レ点腫瘍学ノート

日記/2022年/11月07日/腫瘍内科医の「原則」 の履歴ソース(No.1)

#author("2022-11-07T18:01:44+09:00","default:tgoto","tgoto")
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カナダの腫瘍内科医、Garth Nicholas先生の腫瘍内科医としてのしごとのありかたに関する連続ツイートが非常に印象深かったのでご紹介します。

#tweet(https://twitter.com/Garth_Nicholas1/status/1587997743255093250,noconv)

長い間、私はエビデンスに基づく医療についてたくさんつぶやいてきました。しかし、腫瘍専門医はがん診療の中でしばしば、判断の根拠となるエビデンスがほとんどない状況に遭遇します。このような状況では、私たちは「最重要な原則」に従います。 しかし、これらの原則とは何でしょうか?私が重要だと思うものをまとめたスレッドを紹介します。

* 原則1:まず害を及ぼさないこと [#f4041186]

#tweet(https://twitter.com/Garth_Nicholas1/status/1587997745054457858,noconv)

これは古い時代から大切にされてきた重要な原則です。あなたが提案した治療方針が患者にどのような効果をもたらすかがはっきりしないのに不利益(有害事象・侵襲)がある場合は、おそらくあなたは自分が正しい道を歩んでいるかどうかを一度立ち止まって考えるべきです。

* 原則2:緩和的治療か根治的治療か [#z4ad849a]

#tweet(https://twitter.com/Garth_Nicholas1/status/1587997746597879812,noconv)

がん治療では、それが緩和を目的とした治療なのか根治を目的とした治療なのかを明確にすることが重要です。そこが決まれば治療上の判断(毒性、投与量の削減)はここから自然と決まります。ここが決まらないままでは、その後の治療判断に迷いが生じることにつながります。

* 原則3:患者さんに緩和的治療なのか根治的治療なのかを伝える [#h8d7e50d]

#tweet(https://twitter.com/Garth_Nicholas1/status/1587997748233732096,noconv)

自分の中でその治療目的が決まったら、その治療目的を患者に説明しなければなりません。治療法の決定は医療者と患者のパートナーシップの中で作られるものですから、そのパートナーが自分の判断材料や人生に影響を与える基本的な事実を知らないというわけにはいかないからです。

* 原則4:アジュバント療法はRCTを必要とする [#dfd7edb9]

#tweet(https://twitter.com/Garth_Nicholas1/status/1587997750498672640,noconv)

アジュバント療法(術後薬物療法)は、すでに治癒している患者を抗腫瘍薬という毒性の侵襲にさらすことになります。(治療効果が直接確認できないため)担当医が科学的根拠なしにケースバイケースでなんとなく決めるべきものではありません。RCTなどの科学的根拠があれば、その治療の侵襲を上回る治療効果の恩恵があるかどうかを確認することができます(したがって、アジュバント治療を行うべきかどうかはRCTの結果に従うべきです)。

RCTがない?もしRCTがないのなら、そのアジュバント療法はやるべきではありません。

* 原則5:緩和する症状がないのに緩和的治療を行うことには慎重であれ [#c6bc2675]

#tweet(https://twitter.com/Garth_Nicholas1/status/1587997751983357953,noconv)

緩和的病期にある患者が良い全身状態で過ごせるのは、おそらくそれほど長い期間ではないでしょう。その貴重な時間を抗がん剤の毒性で浪費してしまうのは本当に良いことなのかを考えて、慎重に判断すべきです。緩和的治療を行うべき病変や症状がない場合は、(むやみに介入せずに)経過観察を真剣に検討したほうがよいこともあるでしょう。

がんによる症状がなく、標的とすべき病変もないのであれば、そのときは静かに様子を見ましょう。

* 原則6:あなたは自分が思っているほど賢くはない [#n0748a8d]

#tweet(https://twitter.com/Garth_Nicholas1/status/1587997754160201728,noconv)

遺伝子検査の進歩によって、私たちは腫瘍をわかった気になっている。病態生理の機序解明によって、私たちは検査と治療を結びつけてしまう。しかし、これらの十分な根拠があるにもかかわらず、現実にはほとんどの癌治療は失敗する。(すなわち、わたしたちは自分達が思っているほどには賢くはない)

もし自分だけはわかっている、と思うようになってしまっているのなら、それはおごり高ぶっているかもしれないと考えるべきです。

* 原則7:治療しないということは敗北ではない [#z149845c]

#tweet(https://twitter.com/Garth_Nicholas1/status/1587997756345442305,noconv)

あなたの最も大切な仕事は、人を治療することではありません。人々が良い決断をするのを助けることのほうが大切です。患者の中には、よく考えた上でがんの積極的治療を受けないという選択をする人もいることでしょう(が、それは決して降伏を意味するわけではありません)。もし、あなたが担当した患者の全員が積極的治療を選択しているのであれば、あなたは患者に十分に合理的な判断を下すための説明ができていないことになります。

#tweet(https://twitter.com/Garth_Nicholas1/status/1587997758757212160,noconv)

がん治療の基本原則は他にありますか? 病気の部位や薬剤の種類よりももっと大切な
「原則」がありますか? ぜひ、ご意見をお聞かせください。

* 他のから提案された「原則」 [#t11415a0]

以下には、他のオンコロジストや患者からも重要な「原則」が提案されていました。

#tweet(https://twitter.com/BenjaminGVincen/status/1588155250933993474,noconv)
患者の希望をくりかえし確認し、その判断を支えるという役割を忘れてはいけません。 
患者が、抗がん剤の1サイクル目の開始前に望むことと、7サイクル目のの前に望むことが、同じとは限りません。

#tweet(https://twitter.com/RedGia/status/1588296853447008257,noconv)
治療を続けてゆく中で時間が経てばがん治療の目標を見直すこともあります。最初にステージIVの肺癌と診断されたときの患者の目標が、しばらく治療を続けたあとの患者の目標とは違ってきてもおかしくはありません。

#tweet(https://twitter.com/DanOfChorlton/status/1588062816430428160,noconv)
治療の結果、腫瘍より患者が先に弱ってしまうようなことがあってはいけません。
緩和的治療では、症状の改善が最優先で、次いで生活の質の向上、余命の延長の順番で考えるべきです。
入院を繰り返すような治療は、良い緩和医療とは言えません。

いずれも、非常に示唆するものばかりです。目先の診療の忙しさや新薬のデータに惑わされることなく、「原則」を大切にして仕事に当たってゆきたいと思います。