レ点腫瘍学ノート

日記/2022年/7月17日/膵癌オラパリブPOLO試験の最終OSに対する懐疑的な見方 の履歴ソース(No.1)

#author("2022-07-17T17:30:02+09:00;1970-01-01T18:00:00+09:00","default:tgoto","tgoto")
&tag(膵癌);

数日前にJCOに掲載されたgBRCA膵癌に対するオラパリブ維持療法のOSに関して、OSで差がなかったのでネット上でも色々賛否両論になっているようです。もちろん全体としてはPFSや3年生存率の延長をもってオラパリブの有効性を評価する意見が多いのですが、しかし否定的な意見にも一定の説得力があります。

#ogp(https://opmed.doximity.com/articles/the-polo-trial-is-great-but-probably-not-practice-changing)

たとえば上記のサイト。タイトルは「The POLO Trial is Great, But Probably Not Practice-Changing」、つまり「POLO試験の結果は素晴らしいが、おそらく実臨床を変えるものではない」といったところです。

その理由としてはいくつかのものが挙げられています。もっとも強い根拠としてはやはり対照群がプラセボの設定されたことでしょう。FOLFIRINOXが有効であることが示されているのに、それを途中で中断してプラセボに割り当てたことは非現実的とされています。FOLFIRINOXの多剤併用のうちで長期継続が難しいのはオキサリプラチンだけで、OXを抜いたFOLFIRIにしたり、大腸癌のTRIBE試験のようにオキサリプラチンとイリノテカンを抜いても5FUのみ継続するという方法もあったはずです。果たして5FUまで中止させてプラセボを投与するのが倫理的に問題ないのかというのは、このPOLO試験に常について回る疑問です。

2つめはPOLO試験への疑問ではないのですがオラパリブが臨床を変えるかという点で、そもそもそんなにgBRCA膵癌がいないという意見です。7.5%にgBRCA変異があるということについても実際は2-4%程度ではないかというコメントがあり、確かに7.5%はおらんやろという実感。

また、前立腺癌や卵巣癌のデータからsomatic BRCAでもPARP阻害剤は有効性が期待できるので、gBRCAに限定したPOLO試験デザインは本来オラパリブの恩恵をうけるはずだったsomatic BRCA変異陽性膵癌患者に不利益をもたらす可能性もあります。最近はパネル検査でBRCA変異が見つかる方も増えていますが、somatic BRCAを除外するとこういったパネル検査で見つかるBRCA変異患者もオラパリブのチャンスを逃します。

オラパリブは乳癌や卵巣癌のデータから、おそらく奏効率は20%よりもずっと低くなるはずで、今後はオラパリブと細胞障害薬や免疫チェックポイント阻害剤との併用療法などの開発が必要となるはずです。

#ogp(https://acsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/cncr.32979)

こちらでも、維持療法の有効性をPFSで評価すべきでないとか、対照群はプラセボではなくFOLFIRIまたは5FUであるべきという意見などが挙げられています。確かにOXはずっと続けることはできなくてもFOLFIRIなら認容性には問題がないし、実臨床に即している。

やはり、対照群はケモが有効にもかかわらず途中で治療を中止されプラセボを投与された非倫理的な試験である、プラセボ投与開始後もORRが10%あることからそもそも評価タイミングがおかしいとか、試験デザインのせいでsomatic BRCAが治療機会を失ってるとか色々と意見があるようです。

#tweet(https://twitter.com/VPrasadMDMPH/status/1548134317628354561)

さいごに紹介するこのツイートは皮肉が効いている。

「生存期間はオラパリブが19.0ヶ月でプラセボは19.2。オラパリブは世間ではメディカルライターによる巧妙なスピンオフによって評価を得たが、FDAは腫瘍学で最重要な評価指標のOSでオラパリブに勝っているプラセボを承認しないのはなぜ?」

#tweet(https://twitter.com/SuyogCancer/status/1548132068822958082)

#navi(日記/2022年)