レ点腫瘍学ノート

まとめ/2022年5月 の履歴の現在との差分(No.2)


#author("2022-05-22T19:14:21+09:00","default:tgoto","tgoto")
#author("2022-12-01T00:43:12+09:00;2022-05-28T09:52:17+09:00","default:tgoto","tgoto")
2022年05月のまとめ。

#contents

* 臓器横断的なKRAS G12Cの頻度に関する網羅的な解析 [#nff740b8]

#ogp(https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/PO.21.00245)

- KRAS変異の中でKRAS G12Cは現時点で唯一、標的治療が実用化されている重要な変異である。KRAS変異の中でKRAS G12Cがどのような臨床像を有するかについてはこれまでは大規模には検討されていなかった。
- 79000人以上の様々ながんについて検討し、そのうち17.4%がKRAS変異を有していた。KRAS変異の内訳はG12D (29.5%), G12V (23.0%), G12C (11.9%), G13D (6.5%), G12R (6.2%)の順であり、G12Cが検出された患者は女性・喫煙者・60歳以上という傾向があった。臓器別では非小細胞肺癌が最多で、以下は虫垂癌や結腸癌が続いた。
- KRAS G12Cは他のKRAS変異と比べてTMB-highとなる割合が倍ほどに高く、STK11やKEAP1(これらは免疫チェックポイント阻害剤耐性因子として知られる)の変異を有する率も他のKRAS変異と比べて3〜4倍と有意に高い。
- KRAS G12Cは他のKRAS変異とは随分と様子が違う印象がある。

* 大腸癌のctDNAの転移部位別解析 [#t5fb4134]

#ogp(https://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/PO.21.00535)

- 坂東英明先生らの研究。
- 大腸癌はRAS変異をリキッドバイオプシーで検出するOncoBEAM法が保険収載されており実際の臨床で既に使用可能となっている。大腸癌の転移巣によってその検出感度には差があることが知られており、大腸癌の遺伝子検査などのガイダンス第4版などでも肺転移単独や腹膜播種では検出能がやや低いと記載されていた。
- この論文はそれを裏付けるもの。SCRUM-Japan GOZILA試験の1187人の患者のうち単独の遠隔転移を有する138人を対象に、Guardant360でctDNAが検出されるかどうかを解析している。
- ctDNAが検出された割合は、肝転移のみで95.9%、リンパ節転移のみで80.0%に対して、腹膜播種のみでは56.0%で肺転移のみでは65.9%と低い数字となる。
- 検出された遺伝子変異のうち各症例で最も高いVAFを検出した変異のVAF中央値も、肝転移では23.1%と十分なVAFが検出されたのに対して、リンパ節転移のみでは6.0%とかなり下がり、腹膜播種や肺転移のみでは0.4%と非常に低いVAFしか検出されていない。
- 腹膜播種はともかく、肺は血流も豊富で血中にctDNAが流れ出してもおかしくない印象もあるが、なんらかの理由で肺から全身循環にはctDNAが流れにくいのか。一般に大腸癌の場合は肺転移は肝転移などに比べて腫瘍サイズが小さく数も少ない傾向にあるので、この体内の腫瘍細胞数の違いも影響しているかもしれない。

* BRAF変異大腸癌はCA19-9/CEA比が高い [#tbaec390]

#ogp(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32399264/)

- BRAF V600E MSS大腸癌は、MSI-H大腸癌、RAS変異型大腸癌、RAS/RAF野生型大腸癌と比べてCA19-9/CEA比が高いとの報告。
- BRAF V600E MSS大腸癌ではCA19-9/CEA比の中央値は28.92に対して、MSI-H大腸癌はこの4群で最も低く4.06であったとのこと。

#tweet(https://twitter.com/pashtoonkasi/status/1528045928191500290)

* リンチ症候群患者の正常大腸上皮に遺伝子変異が蓄積しているか [#t2f9099f]

#ogp(https://www.nature.com/articles/s41467-022-29920-2)

- リンチ症候群では大腸癌が発癌する前から遺伝子変異が蓄積しているのかどうかについて検討したところ、本研究で解析したところではMSH2変異を有するリンチ症候群患者でも正常粘膜ではそこまで変異が蓄積していないという結果が得られたよう。
- なお、POLE変異を有する患者では大腸癌を発症する前の正常粘膜の時点で変異が非常に多く蓄積されているのとは異なる結果である。germline POLE変異を有する人の正常消化管上皮の変異蓄積については既に別の研究で報告されている((Nat Genet 2021 https://www.nature.com/articles/s41588-021-00930-y))。ポリメラーゼ校正機能が失われている状態に比べると、MMR関連遺伝子の1アレルだけの異常ではそこまで変異を蓄積させることがないのかもしれないと考察欄で言及されている。なお、POLE変異があると変異蓄積が平均的なリンチ症候群患者よりも進みやすいのに、生涯の発癌率はリンチ症候群に比べてそこまで高くはないことから、germlineに POLEまたはMMR関連遺伝子の変異があるだけの段階では変異蓄積率の差だけが発癌リスクを説明するものではないと言えそう。後述するように、1HITだけの段階と2HIT目を獲得してからの段階では、変異蓄積量だけでは説明できない修復機能の失われ方に差があるのかもしれない。
- germlineレベルで両アレルともMMR関連遺伝子が機能していない患者(constitutional MMR deficiency (CMMRD))では片アレルだけのリンチ症候群に比べて変異が10〜60倍と極めて高頻度に起こる((https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.04.14.437578v1))との報告もあることから、MMR関連遺伝子の異常は2HIT目が起こってからの変異を蓄積させる力は極めて高そうだ。
- この研究ではすでに2HIT目が起こっているクリプトは観察されなかったようだがミスマッチ修復機能欠損が始まっているものも少なからずみられたようで、ここから何らかの2HIT目を獲得した細胞が一気に癌化の道を走り出すことになるのか?

* 第3世代EGFR・ALK阻害剤に関する薬剤耐性獲得に関するレビュー [#gf5f2854]

#ogp(https://www.nature.com/articles/s41571-022-00639-9)
まだ全部読めていません。あとで読む。

* 新規承認薬は真に患者に有用性をもたらしているか [#xf8a2eea]

#ogp(https://www.nature.com/articles/s41571-022-00636-y)

- 2017~2021年にFDAが承認した固形腫瘍に用いる抗がん剤161製品のうち、明確なOS延長が認められてるのは27%しかなかったという話。
- 治療薬の新規承認プロセスは複雑になってきているが、実際に治療効果が患者の生命予後に恩恵をもたらしているのか、中身を伴った評価手法が求められているとのこと。

#tweet(https://twitter.com/yoh_tw/status/1523573730118561792)

* オキサリプラチン末梢神経障害に対する予防的手指冷却(結果に難あり) [#f81f237f]

#ogp(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31912787/)

- オキサリプラチンの末梢神経障害はタキサンと異なり、冷たいものに触れた時にビリッとくるという特徴があるので、直感的に手指冷却によってオキサリプラチンの神経性疼痛を軽減するのは無理があると思うが、ちゃんとそれをRCTで確かめようとした人がいるらしい。
- 結果は、手指冷却によってオキサリプラチンの末梢神経障害による症状がいくらか出にくくなるという結果が部分的に示されたものの、特筆すべきは「discomfort」のためのドロップアウトが3分の1を超える点。実際に運用するのはあまり現実底ではなさそう。
- オキサリプラチンの末梢神経障害予防には薬物的な介入(例えば活性酸素を抑制しようとか)の臨床試験もなされてはいるものの、なかなか簡単ではなさそうだ。

* セツキシマブの隔週投与法に関するメタ解析 [#n4326c49]

#ogp(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35522557/)

- セツキシマブの投与法の原法は初回400mg/m2、翌週以降は毎週250mg/m2という投与法である。しかし毎週点滴というのは患者にも通院の負担がかかるし病院側としても外来化学療法センターの混雑に繋がるので(外来化学療法加算の算定回数は増やせるが)、これを500mg/m2隔週投与する方法が本邦でも承認されており、米国でもNCCNガイドラインでも推奨される投与法の1つとなっている。ただし、この隔週投与法が原法に比べて本当に有効性や安全性の面で差がないのかは十分な検証がされてきたとは言い難い。
- これについて、後方視的なメタアナリシスだがその差が無いのかを検討したのが、CRYSTAL試験を5つの第2相試験と患者背景を統計学的にマッチさせて統合解析したこの研究である。
- この研究では、OSやPFSなどの有効性、皮膚毒性などの安全性など複数の観点で解析をしているが、weeklyと biweeklyではその違いはなかったという。

#tweet(https://twitter.com/yoh_tw/status/1523982755326939137)

* 臨床試験へのアクセスを改善するために(コメント) [#vcc9c9dc]

#ogp(https://asco.quorum.us/campaign/39559/)

- 臨床試験へのアクセスを改善するためにと題したコメント

* アクセプトされた論文はSNSで宣伝すると閲覧者が増える [#ia13b462]

#ogp(https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/86/4/86_CJ-21-0944/_article)

- Twitter投稿により、論文閲覧数は情報する可能性があり、その効果は特に投稿当日に顕著という話。
- 最近は論文を投稿してアクセプトされると、その出版社からも共有リンクURLを各自のSNSなどで宣伝するようにという協力を求める文面が入っていることも少なくない。

#tweet(https://twitter.com/jcirc_ipr/status/1523454322075262978)

* インターネットに溢れるがんにまつわるウソ情報から真実を見出だす [#g9f8ad7b]

#ogp(https://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/OP.21.00764)

- インターネットに溢れるがんにまつわるウソ情報から真実を見出だすためのレビュー。

#tweet(https://twitter.com/mtcosb/status/1509896881396137984)
#pcomment