レ点腫瘍学ノート

日記/2021年/11月1日/NASH・NAFLDを背景とした肝細胞癌の免疫療法の有効性問題 の履歴の現在との差分(No.2)


#author("2021-11-01T15:00:40+09:00;2021-11-01T14:56:52+09:00","default:tgoto","tgoto")
#author("2022-12-01T00:43:12+09:00;2021-11-01T14:56:52+09:00","default:tgoto","tgoto")
NASH関連肝癌でアテゾリズマブ+ベバシズマブが効きにくいのではないかということはしばしば言われますが、実際のところはまだ未確定と思っています。しかし、今のところ出ているデータを見てみると確かにウイルス性肝癌ではアテゾリズマブ+ベバシズマブが第一選択ですがNASHやNAFLDが背景にある肝癌ではそうとも言えないというようなデータもありますね・・・。

勉強のために、関連しそうな論文をここに集めておきます。もっとも議論を呼び話題となったNatureのarticleはこちらです。

#ogp(https://www.nature.com/articles/s41586-021-03362-0)

この論文中に出てくる生存曲線を見ると、これは後方視的検討ではありますが、Fig.4bとFig.4cを見ると、確かに初期仮説コホートとバリデーションコホートのいずれでもNAFLDが背景にあるHCCではアテゾリズマブ+ベバシズマブ療法を行った際のOSが半分程度になってしまっています(初期仮説コホート11.0→5.4ヶ月、バリデーションコホート17.7→8.8ヶ月)。1656例の統合解析でもHBV・HCV肝癌ではいずれもOS HRが0.6台なのに対して、非ウイルス性肝癌ではHR 0.92でコントロール群と比べて有意差無しとなっています(それでもコントロール群に負けていないだけ優秀とも言えますが)。理由としてはNAFLDが慢性炎症などを通じてPD1陽性CD8陽性細胞の疲弊に関与しているのではないかと考えられています。

アテゾリズマブ+ベバシズマブがソラフェニブに対して有効性を示したIMbrave150試験のサブグループ解析は、もとのNEJMの論文やESMOの学会発表ではetiology別のサブグループ解析はあまり詳しくは触れられていませんでしたが、2019/8/29のデータカットオフ時点でHBVがHR 0.51、HCVが0.43となっているのに対してその他は0.91で有意差無しとなっています。

#ogp(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1915745)
#ogp(https://www.annalsofoncology.org/article/S0923-7534(19)58207-2/fulltext)

これを見ると、今のところわかっているデータを見る限りでは確かにアテゾリズマブ+ベバシズマブは非ウイルス性肝炎を背景とした肝細胞癌はやや苦手としつつも、しかしコントロール群に負けてはいない(したがって非ウイルス性だからと言ってアテゾリズマブ+ベバシズマブを使わない理由とまでは言えない)というのが現状かと思います。

一方でレンバチニブについてはScientific reportsで本邦の多施設観察研究の結果が発表されていて、HBV・HCVに比べてNASH/NAFLDやcryptogenic(特発性)は予後がほぼ同等かむしろわずかに良好かもしれない生存曲線を描いています。これも差はごくわずかで、非ウイルス性肝炎を背景としているからといってレンバチニブをわざわざ選択するほどのものではなさそうです。

#ogp(https://www.nature.com/articles/s41598-021-96089-x)

今後、肝細胞癌にはイピリムマブ+ニボルマブ、ペムブロリズマブ+レンバチニブなど、免疫チェックポイント阻害剤およびその他の薬剤を絡めた併用療法が多数登場してくると思いますが、その際にもこの背景病態別の有効性の違いについて着目してゆきたいと思います。

#ogp(https://amzn.to/3w0QrFy)

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