レ点腫瘍学ノート

日記/2022年/3月17日/住んでいる場所ががん治療の予後に相関するという話 の履歴ソース(No.1)

#author("2022-03-18T15:05:29+09:00;1970-01-01T18:00:00+09:00","default:tgoto","tgoto")
がん治療病院から遠方に住んでいると予後が悪いという「通院距離毒性」とでも言うべき関連性についての報告です。Supportive Care Cancerに面白い文献がありました。

海外のデータではありますが、肺癌患者の1年生存率は、がん治療病院と同市内の在住者で27.1%、50km以内に住んでいれば22.4%、50km以上離れたところに住んでいると20.5%と、遠くなるにつれて徐々にyと碁が悪化します。通院距離・通院所要時間が患者の予後に相関することを示したものです。

* 日本ではどうか [#m09171aa]

日本は全国津々浦々に医療機関が整備されているので50kmもの距離を通院を要する地域は少ないと思います。しかし、それでも東京23区/政令指定市/市域/町村域で層別化したらいくらか予後に差は付くのではという気はします。

都心は所得が高く僻地は高齢化率が高い等との交絡調整が難しいのですが、先日の大阪のがん拠点病院とそれ以外で予後に差があるという話にも通じるかも。

同市内だとECOG PS 2でも拠点病院に通院でき、50km以内ならECOG PS 1で通院でき、50kmを超えそうならECOG PS 0でないと通院できない、という物理的・体力的な目に見えない「ふるい」にかけられているのだろうという想像はできます。健康でも50kmの距離を定期的に通うなんてキツいもんね。

* がん治療を受けるにはどこに住んでいるかは重要 [#raf3070c]

この論文のように数字で差が出るかはわかりませんが、化学療法の開始前には必ず「どこ住み?誰と住んでる?困った時に手伝ってくれる人はいるのか?」を必ず聞くようにします。いくら医療機関と交通網が整った日本であっても、住んでる場所が◯◯市内市街地かXXX郡豪雪地帯なのかという問題は確かに治療選択に影響が無いわけではありません。

治療開始時にどこ住みか確認するのは、将来的に在宅医療を利用できるのか難しいのかが地域によって大きく違ってくるからという当県の事情もあります。

市街域は緩和ケア病棟でも在宅緩和ケア専門診療所でも色々と選べますが、山間部は本当に医療資源が乏しい町村があり、その場合かなり早くから準備を要します。

今年はバカみたいに雪が降ったので(それも数週間ごとに何度もバカ雪)、がん化学療法はそれだけで休薬を迫られてカルテに「本日積雪により来院困難なため電話で状況確認のみ。点滴はSKIP」みたいなのが並ぶ日もありました。通院が低負荷で安定して行えるということ自体がかなり治療に有利というのは確かです。

こういうのを見ると医療機関の集約化というのも考えものです。集約化で医療が洗練されて、都市に住む9割の日本人が恩恵を受ければ日本人全体の予後の「平均値」は改善するでしょうけど、切り捨てられる残り1割の日本人にとってはたまったもんじゃありません。

産婦人科医不足で地方都市で赤ちゃんを産めないというニュースがよく出ますが、がんも人口10万以下の町は手術や化学療法を行える基幹病院はかなり少なくなり、人口1万人以下の郡部になるとそれら積極的治療のみならず緩和ケアすら医療機関が希少になってくるかもしれません。まさに、『神様のカルテ』の世界です。

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