レ点腫瘍学ノート

卵巣癌/BRCA変異卵巣癌 の履歴ソース(No.3)

#author("2019-11-20T00:27:22+09:00","default:tgoto","tgoto")
#contents

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*卵巣癌の発癌経路

卵巣癌の組織型は高異型度漿液性腺癌、低異型度漿液性腺癌、類内膜癌、明細胞癌、粘液性癌などにわかれます。発がん経路で、adenoma-carcinoma sequenceをたどるI型とはじめから悪性腫瘍として発生するde novo発癌のII型にわかれます。

|組織型|漿液性癌|類内膜癌|明細胞癌|粘液性癌|
|頻度(婦人科腫瘍学会2017)|44%|18%|25%|10%|
|発生経路|II型|I型/II型|I型|I型|
|発生様式|卵巣表層上皮細胞からの直接発癌|40%が子宮内膜症から発生|50-70%が子宮内膜症から発生|良性→境界悪性→悪性|
|早期発見|困難|ときに可能|ときに可能|可能|

上図のように漿液性癌は早期発見が困難でIII期以降で発見されることが大部分です。また治癒が難しく、再発卵巣がんは7割近くが漿液性癌です。
ASGO2011 yoshioka et al

*gBRCA卵巣癌について

卵巣癌の10-15%でgermline BRCA変異を認めると言われています。欧米で13.8%との報告があります。中でも漿液性腺癌でその頻度は高く25%にのぼります。JCO 2018 colombo et al.

#ref(https://oncology.uvs.jp/img/f416d068a1-b.png,nolink,100%)

gBRCA卵巣癌はBRCA変異によってDNA相同組み換え修復が働かなくなることで発癌します(HRD)。BRCA1変異で80歳までに乳癌72%、卵巣癌44%のリスク、BRCA2変異で80歳までに乳癌69%、卵巣癌17%のリスクがあります。 JAMA2017 kuchenbeaker

#ogp(https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/10.1001/jama.2017.7112,amp)

**卵巣癌のgBRCA変異の頻度は14%前後

日本人の成人卵巣癌患者634名を対象にしたJapan CHARLOTTE試験では、gBRCA検査及び検査前遺伝カウンセリングに対する満足度などを調査しました。全体では93人(14.7%)にgBRCA変異がありました。この数字は欧米の報告(Colombo  JCO 2018)の13.8%と大きな違いはないようです。

#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29558274,amp)

内訳はgBRCA1変異ありが9.9%、gBRCA2変異ありが4.7%でした。まだ臨床的意義のわかっていないVUSは4.6%に見られました。病期別に見てみるとFIGO分類のI/II期ではgBRCA変異ありは4.9%でしたがIII/IV期では24.1%とその頻度が高く、またそのほとんどが高異型度漿液性癌で、ついで類内膜癌でした。漿液性癌と類内膜癌はいずれもII型のde novo発癌をきたすタイプです。日本人の卵巣癌では明細胞癌の頻度が高いのですが、明細胞癌や粘液性癌は発癌経路が異なりgBRCA変異はほとんど見られません(gBRCA1/2併せて2.2%)。

さらに興味深いことに、卵巣癌・乳癌・膵癌・前立腺癌のいずれかの家族歴がある場合はこの頻度が飛躍的に高まります。普段の診療から家族歴を丁寧に聴取することが大切になりそうです。Enomoto Int j  gynecol  cancer 2019

#ogp(https://ijgc.bmj.com/content/29/6/1043.long,amp)

*BRCA以外のHRD卵巣癌の頻度

#ref(https://oncology.uvs.jp/img/f416d068a1.jpg,nolink,100%)

BRCA以外の遺伝子にも相同組み換え修復不全(HRD)による卵巣癌に関与するものがあります。CDK12、FA遺伝子、RAD遺伝子の変異、それからBRCA1やRAD51Cのプロモーター領域のメチル化などエピジェネティックな変化も関与し、これらが高異型度漿液性癌の約4割を占めます。またHRDの可能性が否めない遺伝子異常としてPTENホモ欠損やEMSY増幅などがありそうで、これらが10-15%あります。Cancer Discov 2015 1137-1154

#ogp(https://cancerdiscovery.aacrjournals.org/content/5/11/1137,amp)

*gBRCA卵巣癌に対するPARP阻害剤

**SOLO1試験(gBRCA変異陽性の''初発''卵巣癌)

-III/IV期の高異型度漿液性癌または類内膜癌で、プラチナベース初回治療でCRまたはPRとなった後の維持療法としてのオラパリブ
-プラセボ群を対象としたランダム化比較第3相試験
-2年またはPDとなるまで継続し、2年時点でPRならPDになるまで継続
-発表時点で主要評価項目のPFSのmedianが未到達、HR 0.30と圧倒的な成績。36ヶ月での無増悪生存割合はオラパリブ群で60.4%、プラセボ群で26.9%
-2例のみsomatic  BRCA変異が含まれていた。他の約400例はgBRCA変異
-主な有害事象は、悪心嘔吐、疲労感、貧血。他に味覚異常、下痢、頭痛なども見られたが許容範囲内であった。特に悪心嘔吐は開始直後が多く、1-3ヶ月継続するうちに消失する。

**SOLO2試験(gBRCA変異陽性の''再発''卵巣癌)

-III/IV期の高異型度漿液性癌または類内膜癌で、プラチナベースを含む2レジメン以上の治療歴があり、直前の治療でCRまたはPRとなった後の維持療法としてのオラパリブ
-プラセボ群を対照としたランダム化比較第3相試験
-PDになるまで継続
-主要評価項目のPFSはオラパリブ群で19.1ヶ月、プラセボ群で5.5ヶ月、HRはSOLO1と同じく0.30。非常に優れた成績だが、SOLO1と比べると初回治療後に使用するほうがlate lineで使用するよりも治療効果が優れているのではないかということを推測させる結果でもあります。
-主な有害事象はSOLO1と変わらず

**Study19 (プラチナ感受性陽性の''再発''卵巣癌)

-gBRCAの有無に関わらずプラチナ感受性ありの対象
-プラセボ対照ランダム化比較第2相試験
-PFSはプラセボ群4.8ヶ月に対してオラパリブ群8.4ヶ月、HR 0.35
-OSはHR 0.73ながら27.8ヶ月に対して29.8ヶ月で有意差はなし。HR 0.73の95%信頼区間が0.55-0.95だけど統計学的には有意差なしっていう判断になったのはどういう理由なんだろう。臨床試験統計学に詳しい人に聞いてみたいところです。
-この試験の興味深いところは、サブグループ解析でgBRCA変異陽性集団だけでなく、gBRCA変異が陰性またはVUSの集団、gBRCA変異不明または未検査の集団、いずれのサブグループにおいてもオラパリブ群がプラセボ群より治療成績が良いことです。変異陰性やVUSの集団でも差がついたのは、卵巣癌にはたくさん潜在しているBRCA以外のマイナーなHRD関連遺伝子の異常が潜在しているためか、オラパリブがそもそもHRDと無関係に一定の抗腫瘍効果を持つためなのか、、、まだ誰にもわからないと思います。
-この試験に限らずオラパリブの試験のOS生存曲線を見ると10-20%の長期生存例によるロングテールプラトーが見られます。まるで免疫チェックポイント阻害剤のようです。さきほどのサブグループでもいずれの集団でも5年以上長期投与を受けている例が10%以上あるようです。

*BRCA変異腫瘍に対するPARP阻害剤の耐性

BRCA変異陽性の悪性腫瘍に対するPARP阻害剤の耐性機序として知られているものの一つにreversion変異と呼ばれるものがあり、プラチナ抵抗性にも関連していることが知られています。これについてはこちらのページを参照してください。

#ogpi(https://oncology.uvs.jp/?b2f59d7c12,amp)