レ点腫瘍学ノート

日記/2021年/10月23日/内科学書の冬の時代 の履歴差分(No.3)


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子供のひとり部屋を作るために、書斎が召し上げられることになり、いま物置となっている小部屋に移動するとなると本棚が小さくなってしまうので本を整理しなければなりません。

本棚を眺めながら、もう読まないであろう本、この数年間で一度も手に取ることが無かった本がどれか、リストラ対象を探しながら眺めていると、ふとハリソン内科学書が目にとまりました。

#tweet(https://twitter.com/m0370/status/1451819135101390854?s=20)

ハリソン内科学書と言えば内科学の教科書としては世界最高峰の一冊です。うちにあるのは学生の頃に使っていた旧版ではなく、すでに医師になってしばらく経ってから改訂された際に買い直した第4版ですが、今はすでに古い版になってしまっています。考えてみたら、この第4版を買い直したものの、実際には医師として働き出してからハリソン内科学を読んだことはあまり多くはありません。

ぼくが医学生だった頃も「ハリソン内科学」あるいは「朝倉内科学」などの内科学の成書はその存在こそほとんどの医学生が認知していたものの、実際にそれを購入して手元に置いている学生はあまり多くなかったように思いますが、今の医学生はさらにそれよりも減っていそうです。「病気がみえる」などの、平易でありながら情報量も比較的多く医師国家試験対策書としても優れた本が人気を集めていて、ハリソン内科学のような字が多くて重くて厚い本は人気がないのでしょう。確かに、これを読もうと気合いを入れて眠くなってしまったことは数え切れないほどあります。

そして、医師になってからであっても本で情報を探すよりも今はネットの時代です。ネットで検索すれば、どこかの学会雑誌のPDFが簡単に見つかりますから、その中で気になる疾患に関するレビュー論文を探せば多くの場合はおおまかな情報は手に入れることができます。比較的よく知られているような疾患であれば医療関係者が書いた詳細で専門的なブログ記事などが引っかかってくることもあります。

さらに、英語が読めるのであればPubmedで検索することでアクセスできる情報の量と信頼性は飛躍的に増します。一流紙に載った最新の論文は有料購読者でなければ閲覧できないものが少なくありませんが、大学病院や教育病院に所属していれば職場が契約してくれているので自由にその論文を読むことができます。発行から一定年数が経っていれば契約者でなくても無料で読めるものが増えていますし、オープンアクセス論文も多くなってきていて、それらであれば個人でも無償で読むこともできます。

そうなると、もはや紙の分厚い医学書をパラパラめくって情報を集めるということはしなくなります。そもそも、5〜6年に1度しか改訂されないような紙の教科書は本格的に勉強したいときには情報が古すぎます。もはや、情報の新しさでも量でも質でも、内科学の成書の立場はかなり危うくなってきているように思います。

#tweet(https://twitter.com/m0370/status/1451821591629762564?s=20)

ハリソン内科学の第5版が何冊くらい売れたのかどうか知りませんが、紙の成書というのは今の出版不況の影響を超えてさらに売れない時代になってきているのではないかと思います。もう、ハリソン内科学第6版が出版されたとしても購入する人はかなり少ないのではないでしょうか。ぼくも・・・おそらくもう紙のハリソン内科学がいくら改訂されてもそれを買おうとすることは二度と無いような気がします。

本棚からリストラする本を探そうと思って、そういうことを考えてしまいました。

#navi(日記/2021年)