レ点腫瘍学ノート

日記/2021年/10月11日/肝細胞癌診療に重要なパラメータ用語集 の履歴ソース(No.2)

#author("2021-10-11T22:09:22+09:00;2021-10-11T21:26:31+09:00","default:tgoto","tgoto")
ここではBCLCステージ分類やup-to-seven criteriaなど最近しばしば肝癌診療の現場で使われる肝癌と肝予備能の状態を表すのに使われる用語についてメモしています。

#contents

*はじめに [#u1f3a854]

肝細胞癌の治療方針はTNM stageなどでは決まらず、肝癌の切除可能性・局在・個数・血管走行、そして背景肝の予備能などを複合的に判断して決定してゆく必要があります。これは、他の癌腫は外科切除と薬物療法の役割分担が比較的明確であるのに対して、肝細胞癌の治療手段には外科切除と薬物治療の他にRFAなどの局所療法、TACEなどのIVR治療、そして(本邦ではまだ十分に普及しているとは言えませんが)肝移植手術などの多彩なモダリティがあることが一因でしょう。

そして、どの治療手段をどのように組み合わせて治療を行なってゆくかについては肝癌診療ガイドラインを始めとして様々な提言がなされていますが、そこに出てくる肝癌および肝機能(肝予備能)の尺度に関する用語は非常に多彩で、肝癌診療をメインにしている医療者以外は混乱しがちです。

どのような用語が使われているかを頭に入れておき、その治療方針がどのように判断されて出てきたものなのかがわかるようにしておきましょう。

* Child-Pugh score/grade [#v5b80337]

肝予備能に関する最も重要な指標です。使用される項目は、T-bil、Alb、PT活性、腹水の有無、肝性脳症の有無の5項目です。

||1点|2点|3点|h
|脳症|なし|軽度(I〜II度)|中等度以上(III度以上)|
|腹水|なし|少量|中等量以上|
|血清ビリルビン値(mg/dL)|2.0未満|2.0〜3.0|3.0超|
|血清アルブミン値(g/dL)|3.5超|2.8〜3.5|2.8未満|
|PT活性値(%)|70超|40〜70|40未満|

上記の各項目の合計点で判定し、5点が最良、15点が最悪となります。
また点数を元にグレードを定めたChild-Pugh gradeもあり、5〜6点がgrade A、7〜9点がgrade B、10点以上がgrade Cとなります。なお、海外ではPT活性値ではなくPT-inrを使うこともありますので海外雑誌などに論文投稿などをされる際には注意が必要です。

* 肝障害度 [#oc1ca119]

Child-Pugh scoreと非常によく似ていますが、ICG試験の結果を入れており外科的肝切除の前の肝予備能評価にはこちらが使われます。Child-Pugh scoreと比べてPTやAlbの基準値が微妙に違うのに注意。

||A|B|C|h
|腹水|なし|治療効果あり|治療効果なし|
|血清ビリルビン値(mg/dL)|2.0未満|2.0〜3.0|3.0超|
|血清アルブミン値(g/dL)|3.5超|3.0〜3.5|3.0未満|
|PT活性値(%)|80超|50〜80|50未満|
|ICG R15値(%)|15未満|15〜40|40超|

2項目以上があてはまる肝障害度に分類します。2項目以上があてはまる肝障害度が複数ある場合はより悪い肝障害度を当てはめます。

* BCLC ステージング分類[#k5a64bc4]

Barcelona Clinic Liver Cancer (BCLC) staging systemとして海外では治療方針を決めるための最も標準的な分類として頻用されています。

||進行度|肝癌の状態|換気能の状態|h
|BCLC 0|very early stage|単結節2cm以下|Child-Pugh A、ECOG 0|
|BCLC A|early stage|単結節、または3cmが3個以下|Child-Pugh A〜B、ECOG 0|
|BCLC B|intermediate stage|多発|Child-Pugh A〜B、ECOG 0|
|BCLC C|advanced stage|門脈浸潤またはN1またはM1|Child-Pugh A〜B、ECOG 1〜2|
|BCLC D|terminal stage||Child-Pugh C、ECOG 2超|

治療方針は下図のように、肝細胞癌の状態とChild-Pugh分類などの背景肝機能などによって分けます((https://www.nature.com/articles/s41572-020-00240-3))。

#ref(https://oncologynote.com/img/164b97be90.png,nolink)

#ogp(https://www.nature.com/articles/s41572-020-00240-3)

BCLC 0なら根治的治療(手術またはRFA)、BCLC BならTACEまたは薬物療法、BCLC Cなら薬物療法、BCLC Dなら緩和医療を選択します。

問題はBCLC Aの場合で、この部分では肝細胞癌の多様な治療の中から最適なものを選択することになりますが、一般的にはBCLC Aのうちsolitaryの場合は切除可能であれば切除を目指し(若年でドナーがいるなどの限られた場合によっては肝移植手術も選択肢になります)、そうでない場合にはRFAやTACEを選ぶことになることが多いようです。最近はBCLC A〜BでTACEを選ぶ場合に、ソラフェニブやレンバチニブなどでTACE前後をサンドイッチする複合的治療の臨床試験(TACTICS試験など)も報告されつつあります。

* up-to-seven criteria [#ae28fc8a]

|腫瘍の数+最大径(cm)|7以下か7超か|

「腫瘍の数」と「最大腫瘍の径(cm)」の合計が7以下であればinで8以上ならoutとなります。

このup-to-seven criteriaが普及する以前はMilanクライテリア(5cm×1個または3cm×3個以内)が使われることが多かったようです。もともとは肝細胞癌に対する肝移植の適応を判断するために肝細胞癌患者の長期予後にMilanクライテリアよりも高い相関を示す指標として使われるようになったのですが((https://www.thelancet.com/journals/lanonc/article/PIIS1470-2045(08)70284-5/fulltext))、現在は肝移植だけではなくTACEの適応などにも応用されています。

#ogp(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19058754/)

* stage (UICC) [#nc34db65]

TNM分類として長らく使われており、他の癌腫では時代と共に少しづつ基準が書き換えられているが肝細胞癌のTNM分類はほとんど変わっていません。

すなわち、T因子は最大径、個数、脈管浸潤のうち何個を満たすかで定められています。

* まとめ [#x1b4725d]

様々な指標が使われて肝細胞癌診療は他の固形がん診療と比べても独特のものとなっています。さらに最近はTACTICS試験やTACTICS-L試験等といった薬物療法とTACEなどのIVRを組み合わせた治療も出てきており、これらの治療もBCLCやup-to-seven criteriaなどで判断されることが増えています。以前はChild-Pugh scoreや肝切除可能性だけで判断されることが多かった肝細胞癌診療も、これらの複数の指標を組み合わせて判断する必要性が増してきているようです。

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