レ点腫瘍学ノート

日記/2023年/6月2日/pan-KRAS阻害剤の登場 の履歴ソース(No.1)

#author("2023-06-02T23:49:13+09:00;1970-01-01T18:00:00+09:00","default:tgoto","tgoto")
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KRAS変異は、がん患者さんに最も頻繁に見られる機能獲得型変異の一つであり、その治療ターゲットは、プレシジョン・オンコロジーにおける重要な目的となっています。

最近、科学誌Natureで新型のpan-KRAS阻害剤について報告((https://www.nature.com/articles/s41586-023-06123-3))がなされました。まだ前臨床段階の研究ですが、この新薬はG12A/C/D/F/V/S、G13C/D、V14I、L19F、Q22K、D33E、Q61H、K117N、A146V/Tといった、実臨床で遭遇するほぼ全てのKRAS変異に対応可能であるとされています。

#ogp(https://www.nature.com/articles/s41586-023-06123-3)

KRASのGTPaseは活性状態(GTP結合)と不活性状態(GDP結合)を往復しています。この新開発の汎KRAS阻害剤は、KRASの不活性状態をターゲットとし、ヌクレオチド交換による再活性化を阻止します。これにより、変異型KRASを持つがん細胞の増殖が抑制されると期待されます。

#tweet(https://twitter.com/souyakuchan/status/1664061810461515776)

現在、特定の変異型であるKRAS G12Cを標的とする阻害剤が肺がん患者に対して臨床的な効果を示しています。しかしながら、この薬剤は反応性システイン残基を必要とし、非G12C変異体に対しては効果が発揮できません。今回の研究では、G12C選択的阻害剤から共有結合型の結合部分を取り除き、強力な非共有結合型の阻害剤を作成しました。これにより、G12C、G12D、G12V変異型KRASを発現する実験細胞株の増殖を阻止することに成功しました。この成果をさらに発展させることで、広範囲のKRAS変異に対して阻害効果を持つ新薬の開発が進んでいくことが期待されています。

この汎KRAS阻害剤が、肺がん、大腸がん、膵臓がんなどのKRAS駆動型がんの患者の治療に効果を示す可能性があるため、臨床試験の実施が強く求められています。

* ASCO2023ではKRASワクチンの研究も [#i9eec089]

さらに進歩した治療法として、KRASワクチンも注目を浴びています。AmPh-CpG-7909というワクチンは、膵癌や大腸癌の手術後に循環腫瘍DNA(ctDNA)で最小残存病変(MRD)を監視しつつ、T細胞をG12D/R変異ペプチドに免疫させて微小再発をT細胞が排除するというメカニズムを持っています。MRDマーカーの減少が79%に達するとの報告もあります。

https://meetings.asco.org/abstracts-presentations/220030

これらの新たな進展により、KRAS変異を持つがん患者の治療が一段と進化することが期待されます。今後の研究成果と臨床試験の結果に注目が集まります。

#tweet(https://twitter.com/pashtoonkasi/status/1664592255636701184)

#navi(日記/2023年)

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