レ点腫瘍学ノート

日記/2020年/03月29日/総合病院のパンデミックへの想定訓練 の履歴の現在との差分(No.4)


#author("2020-03-29T22:16:14+09:00;2020-03-29T22:00:36+09:00","default:tgoto","tgoto")
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国立がん研究センター中央病院の病棟看護師2人が新型コロナウイルス感染症に罹患したというニュースが出ました。同じ病棟で働く看護師は自宅待機に、接触した入院患者や医師はウイルス検査を行う、この看護師が勤務していた病棟では新規入院を停止するということが報じられています。
#ogp(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200328/k10012355591000.html,amp)

3週間前には国立循環器病研究センターでも看護師が感染したという報道が出ていました。感染症指定医療機関ではないがんと心臓病のナショナルセンターでスタッフが隔離対象となる感染症に罹患したというのは、重大なニュースとして報じられました。
#ogp(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200307/k10012319011000.html,amp)

Facebookでは、大曲貴夫先生が感染症指定医療機関ではない一般医療機関がもはや新型コロナウイルス感染症を避けることができない局面であることについて警鐘を鳴らされています。

#ogp(https://www.facebook.com/norio.ohmagari/posts/3120851841260952,amp)

発熱が4日間続いた場合のような従来の基準とは異なる、嗅覚や味覚の異常があった場合に新型コロナウイルス検査の対象とするかどうかということについては、今のところまだデータが少なすぎるのでその是非を論じるのは難しいのですが、いずれにせよ病院職員が感染した場合の対処については、感染症指定医療機関でなくても想定した準備を進めておく必要がありそうです。

&color(#FF0000){いずれも私個人の私見(想像)で、実在の医療機関がこの通りの対策を行っているというわけではないので、ご注意ください。};

#contents

*パンデミック下の医療機関のダメージコントロール
*パンデミック下の医療機関のダメージコントロール [#z5b11644]

医療者はこれまでテレワークというものが基本的に存在しない業界で、一部の一般企業のようにスタッフの大部分を自宅待機にするわけにはゆきません。ここからは指数関数的に罹患者が増えてマンパワーが歯抜けのように欠けてゆくでしょうから、全国の医療機関ではスタッフ脱落に対する病院機能を維持するためのダメージコントロールの手腕が問われてくることになりそうです。

具体的にはどのようなことを考えておく必要がありそうでしょうか。総合病院の場合は、ざっと考えつくだけでもこれくらいはありそうです。

**受診の抑制
**受診の抑制 [#le260b49]

当然すでに行っている対応として、不要不急の外来受診を抑制します。

-軽症の感冒などで病院を受診しないように案内します。
-新型コロナウイルス感染症への接触歴がある場合も病院をすぐに受診するのではなく、まずは地域の帰国者接触者相談窓口に連絡するよう案内します(くれぐれも直接訪問しないように。まずは電話での相談)
-新型コロナウイルス感染症とは関係ない慢性疾患では、通院間隔が延ばせる人は''通院間隔を延ばします''。たとえば安定期の糖尿病患者で4週毎にHbA1c測定と処方を行っていた人は8週間にする、術後1年ごとの定期検査などは夏頃まで延期する、など。
-今は通院間隔を延ばしていない人でも次回受診までに状況が変わって受診を延期せざるを得ない状況を想定して、''処方薬は長めの日数を出しておく''ことも考えておいてよいかもしれません。

**医療スタッフの欠勤への対応
**医療スタッフの欠勤への対応 [#wb00320d]

看護師や医師が次々と隔離対象となる事態を想定して、その場合にも病院の指揮系統が乱れないようにして根幹業務は維持することが重要です。

-誰かの脱落に備えて''控えシフト''を用意します。たとえば、夜勤などで欠員が出た場合に代理で出勤する''待機者リスト''を用意します。
-感染していない余剰スタッフを他の人材逼迫している部署への応援に出すことが必要になる可能性が高いですが、部署をまたいでの応援出向の権限(''指揮系統'')を明確化しておくほうが円滑でしょう。
-病棟内の人員配置の決定権限は直接的には看護師長が握っていますが、肝心の看護師長が罹患する可能性ももちろんあります。看護師長が指揮不可能となった場合には誰が代理で指揮を取るのか、その代理も倒れた場合には次は誰か、これも決めておきましょう。師長、副師長までは決まっていますが、そこもダメになった場合は「隣の病棟の師長が2病棟まとめて管轄する」などの事態も考えておくほうが良さそうです。
-自宅待機が一定数に達したら、段階的に''病棟閉鎖''をすることも想定しておきます。これについても病棟閉鎖の決定権限は誰が持つのか決めておく(院長なのか、感染対策責任者なのか、看護部長なのか)
-主治医・担当医が隔離対象となることも想定して、急な''代診・交代''ができる体制を心がけます(そもそもCOVID-19と関係なく、普段から他人に病歴や治療方針がわかりやすいカルテを書いておく必要があります)。
-外来と病棟の代診だけでなく、手術の執刀や内視鏡検査の実施なども医師が休まざるを得なかった場合に誰が代理を務めるか、あるいは代理が効かない処置内容の場合は''手術や処置を中止''とすることも含めて想定しておきます。

**非緊急手術の停止
**非緊急手術の停止 [#b1d70932]

看護師の欠員が増えて病棟や外来の運営が難しくなってきたり、術後管理に使っていた集中治療室やハイケアユニットが人工呼吸管理の必要なCOVID-19患者に優先的に割り当てられるようになると、もはや従来の手術業務を継続することは難しくなります。

-''緊急手術以外はすべてストップ''することを決める必要があります。各診療科が決めるのではなく、病院として院長などトップがこの決定を下す必要があるでしょう。
-''内視鏡検査室''や''心臓カテーテル検査室''や''外来化学療法センター''などについても、手術室の非緊急手術に準じます。
-たとえ外来化学療法を行う場合も、有害事象をきたした場合のことを想定して事前に内服抗菌薬(FN対応)や制吐剤や緩下剤を多めに処方しておき、不要な受診回数が増えないようにする工夫を講じておきます。場合によっては、頑強な治療強度を必要としない緩和的化学療法の場合は(治療を中止するまではいかない場合でも)通常では減量やスキップを行わない段階で治療強度を緩めて発熱リスクなどを低減しておくことも考えなければならないかもしれません(この場合はエビデンスがない治療となることもありますが、今はEBMがどうこうよりも少しでも低リスクの治療を優先する状況であるので)。

**繁忙部署の負担軽減
**繁忙部署の負担軽減 [#g70a6f8b]

感染症科や呼吸器内科や集中治療科などCOVID-19対策の前面に押し出される診療科は仕事が急増して忙殺される一方で、急性期診療に関わらない科は業務がかなり減ることが予想されます。病院によっては非緊急手術がすべてストップになり、外科系業務がほとんど無くなるかもしれません。COVID-19対策に前面に立つ診療科が業務負担に押しつぶされないように負担軽減をしたり一部の業務を分散して、病院全体として繁忙部署を守るという姿勢が必要です。

-COVID-19対策の前面に立つ部署のスタッフは、たとえば''当直免除''にするなどして他の部署で負担を肩代わりしてもらいます。たとえば、一般内科救急などを輪番制にしている病院であれば当面は呼吸器内科はこの輪番から免除にします。
-COVID-19に関係なく、その診療科でなくても診られる疾患であれば、極力他の診療科で応援するようにします。
-病棟運営、集中治療室のベッド配分も繁忙診療科の業務が円滑に進むことを優先するよう意思決定の傾斜配分を行います。
-''ローテーションする初期研修医''も臨機応変に決定します。4月に初期研修医がたくさん入ってきますが、卒業したての何も知らない初期研修医の面倒を見るのは意外に負担が大きいものです。呼吸器内科や感染症科には4〜6月は1年目初期研修医が回らない(逆に2年目研修医を優先的に割り当てる)ようにすることも一つかもしれません。
-''臨床実習学生''は落ち着くまでこれらの診療科には入れないほうがよさそうな気がしますが、このあたりは教育担当責任者との相談でしょうか。

**防護資材の逼迫への対応
**防護資材の逼迫への対応 [#wea0b2b9]

マスクやアルコール消毒が足りません。政府は増産して支給に務めると発表していますが、半月たっても一向に入荷される見込みは立っていません。各施設で残存資材の節約に努めていますが、こうなったら各施設にも苦渋の決断が求められるでしょう。増援部隊も補給もないままに米軍の猛攻撃にさらされた硫黄島の日本陸軍の心境です。

-マスクやアルコール消毒が欠乏しがちであることを各部署に周知します(すでにしています)。
-不足しているマスクは1日1枚から1週間に1枚まで各施設で節約に努めていると思われますが、COVID-19の猛威が院内にまで入ってきた場合には前面に立つスタッフ(具体的には感染症科医師や集中治療室看護師)には優先的に配分します。物資が欠乏していてもこれらの部署のスタッフには頻繁にマスクを交換させて手指消毒なども十分に行わせ、これら全面に立つスタッフが倒れることがないように守ることが大切です。
-その場合に欠乏する物資は、前面に立つことがないスタッフに制限を課すことも検討します。事務室で直接患者に接しないスタッフにはマスク支給を停止し、外来診察がない医師、調剤室内業務のみの薬剤師なども支給対象から外すことが必要かもしれません。反発は多いでしょうが、その場合は病院の危機に直接立ち向かっているスタッフを守るためにはやむを得ない判断であることを病院長など責任ある立場の者が宣言する必要があります。

**院内の接触機会の抑制
**院内の接触機会の抑制 [#u0ad668e]

院内勉強会などはすでに中止になっているところが多いと思いますが、さらに多職種が集まる機会を減らせるだけ減らします。

-''カンファレンス''の中止または縮小を検討します。
-''委員会''はイントラネットなどを使って極力書面で業務を進めるようにします。
-''看護師控室''も密室になりがちなので注意が必要です。
-''職員食堂の営業停止''も検討します。先ほどまでCOVID-19患者の対応をしていた者も含めた多職種の職員が一箇所に集まって、ペチャクチャおしゃべりしながら飲食するなんて、かなりリスクが高そうです。千葉の障害者施設のクラスターは施設内食堂を介した感染拡大が疑われます。
-医局にダラダラ残らず、仕事が終わればすぐ帰りましょう。案内滞在時間を極力減らします。

**(3〜4月限定)新入職職員の渡航歴・接触歴の確認
**(3〜4月限定)新入職職員の渡航歴・接触歴の確認 [#b7ee50e1]

3月下旬から4月初旬に限っての対応として、多数の新規採用職員の海外渡航歴を確認しておくほうが良いでしょう。ある感染症メーリングリストで、4月から採用の新規初期研修医が海外へ卒業旅行に行っていたことが明らかになった事例が載っていたほか、本日にはイギリスなどへ卒業旅行に行ったあと症状があるまま大学の卒業式に出席した女子大学生の件もニュースで報じられていました。

-新規採用の初期研修医、看護師、事務職員などに3月に海外渡航歴があったかどうかを確認します。
-もし3月に''海外渡航歴がある新規採用予定職員''がいた場合は、帰国後2週間程度までは出勤せず自宅待機を命じることも検討します。

**さらに事態が進行した場合
**さらに事態が進行した場合 [#f56e5e24]

それでもスタッフの欠員が続けば、病院運営はいずれかの時点で維持できなくなります。どの時点で病院全体の通常診療を全閉鎖してCOVID-19に全振りするか、これを決めるのは院長など催行責任者の責任でしょうし、パンデミックの最中で外来閉鎖するのが地域医療における病院の立ち位置の麺で難しければ保健所や行政とのすり合わせも必要になるでしょう。
それでもスタッフの欠員が続けば、病院運営はいずれかの時点で維持できなくなります。どの時点で病院全体の通常診療を全閉鎖してCOVID-19に全振りするか、これを決めるのは院長など催行責任者の責任でしょうし、パンデミックの最中で外来閉鎖するのが地域医療における病院の立ち位置の面で難しければ保健所や行政とのすり合わせも必要になるでしょう。

-外来診療の''完全予約制''の導入(予約外診療の停止)
-外来診療の''全面中止''
-''新規入院停止''(延期)
-''全診療の閉鎖''

*最後に
*最後に [#o2051e0f]

考えればきりがないCOVID-19対策ですが、この状況になってきた中で総合病院として想定しておくべきことを思いつくままにリストアップしました。それぞれの病院の状況に応じてmodifyしていただき、来たる事態に向けて十分に準備をしておきたいものです。そして、これらの念入りな準備がすべて空振りの杞憂に終わることを祈っています。

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