レ点腫瘍学ノート

日記/2022年/1月21日/FoundationOne Liquid CDxは中心静脈ポート採血不可 の履歴の現在との差分(No.1)


#author("2022-01-20T19:27:23+09:00","default:tgoto","tgoto")
#author("2022-12-01T00:43:12+09:00;2022-01-20T19:27:23+09:00","default:tgoto","tgoto")
&tag(がんゲノム);

2021年春にがん遺伝子パネル検査の新たな選択肢としてリキッドバイオプシーであるFoundationOne Liquid CDxが保険承認されました。腫瘍組織検体が採取できない症例のがん遺伝子パネル検査を行うにはFoundationOne Liquid CDxを使用することが増えてきています。腫瘍組織を用いる検査に比べて検出感度や治療に繋がる割合が低いのではないかという懸念はあるものの、検体が採取できない場合にFoundationOne Liquid CDx の選択肢は貴重な存在となっています。

このリキッドバイオプシーを選択する場合に気になる注意書きがひとつあります。採血管に血液を採取する際に、中心静脈ポートからの血液を専用採血管に分注してはいけないというものです。 もちろん通常の採血が問題なく行える場合は問題ありませんが、症例によっては腕などからの採血が難しく、中心静脈ポートからの採血に頼らざるを得ないこともあります。 

なぜ中心静脈ポートからの採血を使うことが認められていないのでしょうか。色々調べてみましたが、バッチリとその疑問に当てはまる回答は見つかりませんでした。しかしctDNA の検体採取にあたって採血条件やスピッツの選択などがその精度に大きな影響を与えることをまとめた文献が見つかりましたので読んでみました。

#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5644666/)

#tweet(https://twitter.com/m0370/status/1484138323610583043?s=20)

これによると、ctDNA は血漿からも血清からも採集することができるものの、その差があること、あるいは採取した血液の抗凝固剤にEDTAを使うかヘパリンを使うかなどの採血管の条件によっても差があることなどが示されています。また溶血や細胞破壊などによって ctDNAではないDNAが混入すれば、ctDNAの検出精度が低下してしまうということにも触れられています。一方でその差は微々たるものであるため精度に重大な影響はないとする報告もあるようです。ctDNAの検出方法自体が検査モダリティによってもかなりばらつきますしターゲットとしたいDNAのサイズなども異なりますからその影響の大きさは一概には言えないようです。

腫瘍量がメチャクチャもりもりあったらそんな誤差は気にしなくても良さそうな気がしますし、溶血させないように丁寧に採血したら何とかなりそうな気もしますが、リンパ節転移だけとか脳転移だけなどctDNAが決して多くない状況だったらこの差が大きくなってくるかも知れませんね。。。

自分の血液DNAでも正常由来のが多すぎると腫瘍由来のものが検出できなくなるということになります。確か大腸癌のctDNAに関する研究でも手術直後にはctDNAではないcfDNAが多すぎて腫瘍由来のDNAが正しく拾い上げられないというデータがあったような気がします(今すぐに見つかりませんが…)。

溶血しても所詮混ざるのは自分の血液DNAなので、放射線照射や手術後や、単純に肝障害によるLDH高値など(まさに体内で多数の細胞が壊れている局面)は溶血以外の理由でも夾雑DNAは増えそうです(なのでポート採血だけが全て悪いわけでないと思っていますが…)

いずれにせよ、このFoundationOne Liquid CDxは中心静脈ポートからの採血の影響がないように末梢からの採血に限定した条件での精度保証しかされていませんので、極力その適正使用方法にしたがって採血を行うべきと考えています。しかし、実際の臨床現場でどうしても腕から採血できない場合はありますし、臨床データが立脚している採血条件から逸脱すること(およびそれによってctDNA以外の夾雑DNAが増えることで検出感度が低下する可能性があること)を考えると、この除外規定にどの程度の意味があるのかというのは少し疑問も感じています。

#navi(日記/2021年)
#navi(日記/2022年)
#pcomment