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#author("2022-10-17T12:49:00+09:00","default:tgoto","tgoto")
#author("2022-12-01T00:43:12+09:00;2022-10-17T12:49:00+09:00","default:tgoto","tgoto")
術前化学療法後に手術を行った症例の病理診断のTNMで、化学療法後ということを表すypという記号が付くことがあります。ypT3など。このyは何のyなのか。
普通のpT3は術後病理診断でのT3ということを意味します。このpはpathologicalのpだということは容易にわかります。しかし、術前化学療法などを行っている場合に記載するypT3のyが何の頭文字なのかはどこにもあまりハッキリ書かれていないように思います。がん取扱い規約などを見ても術前治療が入っている場合はypという接頭辞を付けるということは書いてあっても、yが何の略なのかは触れられていませんよね。UICCのTNMの表記法を見てもyが何の略であるかは明記されていません。
https://acsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/cncr.21887
こちらはCancer誌に載った''The “y” symbol: An important classification tool for neoadjuvant cancer treatment''((https://acsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/cncr.21887))という論文です。こちらでも術前治療が加わった場合の病理診断にはprefixとしてyを付けてypとするということは書かれていますが、yがどこから来たのかは触れられていないようです。
rは「再治療・再評価」という意味ですでに使用しています((https://radiopaedia.org/articles/tnm-staging-system-2))し、一説にはtherapyのyであるという話を聞いたこともありますが、それならtpT3にしそうな気もしますしね。TNMのTとかぶりますが。
* y記号はyield to treatmentのy(膵臓学会の資料から) [#gbfd74fb]
しかし、様々な知り合いを通じて粘り強く調査を行った結果、胆膵内視鏡を専門にする消化器内科の先生から有力な情報がもたらされました。膵臓学会の膵癌取扱い規約の第7版改定作業の公聴会資料です。
http://suizou.org/2015/pdf/news-9/file01.pdf
>''y記号(yield to treatment)''
多モダリティ治療の最中または後に病期分類が行われる場合には、cTNMまたはpTNM各カテゴリーの前に接頭語yを付記して区別する。ycTNMまたはypTNMカテゴリーは、検査時点で、実際に存在した腫瘍の進展範囲を意味する。yカテゴリーは多モダリティ治療が開始される前のがんの進展範囲を推定して記載するものではない。
ここにあるように、ycやypなどypTNMの接頭辞yは、''yield to treatment''のyであると言えそうです。
#ref(https://oncologynote.com/img/6819d94dac.jpg,nolink,y記号はyield to treatmentのy)
* y記号はyield to treatmentのy(京大病院の資料から) [#d65c3a78]
一方で膵臓学会以外のところでも類似の記載を見つけることができました。こちらは京大病院のサイトに記載されていた、少し古いですが2010年のUICC TNM分類第7版に関する記載です。
https://byori.kuhp.kyoto-u.ac.jp/templates/tnm7thgeneral.html
> y記号(yielded) は治療の最中ないし後に用いる (yield to treatment = 治療してよくなる)
こちらにも類似の記載があって、やはりy記号はyield to treatmentのyであるようです。術前治療を経て到達した良くなった状態を示す意味でのyieldのようです。
これで、長年の疑問を解くことができました。
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