レ点腫瘍学ノート

日記/2021年/5月20日/ワクチンをめぐる先進国と低所得国の格差の問題 の履歴差分(No.10)


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アジアの政治・経済などについて討議する第26回国際交流会議「アジアの未来」でCOVID-19ワクチン確保において先進国と発展途上国の間で不平等な格差が生じているという話題が出たようです。マレーシアのムヒディン首相から、最も豊かな27カ国は人口が世界の10%に過ぎないがワクチンの35%強を握っているという批判があったとのこと。

#ogp(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB200P20Q1A520C2000000/)

#tweet(https://twitter.com/_crr_/status/1395328531815534599)

これ、先進国と発展途上国の間で生存に関する権利の格差が生じていると言うことを如実に示しているため、確かに経済力でこのような格差が生まれるのは好ましくないと言うもっともな話をしているようにも思います。

でもこれ、この格差を完全に是正してしまうともしかすると今回の画期的なmRNAワクチンが誕生していなかったんじゃないかなぁと思うと若干複雑な心境です。なぜ勝算がそれほど高かったわけではないmRNAワクチン開発にこれだけ一気に研究リソースを投入できたのか、誰がそれを強力に推し進めたのかを考えると、格差は全て一概に悪いものとも言えないような。

*先進国が開発の困難なワクチンに莫大な研究費を投入したのはなぜか [#o803171a]

先進国はワクチンの開発に莫大な研究費を投じたことの背景を考えると、そこには研究費を投じてワクチンの開発に成功すればその恩恵を真っ先に受けられるという強い動機があったはずです。それは、もしワクチンの開発に成功すればリスクを取った人がその恩恵を真っ先に受けられるという強いインセンティブです。

#tweet(1391200971850620929)

確かに医療格差が拡大しすぎないための配慮が必要です。発展途上国に生まれた命が軽視されるということがあるのは人権の面で大きな問題があります。 でも、開発は困難と思われたワクチンを手に入れるために、リスクをとって研究開発を進めた国や企業が真っ先に実りを得られるようにしないと、ワクチン開発のインセンティブがなく、誰もそのための投資をしようと思いません。

誰が開発してもすべての人に平等にワクチンを配ってしまうような「完全平等」を求める世界になると、皆が「自分ではやらずに誰かがワクチンを開発してくれるのを待つ」と言う姿勢になってしまいます。何しろ自分がリスクを取って投資をしなくても、誰かがその投資を代わりに担ってくれた上にその配当は投資をしていない人にも平等に回ってくるわけですから。

そう考えると、誰かに『俺の金』を開発のためにたくさん投入して貰うためには、「『俺の金』で開発した人は偉い」という風潮がある程度は必要。。。

* そもそも今回のCOVID-19ワクチンは比較的医療格差が小さい方とも言えるような [#gb6a347a]

それでも、実はCOVID-19ワクチンはむしろ発展途上国にも比較的安価で「かなり平等に近く」配られてる方だと思います。先進国・富裕国相手の価格設定で利益を確保しつつ、同時進行で低所得国には原価で、最貧国には無償の寄付での投与を行うというCEOのメッセージがありました。

#tweet(1391201128751058945)

これはかなり画期的なことで、抗腫瘍薬やリウマチ薬などのバイオ製剤など最新の薬剤は多くの場合は低所得国だからといってこんな破格の価格設定にはなっていません。こういう新薬の格差はCOVID-19ワクチンとは比較にならないほどはるかに"えげつない"と思う…

#ogp(https://amzn.to/3fE8R7d)

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