レ点腫瘍学ノート

日記/2022年/3月5日/エキスパートパネルを省略できる要件は現実的か問題 の履歴差分(No.3)


#author("2022-03-06T00:13:58+09:00;2022-03-05T23:00:41+09:00","default:tgoto","tgoto")
#author("2022-03-06T06:15:59+09:00;2022-03-05T23:00:41+09:00","default:tgoto","tgoto")
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エキスパートパネルを省略するための要件が発表されました。
がん遺伝子パネル検査を実施した後の治療に推奨や二次的所見の判定のために実施されている専門家会議(エキスパートパネル)を簡略化・省略するための要件が発表されました。日本臨床腫瘍学会などが要望を出していたことを反映しての決定のようですが、この決定内容によってがんゲノム医療の現場はどの程度変わるのでしょうか。Twitterやその他のSNS、また実際の現場で相談していたことをもとに、期待されるメリットと実運用への懸念点について記載します。

情報のソースは下記の2つのようですが、今のところまだインターネットには公開されていないようです。
*背景因子 [#d2dc7ffb]

これまで、がん遺伝子パネル検査の結果を解釈するために、がんゲノム医療中核拠点病院やがんゲノム医療拠点病院で各種の専門家がリアルタイムで集まって実施されるエキスパートパネルが開催されてきました。しかし、このエキスパートパネルは一症例毎に数多くのスタッフの時間と手間を要するため、準備担当者や参加者の大きな負担となっていました。エキスパートパネルを行う前の情報収集や病歴サマリーの作成は必要な作業ではありますが、がん遺伝子パネル検査を実施したすべての症例の治療方針などを全員が集合して検討するにはがん遺伝子パネル検査を実施する症例数が増えすぎて、効率が悪くなってしまっていたのです。

エキスパートパネルを行うための負担が大きくなると、1週間あたりにさばける症例数にも限りが出てきてしまいます。検討症例枠を増やすのにも限度があるので、がん遺伝子パネル検査は完了しているのにエキスパートを行うために何週間のために何週間も待たなければならないという事態も発生します。組織検体ではなくリキッドバイオプシーでのがん遺伝子パネル検査が行えるようになると、検査そのもののTAT(検査を提出してから結果レポートが返却されるまでの時間)が数日短くなるとのことでしたが、そこで数日を短縮できてもエキスパートパネルを行うのに何週間も待つようだと意味がありません。エキスパートパネルを行うこと自体が、円滑ながんゲノム医療を阻害するという皮肉な結果を生んでいました。

そこで、エキスパートパネルを保険算定の必須要件から外そうという要望が出てきていたのです。

* 公的な通知 [#r445441c]

2022年3月3日に発表された情報のソースは下記の2つのようですが、今のところまだインターネットには公開されていないようです。がん遺伝子パネル検査を実施している医療機関には厚生労働省の当該部門から通知のPDFが届いているはずです。

+ 健が発0303第1号厚生労働省健康局がん・疾病対策課長通知
「エキスパートパネルの実施要件について」
+ 健が発0303第1号厚生労働省健康局がん・疾病対策課事務連絡
「エキスパートパネルの実施要件の詳細について」

*背景因子 [#d2dc7ffb]
* 今回の改訂内容 [#a40f7c91]

これまで、がん遺伝子パネル検査の結果を解釈するために、がんゲノム医療中核拠点病院やがんゲノム医療拠点病院で各種の専門家がリアルタイムで集まって実施される専門家会議(エキスパートパネル)は、数多くのスタッフの時間と手間を要するため、がんゲノム医療中核拠点病院やがんゲノム医療連携病院の大きな負担となっていました。エキスパートパネルを行う前の情報収集や病歴サマリーの作成は必要な作業ではありますが、がん遺伝子パネル検査を実施したすべての症例の治療方針などを全員が集合して検討するには症例数が増えすぎて、効率が悪くなってしまっていたのです。
#tweet(https://twitter.com/m0370/status/1499566309369348097)

エキスパートパネルを行うための負担が大きくなると、毎週こなせる症例数に限りが出てきてしまい、エキスパートのために何週間のために何週間も待たなければならないという事態も発生します。組織検体ではなくリキッドバイオプシーでのがん遺伝子パネル検査が行えるようになると、検査そのもののTAT(検査を提出してから結果レポートが返却されるまでの時間)が数日短くなるとのことでしたが、そこで数日を短縮できてもエキスパートパネルを行うのに何週間も待つようだと意味がありません。エキスパートパネルを行うこと自体が、円滑ながんゲノム医療を阻害するという皮肉な結果を生んでいました。
がん遺伝子パネル検査を行った結果として「遺伝子変異検出なし、エビデンスレベルAとRのみ、MSI-Hのみ、TMB-Hのみ」の場合はクラウド上のファイル共有サービスなどで事前の「持ち回り協議」だけして、出席者の見解不一致がなければリアルタイム形式のエキスパートパネルが省略可能になるようです。この場合は事前検討のみでエキパネを開催したものとするようです。事前検討で見解不一致がある場合はリアルタイムエキパネを必須となります。

そこで、エキスパートパネルを保険算定の必須要件から外そうという要望が出てきていたのです。
* この制度が始まることによる利点 [#q9237910]

* 今回の改訂内容 [#a40f7c91]
** 検査結果説明までのスピードアップ [#w0081101]

https://twitter.com/m0370/status/1499566309369348097
全然遺伝子変異が検出されなかった場合や、すでにエビデンスレベルAの治療が確立された遺伝子変異がある場合はエキスパートパネルを大幅に簡略化できます。拠点病院のエキスパートパネルの予約の取り方をどのような方式にしているかにもよりますが、クラウド上の持ち回り協議を通常のエキスパートパネルよりも前倒しで実施できるようにすれば、がん遺伝子パネル検査の提出から最速3週間程度で結果を説明することもできるようになりそうです。

「遺伝子変異検出なし、エビデンスレベルAとRのみ、MSI-Hのみ、TMB-Hのみ」の場合はネットで事前協議だけして意義なければリアルタイム形式のエキパネ省略可能になるようです。
リキッドバイオプシーでctDNAが少なかった場合は全然遺伝子変異が検出されないことがありますが、この場合も今では結果説明まで1.5〜2ヶ月待たされてしまいます。これがすぐに説明できるようになれば、(治療が無いということで残念ではありますが)さっさと治療方針を切り替えてしまうことができます。

エキパネ参加者がファイル共有サービスなどで事前に持ち回り協議し、遺伝子変異がない場合やエビデンスが確立されて出席者の見解不一致が無い場合はリアルタイムのエキパネは省略し、事前検討のみでエキパネを開催したものとするようです。事前検討で見解不一致がある場合はリアルタイムエキパネを必須とも書かれています。
また、NTRKやMSI-Hのように保険適用がある結果が得られた場合も今まではその治療薬の投与までにエキスパートパネル開催を待つことがありましたが、今後はこれらの遺伝子変異が検出されれば迅速に治療を導入することもしやすくなります。

* この制度が始まることによる利点 [#q9237910]
** エキスパートパネル混雑緩和により全体に待ち時間が短縮 [#df7b78b6]

** 検査結果説明までのスピードアップ [#fe5b0cfd]
エキスパートパネルを開催しなければならない症例数が減るため、枠に余裕が出てエキスパートパネル待ち時間も短縮され、簡略化対象とならない症例にも間接的に良い影響がありそうです。

いまFMIレポートとC-CATレポートが来てからエキパネ待ちがすごく長いのですが、今後はエキスパートパネルを待たずともC-CAT結果が来たらクラウドでサマリを共有し、早ければ数日以内に結論を出せる。同意取得から結果説明が3週間くらいで行えるようになるのでは?
** 参加者の身体的・時間的な負担軽減 [#y77aafb0]

なにより、エキスパートパネル参加者への負担が減り、がんゲノム医療全体が効率化されます。どの医療機関でもがんゲノム医療に関わる人員が不足していて検査キャパシティが問題となっているため、現状の体制のままで検査実施数を増やすために1症例あたりの負担をどうやって軽減するかというのが重要なポイントになっていました。

* 実運用への懸念点 [#e58d330c]

上記のメリットから今回のエキスパートパネル簡略化への道筋が付いたことは現場ではかなり歓迎されていると思います。しかし、示されたエキスパートパネル簡略化可能な要件を見るとなかなか厳しく、その実効性には少し疑問が残ります。