レ点腫瘍学ノート

がんゲノム/TMB高値の固形がんに関するメモ の履歴差分(No.7)


#author("2019-11-16T04:14:28+09:00;2019-11-15T08:31:38+09:00","default:tgoto","tgoto")
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''2019.11.13初稿''
''2019.11.15一部追記''

*はじめに

がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査の普及に伴ってMSIが治療選択に関わるバイオマーカーの一つとみなされるようになり、また臓器にとらわれないMSI-H固形がんという疾患概念も一般的になってきました。

悪性腫瘍はゲノム異常の蓄積によって引き起こされますが、非常に少数だが致命的なdriver変異によって引き起こされる悪性腫瘍がある一方で、雑多な遺伝子変異の総数が非常に多いhypermutatedな悪性腫瘍もあります。hypermutated固形がんと呼ぶべきかTMB高値固形がんと呼ぶべきか、指すところはほぼ同じですが、ここではTMBとして述べることにします。なお、TMB-highとMSI-Hは重複する特性は多いものの別概念であることに注意が必要です。

主に自分のメモ書きでもあるので雑多な内容ですが、逐次追記します(おそらく)。

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#contents

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*TMBはがん種により異なる

#ref(https://oncology.uvs.jp/img/1152675db5.jpg,nolink,100%)

TMBはがん種によって大きく異なることが報告されています。特に悪性黒色腫や非小細胞肺癌などでTMBが高いことが知られていますが、これらはICIの有効性が比較的早期から認められてきたがん種でもあります。

#ogp(https://www.nature.com/articles/nature12477,amp)

大腸癌は全体としてはTMBが非常に多いがん種ではありませんが、大腸癌の中に一部TMBが非常に高い集団があり、これはMSI-H大腸癌であったりPOLE大腸癌であったりします。一部に、生殖細胞系列にDNAのミスマッチ修復の機能異常を持つLynch症候群などを含みます。

https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(17)31142-X

**発がん因子、治療歴や進行度によっても生じる差異

#ref(https://oncology.uvs.jp/img/1152675db5-b.jpg,nolink,100%)

#ogp(https://www.nature.com/articles/nm.4333,amp)

10000人のゲノムの網羅的解析のデータを集めた研究から、同じがん種であっても紫外線や喫煙などの変異源にさらされたことによって生じたがんの方がTMBが高いという報告もあります。一方で白血病や軟部腫瘍や小児がんなどでは少数だが重篤な影響を及ぼす変異によって発癌していることがしばしばあり、TMBは低い傾向にあります。

またテモゾロミドなど細胞障害性化学療法を受けた患者の腫瘍ではTMBが上昇します。化学療法を受けるなかで様々な遺伝子変異が蓄積することで耐性を獲得した細胞が選択されてゆくことでTMBが高くなる方向への誘導が働くことなどが推測されます。

**転移巣と原発巣

非小細胞肺癌の原発巣と転移巣のTMBの検討から、もともと腺癌は扁平上皮癌よりTMBが高めだが、腺癌の中でも転移巣は原発巣でTMBが高い傾向があり、脳単位でそれが最も高くなるという報告があります(脳転移するとTMBが高くなるのか、TMBが高いから脳転移するのかはわからない)。

https://ascopubs.org/doi/10.1200/PO.18.00376

**変異のタイプによる影響

TMBは変異塩基数を単純にカウントした数ですが、単純に1塩基が置換されたりコドン枠に変化がないinframe-indel(3の倍数の塩基数の欠失挿入)に比べると、frameshiftをきたすindel変異の多さのほうが、ICIの有効性に大きな影響を与えるという報告もあります。

#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28694034,amp)

*TMBとMSIの関係

#ref(https://oncology.uvs.jp/img/1152675db5-d.png,nolink,100%)

この10万人ゲノム解析の報告によると、mutation burdenが評価できた62150人のうちTMBが4328人でMSIかつTMB-Hは699人。言い換えれば、MSI-Hのうち83%がTMB-HであるがTMB-HのうちMSI-Hは16%しかいません。MSI-HならTMBが高いというのはかなり言えそうですが、TMBが高ければMSI-Hであるというのは若干難しいのではないかという値です。

#ref(https://oncology.uvs.jp/img/1152675db5-h.png,nolink,100%)

TMB-HとMSI-Hの重なりは消化管癌や子宮体癌ではこのデータより高めのようでもあります。一方で肺癌ではTMBとMSI-Hの相関は乏しくなります。そして悪性黒色腫はこの棒グラフの右から2番目と3番目、いずれも薄水色のバーが高く伸びていて濃い青色はありませんので、TMBは極めて高いのですがMSI-Hはほぼ見られないということになります。

#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28420421,amp)

**MSI-H陽性腫瘍はTMBが高い

そして、臓器を問わずにTMBが高くhypermutatedながんを来しやすいのが、ミスマッチ修復に異常をきたした悪性腫瘍です。MSH2、MLH1、MSH6、PMS2などのDNAのミスマッチ修復に関連する遺伝子に異常がある場合はDNAに生じた傷が修復されにくくなるため遺伝子異常が蓄積しやすくなり、TMBが高くなります。

**TMBのカットオフ値

TMBのカットオフ値については統一されたものはありません。同じdMMR(あるいはTMB-high)に対するニボルマブのCHECKMATE試験でも、TMBのカットオフ値は9/Mbから16/Mbまであり、測定方法も標準化されていません。しかし今後は統一された基準を設定しようという動きがあります。

#ogp(https://academic.oup.com/annonc/article/30/1/44/5160130,amp)

**パネル検査やリキッドバイオプシーで推定するTMB

#ref(https://oncology.uvs.jp/img/1152675db5-e.jpg,nolink,100%)
#ref(https://oncology.uvs.jp/img/1152675db5-e.png,nolink,100%)

前述の10万人ゲノム解析の研究ではパネル検査と全エクソンシークエンスのMb(100万塩基)あたりの変異数の相関についても検討しています。R2=0.74である程度の相関はありそうで、とくにmutation burdenが高めの部分では非常に高い相関性があると言えそうです。腫瘍組織DNA検体からのパネル検査やリキッドバイオプシーから算出するTMBと全ゲノム解析のTMBのconcordanceについては、今後もさらなる検討が必要です。

#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28420421,amp)

*POLEとMSI/MMRとhypermutationの関係

#ref(https://oncology.uvs.jp/img/1152675db5-g.jpg,nolink,100%)

TMBが高いhypermutated固形がんになる要因としてはMSI-HやMMRがよく知られていますが、これらよりもさらに高いTMBになる要因としてPOLEやPOLDが知られています。下記の文献ではTMBが10/Mb以下をlow  mutated、10〜100/Mbをhypermutated、100/Mb以上をultrahypermutatedとしてそれぞれの特性を調べていますが、hypermutatedのクラスタにはMSI-Hの関与が大きいですがultrahypermutatedになるとむしろMSI-Hの関与の割合が減ってPOLEまたはPOLE+MMRの重要性が高まることが示唆されています。ultrahypermutatedに該当するのは腎癌・前立腺癌・消化管癌・子宮体癌などがあるほか、小児のgliomaが圧倒的にTMBの高い腫瘍とされています。

#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29056344,amp)

*TMBは免疫チェックポイント阻害剤の治療効果に関連する

悪性腫瘍の総数はTMB(tumor mutation burden)としてしばしばがん遺伝子パネル検査に基づくがんゲノム医療でも議論されますが、その理由はTMBの高さが免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の奏効率と相関することが明らかにされたことにより、TMBの高さががん薬物療法のバイオマーカーの一つと認識されるようになったからです。TMB高値はICIの有効性の高さを予測させる因子の一つとは言えそうです。

***最初に報告された悪性黒色腫のmutation loadとCTLA-4抗体の有効性の関係

2014

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1406498

***悪性黒色腫のPD-1抗体との関係

2016。BRCA2などにも影響を受けるかもしれない。

https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(16)30215-X

***非小細胞肺癌でも変異量とICIの感受性に関係
#ogp(https://science.sciencemag.org/content/348/6230/124,amp)

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1613493

***イピリムマブ+ニボルマブ併用療法でも。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1801946
https://www.cell.com/cancer-cell/fulltext/S1535-6108(18)30123-5
https://www.cell.com/cancer-cell/fulltext/S1535-6108(18)30172-7

非小細胞肺癌に対して。2018

***術前化学療法でも

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMc1808251
非小細胞肺癌の術前化学療法でも。2018

***尿路上皮癌でも

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)00561-4/fulltext
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)00561-4/fulltext

***TMPとICIの奏効率は多臓器で相関する

#ref(https://oncology.uvs.jp/img/1152675db5-c.jpg,nolink,100%)

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc1713444

***TMBとPD-L1染色とICIの有効性の関係
#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6336005/,amp)

***MSI-H固形がんとペムブロリズマブの機序に関する総説
https://ascopubs.org/doi/pdf/10.1200/JCO.2014.59.4358

***微小環境との関係
#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29033130,amp)

***臓器横断的に変異量はICI後の長期予後を予測する

そしてNature Geneticsにはこれに関してMSK-IMPACTのデータを活用して、ICIを受けた1,662人とICIを受けなかった5,371人のデータから、臓器横断的にTMBがICI治療後の長期生存に関連する因子であるということに関するレターが掲載されました。

#ogp(https://www.nature.com/articles/s41588-018-0312-8,amp)

ただし、宿主状態によってもICIの効果は大きく左右されるし、PBRM1やARID1Aなど免疫療法の奏効に相関する他の因子も見つかっているので、TMBは数値がいくらならICIが有効とか無効とか一律に数値で決められるパラメータではないことに注意が必要です。

特に、数多くの臨床試験からICIの有効性予測因子としてECOG PSの良さが挙げられていますから、がんゲノム情報だけでなく患者背景など臨床所見を軽視してTMBを特別扱いしてはいけません。

*MSI-H固形がんに対する承認薬が今後TMB-high全般に拡大されるかは今後の課題

#ref(https://oncology.uvs.jp/img/1152675db5-f.jpg,nolink,100%)

MSI-H固形がんに対するペムブロリズマブの前向き第2相試験(KEYNOTE-158試験)のエビデンスを根拠にして、MSI-H固形がんに対しては2018年12月からペムブロリズマブが承認されました。

https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.19.02105

しかし現時点ではMSI-H固形がんのエビデンスをTMB-high固形がんにそのまま外挿するわけにはいきません。現時点(2019年11月)ではTMB-highの患者群に対するICIの前向き無作為化試験が実施されたわけではないので、MSI-H固形がんに対するペムブロリズマブは国内・FDAとも承認がありエビデンスレベル1Aですが、TMB-highに対するICIはエビデンスレベル3A相当でしょうか。