レ点腫瘍学ノート

日記/2021年/11月25日/一気に適応拡大が進んだ上部消化管腫瘍領域 の履歴差分(No.6)


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&tag(胃癌,食道癌,ニボルマブ,ペムブロリズマブ,ケモコンボ,CHECKMATE649,ATTRACTION4,KEYNOTE590,CHECKMATE577);

#contents

2021年11月に抗腫瘍薬の適応拡大が一気に進みました。特に上部消化管関連の適応拡大が目立ちます。

*切除不能胃癌に対するニボルマブ適応拡大 [#l86c0ad3]

- 切除不能一次治療からニボルマブ+化学療法の併用可
- HER2陰性のみ
- CPS縛り無し
- 併用化学療法は縛り無し(もとの臨床試験はSOXやCAPOXと併用されていたが、今回の承認範囲は現在一次治療に使えるレジメンは何でも可)
- 用法は240mg/2wでも360mg/3wでも可

** CheckMate 649試験 [#sfc86c70]

- HER2が陽性でない進行胃癌、食道胃接合部癌、食道腺癌患者が対象
- 中国人が25%
-併用化学療法はCAPOXまたはFOLFOX
- 24ヶ月時点の長期間観察で、CPS≧5のPFSおよびOS、全患者集団でのPFSおよびOSはいずれも延長が見られた((ESMO2021))。
- MSI-H患者とMSS患者のどちらでも、ニボルマブ+化学療法群は化学療法のみ群よりもOS中央値は長く、奏効率は高かった。
- CPS≧5で特に予後延長効果が目立つが、CPS<1でもハザード比は1を下回っている。ハザード比だけを見ればCPS<1の患者層は1≦CPS<5の患者層よりもハザード比が良いので、単純にCPSがニボルマブの奏効予測因子とは言えない可能性がある。
- CheckMateの臨床試験ではPD-L1の染色抗体は28-8によって行われている(KEYNOTE-062などペムブロリズマブの試験では22C3によって行われている)。
- イピリムマブ+ニボルマブ併用療法は化学療法群に比べてOS(副次的評価項目)を延長できなかった。

#ogp(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)00797-2/fulltext)

** ATTRACTION-4試験 [#yc837e83]

- HER2が陽性でない進行胃癌、食道胃接合部癌が対象
- アジア人のみ対象
- 併用化学療法はSOXまたはCAPOX
- CPSを問わずPFSはニボルマブ+化学療法は化学療法単独よりも有意に良好(中間解析では8.3→10.4ヶ月)だが、OSは有意差がなかった(17.1→17.4ヶ月)。奏効率は47.8→57.5%。
- 日本人のみのサブグループでもOSは有意差が無かった。
- 学会発表はされたが、まだ論文化されていない(2021/11時点)

**関連リンク [#tb0e0700]

胃癌の免疫チェックポイント阻害剤と化学療法の併用は注目度が高いだけあってさまざまな記事がネット上にあります。この記事はがん研有明の山口研成先生、愛知県がんセンターの室圭先生、大阪大学の佐藤太朗先生による座談会。ケモコンボでの恩恵を受けるのは基本的にCPS≧5の症例に限られ、CPS<5の症例に関してはやはりメリットが乏しいというのが基本的な見方のようです。でも、今回の承認範囲を見るとCPSの測定自体をしなくなるのが一般的な治療フローになってしまって、目の前の患者がCPS≧5なのかどうかを知る機会自体が無くなってしまいそうですね。

#ogp(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/search/cancer/report/202111/572803.html)

こちらも会員制サイトですが、CheckMate 649と ATTRACTION-4の結果が微妙に食い違っている点についてどう解釈するかというディスカッションがなされており、これも勉強になります。

#ogp(https://oncotribune.com/discussion/008)

一方で、胃癌でニボルマブではなくペムブロリズマブを併用するコンボの臨床試験としてはKEYNOTE-062試験のペムブロリズマブ+化学療法併用群はOSで優越性を示せずネガティブだったほか(PD-L1陽性のペムブロリズマブ単独群の非劣性のみポジティブ)、KEYNOTE-859試験が進行中です。KEYNOTE-859の併用化学療法はCAPOXまたはFP療法です。

#ogp(https://www.annalsofoncology.org/article/S0923-7534(20)39419-9/fulltext)

* 切除不能食道癌ペムブロリズマブ適応拡大 [#seb7e942]

- 切除不能進行食道癌に対してペムブロリズマブ+FPが使用可
- 組織型不問(腺癌も扁平上皮癌も)
- CPS縛り無し(従来の二次治療のPD-L1縛りは一次治療では無し)
- 併用レジメンは5FU+CDDPのみ(腎機能の問題などでCDDP併用しない場合にレセプトでどう扱われるのかは不明)
- 維持療法でペムブロリズマブ単独使用する場合はあらためてPD-L1 CPSを算出する必要はないとのこと

** KEYNOTE-590試験 [#f74a8da7]

- ペムブロリズマブ+5FU(800mg/m2)+CDDP(80mg/m2)の3週間ごと投与を5FU(800mg/m2)+CDDP(80mg/m2)と比較
- 主要評価項目はOSとPFS
- OS HRはCPS≧10かつSqCCで0.57、全CPSかつSqCCで0.72、CPS≧10かつ全組織型で0.62、全CPSかつ全組織型で0.73と、CPSや組織型を問わずに併用群で良好。PFSも同様であった。
- 日本人サブグループではOSは有意水準には達していないが良好な傾向、PFSは有意に延長していた。

#ogp(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)01234-4/fulltext)

* 食道癌術後ニボルマブ適応拡大 [#n7983a41]

- 術後化学療法としてニボルマブを最大12ヶ月まで使用可
- CPS縛り無し

** CheckMate 577試験 [#pcaa57ef]

- 食道癌または食道胃接合部癌
- 組織型は腺癌または扁平上皮癌を対象としたが、腺癌が71%であった
- 欧米人が70%と多く、アジアは13%しか含まれていない
- PD-L1 1%未満群が70-75%含まれている
- 術後ニボルマブ療法はDFSを有意に延長(DFS 11.0→22.4ヶ月、HR 0.69)
- 治験でのエビデンスは術前FP-RT療法を受けたのち手術を受け、pCRを得られなかった症例(ypT1以上もしくはypN1以上)に限られる
- 16週までは2週ごと、以後は4週ごとに投与というスケジュールだった
- なお、本邦では術前FP療法が標準治療となっているが、術前FP療法にRTを上乗せするJCOG1109試験が進行中

#ogp(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2032125)

* 唾液腺癌に対するトラスツズマブ適応拡大 [#z920956a]

- 併用する化学療法剤はドセタキセル指定
- HER2陽性の判定にはロシュの指定のHER2コンパニオン検査(ベンタナ ultraView パスウェーHER2 (4B5)およびベンタナ DISH HER2 キット)が必要。添付文書では、乳癌と胃癌はHER2過剰発現がと記載されていますが唾液腺癌に関してはHER2陽性の根治切除不能な進行・再発の唾液腺癌となっています。
- 唾液腺癌に対してはB法(3週1回法)のみの承認
- 国内の唾液腺癌のHER2陽性率は15%程度(下記リンク参照)

#ogp(https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20211125160000_1167.html)

#navi(日記/2021年)