#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29033130,amp)

そしてNature Geneticsにはこれに関してMSK-IMPACTのデータを活用して、ICIを受けた1,662人とICIを受けなかった5,371人のデータから、臓器横断的にTMBがICI治療後の長期生存に関連する因子であるということに関するレターが掲載されました。

#ogp(https://www.nature.com/articles/s41588-018-0312-8,amp)

*MSI-H固形がんに対する承認薬が今後TMB-high全般に拡大されるかは今後の課題

MSI-H固形がんに対するペムブロリズマブの前向き第2相試験(KEYNOTE-158試験)のエビデンスを根拠にして、MSI-H固形がんに対しては2018年12月からペムブロリズマブが承認されました。

#ogp(https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.19.02105,amp)

しかし現時点ではMSI-H固形がんのエビデンスをTMB-high固形がんにそのまま外挿するわけにはいきません。現時点(2019年11月)ではTMB-highの患者群に対するICIの前向き無作為化試験が実施されたわけではないので、MSI-H固形がんに対するペムブロリズマブは国内・FDAとも承認がありエビデンスレベル1Aですが、TMB-highに対するICIはエビデンスレベル3A相当でしょうか。