レ点腫瘍学ノート

日記/2022年/3月24日/トラスツズマブデルクステカンの消化器症状 の履歴の現在との差分(No.1)


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#author("2023-01-09T18:00:51+09:00;2022-03-24T22:16:10+09:00","","")
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''トラスツズマブデルクステカン(T-DXd、エンハーツ)''がHER2陽性乳癌二次治療においてトラスツズマブエムタンシン(T-DM1、カドサイラ)に対して圧勝する''DESTINY-Breast03試験''の結果がNEJMに掲載されました。
''トラスツズマブデルクステカン(T-DXd、エンハーツ)''がHER2陽性乳癌二次治療においてトラスツズマブエムタンシン(T-DM1、カドサイラ)に対して圧勝する''DESTINY-Breast03試験''((https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2115022))の結果がNEJMに掲載されました。

#ogp(https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa2115022)

トラスツズマブデルクステカンは効果の高さに注目が集まりがちですが、承認当初はその間質性肺炎のリスクの高さも注目されました。データによっては4%の投与者にILDが起こったというものもあり、がんで命を落とさずに済んだひとが間質性肺炎で命を落とすことになっては目も当てられませんから、これに関してはしきりに注意喚起がなされました。

しかし、実際に乳癌や胃癌に対して使い始めると(注意して対象者を選別しているからというのもありますが)意外に間質性肺炎は目にしないのに対して、その消化器毒性の強さが意外に気になります。

* 意外に強いトラスツズマブデルクステカンの嘔気嘔吐 [#d33171a4]

#tweet(https://twitter.com/MamMa_mimumemo/status/1506781347439788032)

乳癌で承認されている投与量は5.4mg/kgです。この量でも、嘔気や嘔吐は頻繁に見られます。

#tweet(https://twitter.com/MamMa_mimumemo/status/1506781347439788032)
#ref(https://oncologynote.jp/img/3a8eeb0e32.png,nolink)
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2115022

乳癌の最初の承認に繋がった試験であるDESTINY-Breast01試験((https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1914510))は第2相試験ですが、投与量は5.4mg/kdで、嘔気は77.7%、嘔吐は45.7%です。ちなみに食欲不振は31%で下痢も29.3%に見られていますし、T-DM1では比較的起こりにくい脱毛も48.4%に見られています。

乳癌以外では投与量が若干多く、5.4mg/kgではなく6.4mg/kgで行われている試験が多くなっています。非小細胞肺癌のDESTINY-Lung01試験((https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2112431))では6.4mg/kgが投与され、嘔気73%、嘔吐40%に見られています。今後明らかになる非小細胞肺癌のDESTINY-Lung02試験では6.4mg/kg群と5.4mg/kg群が設定されており、有効性や毒性が比較されます。

* 実はイリノテカンよりも強い消化器毒性 [#s7092316]

消化器毒性が比較的起こりやすいとされる消化器癌領域で注目すべきなのは胃癌のDESTINY-Gastric01試験((https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2004413))です。この試験も6.4mg/kgと乳癌よりは多い量になっています。この試験では嘔気が63%、下痢が32%、嘔吐が26%となっていて既に示した乳癌や肺癌と大きく変わらない値ではありますが、なぜこの試験が着目すべきであるかというとこの試験が既存の細胞障害性抗腫瘍薬との比較試験だからです。
消化器毒性が比較的起こりやすいとされる消化器癌領域で注目すべきなのは胃癌の''DESTINY-Gastric01試験''((https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2004413))です。この試験も6.4mg/kgと乳癌よりは多い量になっています。この試験では嘔気が63%、下痢が32%、嘔吐が26%となっていて既に示した乳癌や肺癌と大きく変わらない値ではありますが、なぜこの試験が着目すべきであるかというとこの試験が既存の細胞障害性抗腫瘍薬との比較試験だからです。

この試験はPhysician's Choice of Chemotherapyとのオープンラベル比較試験になっていますが、コントロール群の9割がイリノテカンを投与されています(残りはパクリタキセル)。そして、その対照群の消化器毒性は嘔気が47%、下痢は32%、嘔吐は8%となっています。イリノテカンというのは胃癌に対して使用する各種薬剤の中では(シスプラチンの次に?)消化器症状が強く出る薬剤というイメージがありますが、実はトラスツズマブデルクステカンはそのイリノテカンよりも嘔気も嘔吐も出現頻度が高くなっているのです。
この試験はPhysician's Choice of Chemotherapyとのオープンラベル比較試験になっていますが、コントロール群の9割が''イリノテカン''を投与されています(残りは''パクリタキセル'')。そして、その対照群の消化器毒性は嘔気が47%、下痢は32%、嘔吐は8%となっています。イリノテカンというのは胃癌に対して使用する各種薬剤の中では(シスプラチンの次に?)消化器症状が強く出る薬剤というイメージがありますが、実はトラスツズマブデルクステカンはそのイリノテカンよりも嘔気も嘔吐も出現頻度が高くなっているのです。

イリノテカンは制吐薬適正使用ガイドラインでは中等度催吐性リスク(MEC)の薬剤に位置づけられていますから、トラスツズマブデルクステカンはMECと同等かそれ以上(HEC)としての扱いが必要であることがわかります。制吐剤は少なくとも2剤併用(5HT3拮抗剤とステロイド)は最低ラインで、NK1拮抗剤やオランザピンも併用してもよいだろうと思われます。
イリノテカンは''制吐薬適正使用ガイドライン''では中等度催吐性リスク(MEC)の薬剤に位置づけられていますから、トラスツズマブデルクステカンはMECと同等かそれ以上(HEC)としての扱いが必要であることがわかります。制吐剤は少なくとも2剤併用(5HT3拮抗剤とステロイド)は最低ラインで、NK1拮抗剤やオランザピンも併用してもよいだろうと思われます。

適正使用ガイドを見ても注意すべき副作用の筆頭にあげられている5つは間質性肺障害・骨髄抑制・Infusion reaction・心障害・肝障害で、消化器毒性はあまり重くは取り上げられていません。確かにこれで致命的な経過をたどることはあまりありませんが、患者のQOLに大きく影響する上に、治療継続ができない毒性中止にも繋がりかねない有害事象なので、トラスツズマブデルクステカンの消化器毒性はあまり軽く見ない方がよいだろうと考えています。

* 甘く見てはいけない薬 [#xe49bc16]

ちなみに、この試験では白血球減少もトラスツズマブデルクステカン群はイリノテカンorパクリタキセルの群よりも強く血球減少が出ています。トラスツズマブデルクステカンはかなりしっかりした毒性がある薬剤で、「トラスツズマブに毛が生えたもの」みたいな軽い気持ちで処方するのは厳に慎むべきですね。

#tweet(https://twitter.com/m0370/status/1494853416496992256)

トラスツズマブデルクステカンの嘔気に関するオランザピンの臨床試験が国内でも行われているようです。
https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCTs031210410

なお、デルクステカンはUGT1A1の遺伝子多型が有効性・安全性に影響する可能性は低いとされていますので、UGT1A1による投与量の調整は不要と考えます。

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