レ点腫瘍学ノート

日記/2022年/7月29日/KRAS G12C変異の特徴 の履歴の現在との差分(No.2)


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ソトラシブ・アダグラシブなどKRAS G12Cに対する分子標的薬の開発が次々と進んでいます。Annals of Oncologyに今月掲載された論文からKRAS G12Cの特徴を見てみましょう。この報告は海外の4箇所の主要な拠点施設からの報告を統合したものです。

#ogp(https://www.annalsofoncology.org/article/S0923-7534(22)01856-7/fulltext)

KRAS G12Cは非小細胞肺癌のKRAS変異のうちの42%を占めます。これはG12DやG12Vが15〜19%程度であることに比べるとかなり大きい数字です。一方で膵癌や大腸癌ではKRAS G12C変異はKRAS変異のうちの10%以下しか占めておらず、KRAS G12C変異においても肺癌は他の固形がんに比べて分子標的治療の開発が一歩先行していることがわかります。

KRAS G12C変異が見られるのは比較的喫煙量が少なく(pack-year指数が低く)、EGFR変異の患者層に若干近いようです。TTF-1陽性率やCDKN2A変異率が高いという特徴もありますが、STK11やCTNNB1はやや少ないらしい。

KRAS G12Cの特徴の1つは、腫瘍微小環境としてはcold tumorに相当し、PD-L1染色での陽性率が低く、PD-1/PD-L1 blockadeに対する抵抗性がある傾向があります。CD8陽性T細胞の浸潤割合も低く、さらにTMBも低く、これも免疫チェックポイント阻害剤の有効性が期待しにくい理由の一つに挙げられています。

#tweet(https://twitter.com/BiagioMd/status/1552388844745502720)

実際に予後を見てみると、免疫チェックポイント阻害剤単剤で治療された場合は他のKRAS変異陽性肺癌に比べるとKRAS G12C変異陽性肺癌の予後は明らかに悪いように見えます。PFSは4.0→2.1ヶ月、OSも16.4→7.4ヶ月と、かなり劣っている。一方で細胞障害性抗がん剤の有効性はそこまで落ちないようで、ICIケモコンボではPFSもOSもそこまでの差は付きませんので、これはKRAS G12Cそのものが予後不良因子なのではなく、やはり免疫チェックポイント阻害剤抵抗性因子と取るべきでしょう。

なお、アジア人ではKRAS G12Cの変異頻度は欧米人に比べてかなり低く、アジア人では稀という報告もありました。

#ogp(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2030638)

その他にもKRASに対する治療薬はどこもかなり精力的に進めており、特にG12Cの次はG12Dが来そうです。今後の開発に期待です。

#ogp(https://aacrjournals.org/cancerdiscovery/article/12/4/924/689602/Expanding-the-Reach-of-Precision-Oncology-by)

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