レ点腫瘍学ノート

古くて新しい薬/クロロキン の履歴ソース(No.5)

#author("2020-03-21T22:19:15+09:00","default:tgoto","tgoto")
*古くて新しい薬「クロロキン」

「古くて新しい薬」の一つであるクロロキンには、本来は抗マラリア薬として使用されてきた薬であるが、ミトコンドリア代謝に作用してオートファゴソーム形成を阻害するという作用がある。これが抗腫瘍薬物療法に応用できるのではないかとの研究がなされている。

**KRAS変異膵癌に対するERK阻害剤とクロロキンの併用

抗マラリア薬のクロロキンがオートファゴソーム形成阻害するのを利用して、KRAS変異膵癌にERK阻害剤(オートファジー依存性を高める)とクロロキンを併用すると相乗効果で腫瘍が縮小するという話。

膵癌はKRAS変異頻度が95%程度と非常に高く、またオートファジー依存性の高い腫瘍でもある。RAS-RAF-ERK経路を阻害すると腫瘍細胞のオートファゴソーム形成依存性が高まることを背景にして、クロロキンがオートファゴソーム形成を阻害するのを利用すればKRAS変異膵癌に対する治療効果を高められるのではないかという研究である。さらにクロロキンよりも特異的にオートファゴソーム形成を阻害する治療薬も開発中であり、これまで治療薬開発がなかなか進まなかったKRAS変異腫瘍に対する標的治療の発展に期待をもたせる結果である。この文献は全文フリーでダウンロードできる(2019年8月現在)。 


#ogp(https://www.nature.com/articles/s41591-019-0368-8,amp)

**RAS変異癌に対するMEK阻害剤とクロロキンの併用

さらに同じ号のNature MedicineにはRAS-MEK-ERK経路阻害がオートファジーを誘導する研究(KRAS/NRAS/BRAF)と、それを応用してヒトのRAS変異がんにトラメチニブとやはりクロロキンを併用したら腫瘍縮小を認めたというレターも掲載されている。MEKもERK阻害剤と近傍の経路上にあり、こちらの研究では実際にヒトに投与されて縮小を認めたCT画像もFigureとして掲載されている。古い薬にもロマンがある。 

#ogp(https://www.nature.com/articles/s41591-019-0367-9,amp)

ただしこの作用機序を見る限り、あくまでRASやERKやMEKを抑制させて代償的にオートファジー依存性を高めることが必要条件であり、当然ながらクロロキンだけでKRAS変異がんの治療を行っているわけではないことに注意が必要である。

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''追記:2020年3月21日''

*新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にも有望な可能性

ここにきて、世界中を騒がせているCOVID-19に対してもクロロキンがアジスロマイシンとの併用で有望な治療薬となる可能性などが報じられていますね。中国では、感染症の流行当初に検討されていたオセルタミビル(抗インフルエンザ薬)やロピナビル/リトナビル(抗HIV薬、(r)カレトラ)などの有効性が期待されたほどではないことが明らかになる一方で、1ヶ月ほど前からはクロロキンが有望な治療薬の候補として着目されています。

#ogp(http://www.china.org.cn/china/2020-02/22/content_75732846.htm,amp)

フランスではクロロキンが投与された患者では優位に重症化率が低かったという報道がなされたほか、米国ではトランプ大統領がこの薬を国家レベルで推奨する動きなども報じられているようです。

#ogp(https://www.reuters.com/article/us-health-coronavirus-usa-treatments-idUSKBN2161QQ,amp)