レ点腫瘍学ノート

日記/2023年/6月4日/ASCO2023感想(Day2) の履歴ソース(No.1)

#author("2023-06-04T22:08:11+09:00;1970-01-01T18:00:00+09:00","default:tgoto","tgoto")
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昨日に続いて、TwitterのツイートからASCO2023の注目演題を集めてみます。昨日の記事はこちら。

#ogpi(https://oncologynote.jp/?315cda5287)

#contents

* KEYNOTE-671試験(肺癌術前) [#bccd724e]

非小細胞肺癌のII期、IIIA期、IIIB期を対象に、化学療法(CDDP+GEMまたはCDDP+PEM)にペムブロリズマブを追加したKEYNOTE-671試験が行われました。驚くべきことに、pCR(病理学的完全奏効)率は18.1%という結果が得られました。ちなみに、この試験の結果はASCO2023で発表された同時に、NEJM(New England Journal of Medicine)にも掲載されました。

#ogp(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2302983)

前日に行われた胃癌術後のATTRACTION-5試験とは対照的な結果ですね。他の周術期試験には、AEGEAN試験やCheckMate-816試験などがありますが、肺癌のKEYNOTE-671試験ではEFS(event-free survival)のカーブにかなり大きな差があるという印象的な結果が得られました。EFSのHRは0.58とのことです。

臨床試験の世界では、異なる試験のHRの数値を直接比較することはタブーですが、このポイントに関しては世界中のオンコロジストたちも気になっているようです。NEJMの中には興味深いコメントも書かれています。

#tweet(https://twitter.com/oncology_bg/status/1665114378964803586)

* PROSPECT試験(直腸癌術前) [#hfc4d770]

PROSPECT試験では、T2リンパ節陽性またはT3の直腸癌術前の治療において、FOLFOXが放射線併用療法(CRT)に対して非劣性であることを示す結果が得られました。ASCOのタイミングでNEJMにも掲載されました。この結果を見る限り、術前の治療にはFOLFOXが有望な選択肢のようです。

#ogp(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2303269)

* Short-HER試験(HER2乳癌) [#b1c98820]

HER2陽性乳癌の治療において、10年以上前のESMO2012で発表されたHERA試験により、1年間の投与と2年間の投与の間でDFSの中央値に有意差がないことが確認され、それ以来1年間の投与が一般的に採用されてきました。一方でShort-HER試験は9週間と1年間の投与を比較した試験で、この試験の結果を10年以上にわたって長期フォローアップし、今回ASCOで発表されました。

それによると、DFSは77% vs 78%、OS(全生存期間)は88% vs 89%と差はわずかな1%というものでした。リンパ節転移が4個以上ある場合やIII期の症例では1年間の投与群がわずかに有利な傾向が見られましたが、全体を大雑把に見てみれば1年間のトラスツズマブ投与が必ずしも9週間の投与に比べて大きく優位であるわけではないようです。なかなか興味深い結果ですね…。

#tweet(https://twitter.com/EnriqueSoto8/status/1665120469010333696)

* DUO-O試験(卵巣癌) [#q8d8534d]

DUO-O試験は、tBRCA遺伝子変異陰性の卵巣癌患者を対象とした3つの治療アームを比較した臨床試験です。オラパリブ+ベバシズマブの組み合わせは一定のコンセンサスが得られている治療法ですが、この試験ではそれにデュルバルマブを上乗せする価値があるかどうかを検証しました。

- アーム1:化学療法+ベバシズマブで導入し、その後ベバシズマブの維持療法
- アーム2:化学療法+ベバシズマブ+デュルバルマブで導入し、その後ベバシズマブとデュルバルマブの維持療法
- アーム3:化学療法+ベバシズマブ+デュルバルマブで導入し、その後ベバシズマブとデュルバルマブにオラパリブを追加した維持療法

結果は、アーム1とアーム3ではPFS(無増悪生存期間)にかなりの差が見られますが、試験デザインがやや微妙な点があります。

#tweet(https://twitter.com/MichalisLiontos/status/1665122890587553792)

この3つのアームの選択方法には、試験実施者の意図が含まれているようですが、アーム1とアーム3の差が生じているのはデュルバルマブの効果よりもオラパリブの効果の方が大きいように見えます。実際には、「化学療法+ベバシズマブ+デュルバルマブで導入し、その後ベバシズマブ+オラパリブで維持療法」というアームが存在しないため、デュルバルマブの有効性を評価することができないという微妙な点があります。意図的にその部分を隠したようにも勘ぐってしまえて、少々複雑ですね。

* KEYNOTE-826試験(子宮頸癌) [#fdec3f6e]

KEYNOTE-826試験は、転移再発子宮頸癌の一次治療として、CDDP+PTXまたはCBDCA+PTXにペムブロリズマブを追加することを検討した試験です。CPS(Combined Positive Score)が1%以上の患者群に焦点を当てると、12ヶ月生存率は63.2%から75.5%に向上し、24ヶ月生存率は39.4%から53.5%に向上しました。フォレストプロットを見ると特に若年層では有利な傾向がありそうな気がしなくもないですね。。。子宮頸癌では本邦でもセミプリマブが使えるようになりましたが、王者ペムブロリズマブはマーケットがあるところには間髪入れず隙間なく入ってきますね…。

#tweet(https://twitter.com/ShannonWestin/status/1665088788157063172)

* 治療のデエスカレーション(縮小) [#off8bd02]

臓器別のASCOの発表そのものではありませんが、興味深いツイートもあります。複合療法が当たり前になっていく中で、治療をどのようにデエスカレーションするかということも忘れてはいけないテーマのようです。例えば、胃癌でICIを追加する患者の選別方法、HR陽性乳癌で全例にCDK4/6阻害剤を併用する必要があるのか、フィットな膵癌患者に対してFOLFIRINOXやNALIRIFOXを全員に行うことが正しいのかなど、実臨床でも忘れてはならないテーマです。

#tweet(https://twitter.com/StephenVLiu/status/1664983347997601794)

#navi(日記/2023年)

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