レ点腫瘍学ノート

日記/2021年/10月26日/Karuna Ganesh先生のエッセイ の履歴の現在との差分(No.1)


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* physician-scientistの喜び [#x578f734]

何のために働くのかというのはリアルワールドでもSNSでもしばしば議論される話題で、金のためだとかやりがいだとか色々と理由はありそうですが、医師として働く意味の一つに「仕事そのものが知的好奇心への刺激に満ち溢れていて単純に面白い」というのもあるでしょう。
医師が何のために働くのかというのはリアルワールドでもSNSでもしばしば議論される話題です。

患者の命を救いたいだとか人々に感謝されたいだとか、あるいは金のためだとか親に医者になれと言われて仕方なくだとか、色々と理由はありそうですが、医師として働く意味の一つに「仕事そのものが知的好奇心への刺激に満ち溢れていて単純に面白い」というのもあるでしょう。

Twitterを見ていると最近の若い人たちには医局に入るとか大学院に進むという進路はあまり人気がないようですが、しかし実際に自分の職場にいる若者を見ていると将来のキャリアパスとして大学院に進み、(一時的なのか恒久的なのかはともかくとして)医師はキャリアの一時期でアカデミアに身を置くという考え方は今でも一定のシェアを保っているように思います。

さて、そういうことを考えていたところに、[[Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology>https://www.nature.com/nrgastro/]]に医師としてのキャリアに関する興味深いエッセイが載っていました。

#ogp(https://www.nature.com/articles/s41575-021-00443-3)

著者はKaruna Ganesh先生というメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターの消化器腫瘍内科医の女性医師です。米国を代表するハイボリュームがんセンターの第一線で臨床医として勤務しながら、分子標的治療開発の研究者としても活躍されている方で、数多くの論文も執筆されているようです。

#ogp(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/?term=Karuna+Ganesh)

このエッセイでは、消化器腫瘍内科医としての患者の診察の合間に自分の研究時間を作って、腫瘍のheterogeneityと分子標的治療への耐性獲得に関するオルガノイドを使った基礎研究を行なっている忙しい日常が綴られています。

日本でも大学病院などの研究医の苦境はしばしば議論に上りますが、米国でも似たような問題が存在しているようです。若手研究者のキャリアパス形成の苦境、グラント獲得競争の熾烈化、論文執筆などの成果をコンスタントに上げるよう求める成果主義のプレッシャー。治療技術の向上に伴って複雑化する臨床のスキルを保ちつつ、指導者ともなればスタッフのメンタルケアにも気を配り若手のバーンアウトを防ぐ責任も求められます。

どうしてこんな中でも臨床医が研究をするのかという疑問が湧いてくるのも無理はないかもしれませんが、筆者はこのように述べています。

> The ability to combine such responsibility with ''curiosity-driven scientific'' inquiry and the potential to positively influence many lives brings tremendous meaning and joy to the day’s work.

絶えず自己研鑽を求められ、勉学に追われる忙しさを「嫌なもの」として捉えてしまえばそれまでなのかもしれませんが、筆者はそうではなく、このような刺激的な毎日そのものを楽しんでいるようにも見えます。

なんにせよアメリカの代表的なハイボリュームセンターで責任あるポジションに立つスーパードクターなので、日本の地方病院で細々とやっているぼくらにこのマインドをそのまま移植するのは難しいとは思いますが、このような心がけは(少しだけ)見習ってゆきたいものです。

#navi(日記/2021年)
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