レ点腫瘍学ノート

日記/2022年/4月22日/hyperprogressionは存在しない説 の履歴差分(No.3)


#author("2022-04-22T08:24:48+09:00;2022-04-22T08:24:15+09:00","default:tgoto","tgoto")
#author("2022-12-01T00:43:12+09:00;2022-04-22T08:24:15+09:00","default:tgoto","tgoto")
&tag(論文,免疫チェックポイント阻害剤);

免疫チェックポイント阻害剤を投与したことによって腫瘍が縮小するどころか、逆に急激に腫瘍の増大・増悪を認める事例が多数報告され、免疫チェックポイント阻害剤による''hyperprogression''あるいは''hyperprogressive  disease(HPD)''と呼ばれたりします。

#tweet(https://twitter.com/mamma_mimumemo/status/1517055968437149696)

このHyperprogressionは、免疫という神の領域のブラックボックスに人が手を突っ込んだことに対する怒りや祟りのように喩えられることもある、未解明で不可解な現象ではありますが、果たしてこのhyperprogressionという現象は本当に免疫チェックポイント阻害剤の投与によって引き起こされているのかということに関する報告です。

#ogp(https://jitc.bmj.com/content/10/4/e004273)

中国からの論文で、上部消化管癌を対象に実施されたATTRACTION-2試験とCheckMate-451試験を基にした解析です。ニボルマブやイピリムマブを投与された患者とプラセボ群での、初回効果判定までにそれぞれ20%、50%、100%以上の腫瘍径の増大を示した患者の割合を比較しています。カットオフ値を20%、50%、100%のいずれにしても、免疫チェックポイント阻害剤で腫瘍が急激に増大した群は確かに存在するのですがプラセボ群での同様の増大を示した患者の割合よりは低くなっています。

#ref(https://oncologynote.com/img/6d00ac6246.jpg,nolink,免疫チェックポイント阻害剤によるhyperprogression)

これらの結果から、hyperprogressionは免疫チェックポイント阻害剤の投与によって引き起こされたように考えられていたが、その実は免疫チェックポイント阻害剤の投与と関係ないプラセボ群でも見られる現象であり、単なる腫瘍としての自然経過でそのような急激な増悪が起こり得るのではないかと考察されています。

言われてみれば確かに従来の殺細胞性抗腫瘍剤でも投与後の急激な増悪は見られますし、治療を開始する前の精査中に激しく進行する症例も見られますので、免疫チェックポイント阻害剤の投与は関係がな意かもしれません。言葉だけが一人歩きしていた、ということでしょうか?

* 余談 [#dce8680a]

そういえばもう一つ、腫瘍には免疫チェックポイント阻害剤が効いているのに画像的には腫瘍が増大しているように見える''pseudoprogression''という現象も、本当にどれだけ存在するのかは気になっているのですが…。いったんは増大したようには見えるものの、そのまま治療を継続してゆくといずれ腫瘍は縮小に転じるという現象は、確かに免疫チェックポイント阻害剤に限らず、これも殺細胞性抗腫瘍薬にも見られる現象ですので…。

#navi(日記/2022年)
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