レ点腫瘍学ノート

日記/2021年/9月5日/前立腺癌のPARP阻害剤コンパニオン診断の見解書第2版 の履歴差分(No.1)


#author("2021-09-05T20:27:10+09:00;1970-01-01T18:00:00+09:00","default:tgoto","tgoto")
前立腺癌のPARP阻害剤コンパニオン診断を実施する際の考え方(見解書)の第2版が出ました

* 背景 [#s782d781]

2021年1月に膵癌と前立腺癌でBRCA1/2変異を認めた際のPARP阻害剤オラパリブが承認されました。これについては下記の記事も参照してください。

#ogpi(https://oncologynote.com/?2873cb02fc)

膵癌についてはgermline BRCA変異しかオラパリブの対象とならない上に、その場合はBRACAnalysisが切除不能となった時点で早期から使用可能であることからコンパニオン診断としてほぼ一択であり、どのタイミングでどの方法でBRCA変異を検出するかはあまり議論になる余地がありませんでした。

一方で前立腺癌については去勢抵抗性となった時点でBRACAnalysisが使えるのは膵癌に近いのですが、BRACAnalysisはsomatic BRCAが検出できないという大きな問題があるために、どのコンパニオン診断方法を用いるかということが議論になっていました

BRACAnalysis以外のもうひとつの候補としてはFoundationOne CDxはgermlineもsomaticもBRCAを検出できコンパニオン検査としての承認も獲得していますが、組織検体が必要であるということに加えて、がん遺伝子パネル検査をがんゲノムプロファイル検査として実施できるのは標準治療が終了後または終了見込みの段階であるという制約があります。

このため、日本泌尿器科学会が2021年1月に「[[前立腺癌におけるPARP阻害剤のコンパニオン診断を実施する際の考え方>http://www.urol.or.jp/cms/files/info/140/%E8%A6%8B%E8%A7%A3%E6%9B%B8%E6%8F%90%E5%87%BA20210104.pdf]]」という文書を公開していました。

ここでは、前立腺癌におけるがんゲノムプロファイリング検査の実施タイミングとして「去勢抵抗性かつ、アビラテロンかエンザルタミドの少なくとも片方が既使用」というタイミングを提唱しています。

この提言が驚きを持って迎えられたのは、ドセタキセル・カバジタキセルなどのタキサンを使用する前にオラパリブ使用可否のためのFoundationOne CDxの実施に踏み切るという選択肢が提示されてためでした。タキサンを使用していないのに標準治療終了見込みとすることについてはかなり議論を呼び、今でもやはりタキサン既使用でなければがん遺伝子パネル検査を実施すべきでないと考えている専門医や医療機関も多数あるようです。

* 前立腺癌におけるPARP阻害剤のコンパニオン診断を実施する際の考え方(見解書) 改訂第2版 [#n9b799f5]

さて、2021年1月に引き続いて8月にこの提言に関する改訂第2版が発行されました。

今回もがん遺伝子パネル検査を実施するタイミングとしては第1版と大きな変わりはなく、タキサン既使用であることは必須とは考えられていない、かなり積極的なスタンスを踏襲しています。

図1

改訂第2版が発行された理由として大きなものはFoundationOne Liquide CDxが承認販売開始されたことの影響が大きいでしょう。germlineの変異しか検出できないが末梢血で検査ができるBRACAnalysisと、germlineに加えてsomaticの変異も検出できるが腫瘍組織検体の採取が必要なFoundationOne CDxの間に、(検出感度に関する課題はあるかもしれないが)somaticの変異も検出できる上に末梢血で検査ができるFoundationOne Liquid CDxという選択肢が新たに登場したのです。

FoundationOne Liquid CDxが前立腺癌で特に重宝される可能性が高いことには、前立腺癌は遠隔転移が骨転移のみという進展様式を取ることが多いというその臓器特有の事情が関与していそうです。肝転移やリンパ節転移と違って骨転移は生検の侵襲が大きいだけでなく、骨生検検体は病理診断を行うために強酸性の脱灰処理が必要となることがしばしばあり、この場合はDNA品質に悪影響を及ぼす可能性があるのです。

図2

この図に示されるように、タキサンを使わずに、組織検体が入手しにくい場合は積極的にFoundationOne Liquid CDxを使ってゆくというのは、現在の保険診療で実施可能な検査として最も「踏み込んだ姿勢」と言えます。これはガイドラインではなく提案のスタイルを取っているのでこの指針に従うことが「標準治療」とまでは言えませんが、今後の前立腺癌ゲノム医療が目指すべき方向性を示していると考えて良さそうです。現在の標準治療というよりは今後進むべき方向を示した未来志向の提言と言えて、最近は「大腸癌の遺伝子検査等のガイダンス」もそうであったように学会が盛んにこういうコメントを出すようになっているようです。