レ点腫瘍学ノート

免疫チェックポイント/PPIと免疫チェックポイント阻害剤 の履歴ソース(No.1)

#author("2020-09-19T06:23:34+09:00;1970-01-01T18:00:00+09:00","default:tgoto","tgoto")
プロトンポンプ阻害剤が免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の有効性に悪影響を及ぼすかもしれないと言う報告が出てきました。これまでにも抗菌薬の投与はICIの有効性を落とすということが言われていましたが、ICIとプロトンポンプ阻害剤の関係についての報告は初めてではないかと思われます。

*PPIの使用はアテゾリズマブ投与患者の死亡リスク上昇に関与する

#ref(ppi1.png)

尿路上皮癌に対するアテゾリズマブの臨床試験(IMvigor210試験、IMvigor211試験)のプールされたデータを元に、アテゾリズマブの投与開始前後30日の期間にPPIを使用したかどうかを検討されました。化学療法群ではPPIの使用とOSに相関がありませんでしたが、アテゾリズマブ群ではOSもPFSも有意に悪いという結果が出ています。/Clinical Cancer Research

#ogp(https://clincancerres.aacrjournals.org/content/early/2020/09/11/1078-0432.CCR-20-1876)

#ref(ppi2.png)

実はPPIとアテゾリズマブの関係の報告は初めてではなかったようで(今回の報告を知ってから探したところ見つかったのですが)、非小細胞肺癌でも似た報告があるようです。こちらの肺癌の検討では抗菌薬の使用有無とPPIの使用有無が並行して解析されており、抗菌薬もPPIも使用している患者の生存曲線は不使用よりも下を行っています。/Ann Oncol

#ogp(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0923753420359275)

昨年のASCO2019にも単施設でプロトンポンプ阻害剤とICIの関係を検討した発表がありましたが、その時点では小規模な報告だったこともあり大きな注目を集めていなかったようでした。

#ogp(https://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/JCO.2019.37.15_suppl.e14092)

*腸内細菌叢とPPIとICI

そもそも、プロトンポンプ阻害剤が腸内細菌層に影響すると言う事は数年前から報告が出ていました。腸内細菌叢の多様性(エントロピー)を評価する方法として[[シャノン指数>https://en.wikipedia.org/wiki/Diversity_index#Shannon_index]]という指数を用いることがありますが、PPI服用中の患者ではこの値が低下して腸内細菌の多様性が失われている可能性があるほか、腸球菌や特定の大腸菌などが増えていることも示唆される結果でした。/Gut

#ogp(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26657899/)

腸内細菌の多様性はICIの有効性に深く影響することが知られています。2017年のASCO-GUで過去1ヶ月以内に抗菌薬の投与を受けた患者ではニボルマブの奏効率が低いことが示唆されたほか、同じ年のASCO-SITCでも腸内細菌の多様性と抗PD-1抗体療法の有効性の関係についての発表が相次いでいます。詳しくは下のページを見てください。

#ogpi(https://oncologynote.com/?ac078c157c)

*今後の研究の盛り上がりに期待

ICIが登場した当初はステロイドの使用が有効性に悪影響を及ぼすのではないかと言うことが非常に心配されておりました。ステロイドは必要あれば取り寄せざるを得ない薬剤ですが、抗菌薬は状況によっては投与開始することができ、PPIに至っては必要性がないのに投与されているという患者も少なくない状況です。今後PPIの投与は治療成績に悪影響を及ぼすということが認識されるようになれば、今後はこれらの薬剤の投与を避けることが主流になってくるかもしれません。