レ点腫瘍学ノート

日記/2022年/8月23日/臓器横断的治療標的としてのRET遺伝子 の履歴の現在との差分(No.3)


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MSI-H・NTRK・TMB-H等に対して臓器横断的に全固形がんに対する承認を獲得した薬剤が登場して話題を集めてはや数年。その後も臓器の種類を問わずに有効性が期待できる治療標的はいくつか登場してきていた。2022年6月にはBRAF V600変異に対してFDAが臓器を問わずBRAF阻害剤+MEK阻害剤の併用療法を承認していた。次の治療標的は何か。

MSI-H、NTRKの次にBRAF阻害剤が来るのは妥当と思われる。大腸癌ではBRAF阻害剤+MEK阻害剤の併用療法がうまく有効性を示せず、抗EGFR抗体を併用する路線になってしまったのが若干冷や水を浴びせた形になってしまったが、大腸癌以外の領域では順調に有効性を示すことができた。2022年6月に、米国FDAはBRAF V600E変異の固形がんに対して大腸癌以外のすべての固形がんでダブラフェニブ+トラメチニブを承認した。

#ogp(https://www.onclive.com/view/fda-approves-dabrafenib-plus-trametinib-for-braf-v600e-mutated-unresectable-or-metastatic-solid-tumors)

* BRAFの次に来るのはRETか [#ma195656]

以前は、BRAFの次に来るのはPARP阻害剤かALK阻害剤かと思っていた。たとえば膵癌の個別化治療を行うとそうでない場合に比べて予後が伸びたというPANCANの有名なFigureになったあの論文。あの論文でMatched therapyの恩恵を受けたのは、多くがHRDに対するPARP阻害剤で、その他はMSIとALKが少数ずつ。

#ogp(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32135080/)

#tweet(https://twitter.com/m0370/status/1254439713043144704)

過去の様々な報告を見てもBRCA1/2に対するPARP阻害剤は安定して高い有効性が期待できそうだし、ALKは非小細胞肺癌以外ではきわめて希少とはいえ、もし見つかればこれは本当にきわめて重要な治療標的になりそうと言える。しかし、実際のところはこのPARP阻害剤やALK阻害剤よりも、RETのほうが先行しているよう。ARROW試験の結果がNature Medicineのarticleに掲載された。オープンアクセスなので誰でも自由に全文が読める。

#ogp(https://www.nature.com/articles/s41591-022-01931-y)

#ref(https://oncologynote.com/img/c1bfc697b7.png,nolink)
#ref(https://oncologynote.jp/img/c1bfc697b7.png,nolink)

症例は29症例と少ないながら、12種類の多彩な固形がんに対してプラルセチニブ(以前はBlueprint社のBLU-667と呼ばれていたもの)を投与している。当然、すでにRET阻害剤が標準治療として地位を確立している非小細胞肺癌と甲状腺癌は除外されている。すでに標準治療が終了した患者ばかりを対象にした試験であるにも関わらず、OSとPFSは14ヶ月と7ヶ月と非常に良好で、duration of responseの中央値も12ヶ月もある。

なお、このプラルセチニブは非小細胞肺癌でも良好な成績を示して、こちらも2022年8月にAnn Oncolに掲載されている。こちらは、腫瘍縮小が一次治療で投与された患者の100%で、またプラチナベース化学療法を受けた後の治療で投与された患者の97%で見られたという驚異的な成績で、頭蓋内病変も70%が縮小を示している。PFSも初回治療で13.0ヶ月、既治療群で16.5ヶ月と、前述の全臓器の成績をさらに大きく上回っている。

#ogp(https://www.annalsofoncology.org/article/S0923-7534(22)03866-2/fulltext)

大腸癌に対するトラスツズマブ+ペルツズマブも30症例の単群TRIUMPH試験で承認されたが、最近の希少遺伝子変異コホートに対する新規治療は大規模な第3相のRCTなどを行わずとも単群の奏効率などで承認される事例が少なくない。すでに非小細胞肺癌で承認されているセルペルカチニブとの関係がどうなるかわからないが、このプラルセチニブも臓器を問わず承認される可能性はかなり高そうで、今後の行方が楽しみ。

#navi(日記/2022年)
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