レ点腫瘍学ノート

日記/2020年/03月29日/総合病院のパンデミックへの想定訓練 の履歴差分(No.1)


#author("2020-03-29T10:35:41+09:00","default:tgoto","tgoto")
*いよいよ一般医療機関にも新型コロナウイルス感染症の波が

国立がん研究センター中央病院の病棟看護師2人が新型コロナウイルス感染症に罹患したというニュースが出ました。同じ病棟で働く看護師は自宅待機に、接触した入院患者や医師はウイルス検査を行う、この看護師が勤務していた病棟では新規入院を停止するということが報じられています。
#ogp(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200328/k10012355591000.html)

3週間前には国立循環器病研究センターでも看護師が感染したという報道が出ていました。感染症指定医療機関ではないがんと心臓病のナショナルセンターでスタッフが隔離対象となる感染症に罹患したというのは、重大なニュースとして報じられました。
#ogp(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200307/k10012319011000.html)

発熱が4日間続いた場合のような従来の基準とは異なる、嗅覚や味覚の異常があった場合に新型コロナウイルス検査の対象とするかどうかということについては、今のところまだデータが少なすぎるのでその是非を論じるのは難しいのですが、いずれにせよ病院職員が感染した場合の対処については、感染症指定医療機関でなくても想定した準備を進めておく必要がありそうです。

*パンデミック下の医療機関のダメージコントロール

医療者はこれまでテレワークというものが基本的に存在しない業界で、一部の一般企業のようにスタッフの大部分を自宅待機にするわけにはゆきません。ここからは指数関数的に罹患者が増えてマンパワーが歯抜けのように欠けてゆくでしょうから、全国の医療機関ではスタッフ脱落に対する病院機能を維持するためのダメージコントロールの手腕が問われてくることになりそうです。

具体的にはどのようなことを考えておく必要がありそうでしょうか。総合病院の場合は、ざっと考えつくだけでもこれくらいはありそうです。

**医療スタッフの欠勤への対応

看護師や医師が次々と隔離対象となる事態を想定して、その場合にも病院の指揮系統が乱れないようにして根幹業務は維持することが重要です。

-誰かの脱落に備えて控えシフトを用意します。たとえば、夜勤などで欠員が出た場合に代理で出勤する待機者リストを用意します。
-感染していない余剰スタッフを他の人材逼迫している部署への応援に出すことが必要になる可能性が高いですが、部署をまたいでの応援出向の権限(指揮系統)を明確化しておくほうが円滑でしょう。
-病棟内の人員配置の決定権限は直接的には看護師長が握っていますが、肝心の看護師長が罹患する可能性ももちろんあります。看護師長が指揮不可能となった場合には誰が代理で指揮を取るのか、その代理も倒れた場合には次は誰か、これも決めておきましょう。師長、副師長までは決まっていますが、そこもダメになった場合は「隣の病棟の師長が2病棟まとめて管轄する」などの事態も考えておくほうが良さそうです。
-自宅待機が一定数に達したら、段階的に「病棟閉鎖」をすることも想定しておきます。これについても病棟閉鎖の決定権限は誰が持つのか決めておく(院長なのか、感染対策責任者なのか、看護部長なのか)
-主治医・担当医が隔離対象となることも想定して、急な代診・交代ができる体制を心がけます(そもそもCOVID-19と関係なく、普段から他人に病歴や治療方針がわかりやすいカルテを書いておく必要があります)。
-外来と病棟の代診だけでなく、手術の執刀や内視鏡検査の実施なども医師が休まざるを得なかった場合に誰が代理を務めるか、あるいは代理が効かない処置内容の場合は手術や処置事態を中止とすることも含めて想定しておきます。

**受診の抑制

当然すでに行っている対応として、不要不急の外来受診を抑制します。

-軽症の感冒などで病院を受診しないように案内します。
-新型コロナウイルス感染症への接触歴がある場合も病院をすぐに受診するのではなく、まずは地域の帰国者接触者相談窓口に連絡するよう案内します(くれぐれも直接訪問しないように。まずは電話での相談)
-新型コロナウイルス感染症とは関係ない慢性疾患では、通院間隔が延ばせる人は延ばします。たとえば安定期の糖尿病患者で4週毎にHbA1c測定と処方を行っていた人は8週間にする、術後1年ごとの定期検査などは夏頃まで延期する、など。
-今は通院間隔を延ばしていない人でも次回受診までに状況が変わって受診を延期せざるを得ない状況を想定して、処方薬は長めの日数を出しておくことも考えておいてよいかもしれません。

**非緊急手術の停止

看護師の欠員が増えて病棟や外来の運営が難しくなってきたり、術後管理に使っていた集中治療室やハイケアユニットが人工呼吸管理の必要なCOVID-19患者に優先的に割り当てられるようになると、もはや従来の手術業務を継続することは難しくなります。

-緊急手術以外はすべてストップすることを決める必要があります。各診療科が決めるのではなく、病院として院長などトップがこの決定を下す必要があるでしょう。
-内視鏡検査室や心臓カテーテル検査室や外来化学療法センターなどについても、手術室の非緊急手術に準じます。

**繁忙部署の負担軽減

感染症科や呼吸器内科や集中治療科などCOVID-19対策の全面に押し出される診療科は仕事が急増して忙殺される一方で、急性期診療に関わらない科は業務がかなり減ることが予想されます。病院によっては非緊急手術がすべてストップになり、外科系業務がほとんど無くなるかもしれません。

COVID-19対策に前面に立つ診療科が業務負担に押しつぶされないように負担軽減をしたり一部の業務を分散して、病院全体として繁忙部署を守るという姿勢が必要です。

-COVID-19対策の前面に立つ部署のスタッフは、たとえば当直免除にするなどして他の部署で負担を肩代わりしてもらいます。たとえば、一般内科救急などを輪番制にしている病院であれば当面は呼吸器内科はこの輪番から免除にします。
-COVID-19に関係なく、その診療科でなくても診られる疾患であれば、極力他の診療科で応援するようにします。
-病棟運営、集中治療室のベッド配置も繁忙診療科の業務が円滑に進むことを優先するよう意思決定の傾斜配分を行います。
-ローテーションする初期研修医も臨機応変に決定します。4月に初期研修医がたくさん入ってきますが、卒業したての何も知らない初期研修医の面倒を見るのは意外に負担が大きいものです。呼吸器内科や感染症科には4〜6月は1年目初期研修医が回らない(逆に2年目研修医を優先的に割り当てる)ようにすることも一つかもしれません。
-ポリクリ、臨床実習学生は落ち着くまでこれらの診療科には入れないほうがよさそうな気がしますが、このあたりは教育担当責任者との相談でしょうか。

**さらに事態が進行した場合

それでもスタッフの欠員が続けば、病院運営はいずれかの時点で維持できなくなります。どの時点で病院全体の通常診療を全閉鎖してCOVID-19に全振りするか、これを決めるのは院長など催行責任者の責任でしょうし、パンデミックの最中で外来閉鎖するのが地域医療における病院の立ち位置の麺で難しければ保健所や行政とのすり合わせも必要になるでしょう。

*最後に

考えればきりがないCOVID-19対策ですが、この状況になってきた中で総合病院として想定しておくべきことを思いつくままにリストアップしました。それぞれの病院の状況に応じてmodifyしていただき、来たる事態に向けて十分に準備をしておきたいものです。そして、これらの念入りな準備がすべて空振りの杞憂に終わることを祈っています。