レ点腫瘍学ノート

日記/2022年/1月17日/T-only panelでの二次的所見の判定方法改善について の履歴差分(No.3)


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#author("2022-01-18T19:23:51+09:00;2022-01-17T23:38:06+09:00","default:tgoto","tgoto")
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[[Journal of Clinical Oncology>https://ascopubs.org/journal/po]]に興味深い論文が出ていた。いまエキパネでT-onlyパネルを二次的所見とするかはVAFを重要視しているが、統計的・病理的な腫瘍細胞含有率を含む得て解析することで精度を高められる。逆に言うとVAFだけでなく検体の腫瘍細胞純度を加味して二次的所見を判断することが望ましい。
[[Journal of Clinical Oncology>https://ascopubs.org/journal/po]]に興味深い論文が出ていた。

いまエキパネで''T-only panel''(末梢血の生殖細胞系列遺伝子などを用いず腫瘍検体のみを使うタイプの遺伝子パネル検査のこと。代表的なものはFoundationOne CDxなど)を二次的所見とするかはVAFを重要視しているが、統計的・病理的な腫瘍細胞含有率や発生臓器の情報を含めて解析することで精度を高められる。逆に言うとVAFだけでなく検体の腫瘍細胞純度を加味して二次的所見を判断することが望ましい。

#ogp(https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/PO.21.00279)

#ref(aa016fe290.png)

BRCA1/2やCHEK2、MSH2/6などはT-onlyで検出されると比較的germlineでも認められる割合が高い(それでも2-3割)だが、TP53なんてもうほぼゼロと見なせるくらい薄い。PTENも薄い。逆に、STK11とかKITとかgermlineのpathogenic variantがこんなに存在するのかという驚きも(Fig2A)。

somaticなのにgermlineと誤判定した変異の7割超はVAF>50%で、逆にgなのにsと誤判定した変異の8割超はVAF<50%だった。特に後者はindelで多い。

#ref(aa016fe290_b.png)

興味深いことに、カバレッジの深さ(sequencing depth)や腫瘍細胞含有率(purity)は正診率に影響しなかった。とはいえ本試験のSNVのdepthは中央値295有るので、ある程度の品質のシークエンスがある前提だが。purityが低いとgermlineだとVAFが50%に近づいて、かえって予測しやすくなるのかしら。

面白いのはresultの後半からで。TP53病的変異852例中の155例をgermlineと推定したが、このうち150例は偽陽性でリフラウメニはたった5例だった。さらにこの155例を推定する時点では他の3例を取りこぼしていたが、これらの症例のVAFはたった6-18%。今までVAF30%をカットオフと言っていた我々の立場は!?

このTP53の他にAPCやPTENも同様の誤判定があり、その一因としてfocalなコピー数変化やcopy-neutral LOH(つまり増幅欠失とLOHが重なったようになってコピー数変化を伴わないLOH)によってVAFやpurityの判定がうまくできていなかった可能性がある。

VAFとpurity以外の要素もあって、女性の乳癌卵巣癌のBRCA1/2、男性の膵癌前立腺癌のBRCA2では比較的LOH率が高いのに対して、他の癌腫(たとえば大腸癌)ではLOH率は低い。VAF、purity以外に癌腫がいわゆる「コア腫瘍」かどうかも考慮する必要がある(既にTP53とリフラウメニの推定でやっているように)

この領域ではαエラーとβエラーの性質は別物で、前者は遺伝学的確定検査のコストを損するだけだが後者は本人の治療手段や家族の将来に影響するので、現在のVAFベースの基準は特異度を偽性にして感度を優先しており、それがαエラーの頻発という精度の低下の遠因になっている。

VAFベースだけでなく、腫瘍のpurityや癌腫臓器情報などを取り入れることで精度を高める余地がありそうだけど、そうなってくるとパラメータが多すぎてもう人間の頭脳で考えるものではなくてコンピュータでスコアリングして判定を委ねざるを得なくなりそう。

#navi(日記/2022年)