レ点腫瘍学ノート

日記/2023年/6月5日/ASCO2023感想(Day3) の履歴差分(No.2)


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#author("2023-06-05T23:58:58+09:00;2023-06-05T23:15:55+09:00","default:tgoto","tgoto")
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昨日の記事はこちら。
適宜追記します。昨日の記事はこちら。

#ogp(https://oncologynote.jp/?1ea37cfee8)
#ogpi(https://oncologynote.jp/?1ea37cfee8)

# ADAURA試験(肺癌術後)
* ADAURA試験(肺癌術後) [#u61fed3e]

今年のASCO2023で最も注目を集めた演題かもしれませんね。今年のASCO2023では、さまざまな治療法の最新研究結果が発表され、特に注目を集めた演題がいくつかありましたが、その中でもADAURA試験の成果は特筆すべきものでした。ADAURA試験では、肺癌術後におけるDFS(無病生存期間)の改善が示され、2年生存率が44%から90%に向上しました。

しかし、EGFR-TKIによるDFSの延長は再発後のOS(全生存期間)には影響しないのではないかという議論がありました。EGFR-TKIはDFSは伸ばしても再発を遅らせているだけで結局OSには差が付かないのではないかという議論が常について回っていたのです。

https://togetter.com/li/1595005
#ogp(https://togetter.com/li/1595005)

今回発表されたOSの解析は、ついにその議論に決着を付けるかと思われるような、これまた圧倒的な成績を示すものでした。OSのHRは0.49で、5年生存率は88%にも達します。

https://twitter.com/OncBrothers/status/1665481204005494785
#tweet(https://twitter.com/OncBrothers/status/1665481204005494785)

ただ、そうは言ってもやはりOSでそこまで差が本当に付くのか、後治療も含めてみてみるとやはり気になるポイントは出てくるものです。この下記のツイートにぶら下がっているスレッドのディスカッションは非常に興味深い論点をついています。

https://twitter.com/oncology_bg/status/1665441005636657153
#tweet(https://twitter.com/oncology_bg/status/1665441005636657153))

このADAURAでクロスオーバーが認められないが故に再発後もオシメルチニブの投与を受けたのが23%に過ぎないってのは、ADAURAのOSを解釈する上で無視できない課題ポイントだと思うんですよね…。(ってかよく倫理委員会がOK出したなと思う)

ペムブロリズマブはKEYNOTEの024も189も407も048もペムブロなりニボルマブなり他の抗PD-L1なりクロスオーバーさせてもOSで圧勝しているので、ADAURAのクロスオーバー率の低さはもっと議論しなきゃな気がしてきます。

https://twitter.com/m0370/status/1665504617709584384
#tweet(https://twitter.com/m0370/status/1665504617709584384)

# DESTINY-PanTumor02試験 中間解析(臓器横断的HER2)
* DESTINY-PanTumor02試験 中間解析(臓器横断的HER2) [#wb310993]

また、他の研究でも興味深い結果が報告されました。例えば、DESTINY-PanTumor02試験では、HER2免疫染色陽性の多臓器癌に対する臓器横断的T-DXdの臨床試験が行われました。この試験でも良好な結果が得られ、DoR(応答持続期間)が11ヶ月となり、PFS(無増悪生存期間)の中央値が未達であることが報告されました。第一三共のADC技術の傑作であるT-DXdが乳癌や胃癌といった臓器の枠組みを超えて固形がん全般まで適応を拡大できるかという非常に重要な臨床試験。
また、他の研究でも興味深い結果が報告されました。例えば、DESTINY-PanTumor02試験では、HER2免疫染色陽性の多臓器癌に対する臓器横断的T-DXdの臨床試験が行われました。この試験でも良好な結果が得られ、DoR(応答持続期間)が11ヶ月となり、PFS(無増悪生存期間)の中央値が未達であることが報告されました。第一三共のADC技術の傑作であるT-DXdが乳癌や胃癌といった臓器の枠組みを超えて固形がん全般まで適応を拡大できるかという非常に重要な臨床試験ですね。

https://twitter.com/DrAngelaLamarca/status/1665720075611938817
#tweet(https://twitter.com/DrAngelaLamarca/status/1665720075611938817)

結果は、DoRで11ヶ月、PFS中央値未達などかなり良好な結果だったようです。まだ中間解析なので、今後の続報に期待です。

# NeoRAS探索的試験(大腸)
* NeoRAS探索的試験(大腸) [#udb09120]

SCRUM-Japan GOZILA試験からの興味深い結果。NeoRASというのは大腸癌の治療開始前に測定するRASで変異陽性だったが後方ラインのcfDNAでRAS野生型に転じた症例です。通常のRAS変異獲得は、RAS野生型大腸癌に対して抗EGFR抗体を継続しているうちに耐性を獲得してRASが変異に転じて抗EGFR抗体が無効になるというケースが一般的ですので、その逆をNeoRASと呼んでいるというわけです。

https://twitter.com/ArndtVogel/status/1665373202191712258
#tweet(https://twitter.com/ArndtVogel/status/1665373202191712258)

これまではNeoRASといっても結局その腫瘍塊の中のどこかにはRAS変異の腫瘍細胞が潜んでいるために抗EGFR抗体を投与してもすぐに抵抗性腫瘍細胞がセレクションされて無効化され、このため抗EGFR抗体の効果は乏しいというのが比較的一般的な考え方でした。しかし、今回の発表を見るとNeoRASでも一部の症例ではRAS変異サブクローンは排除されて抗EGFR抗体が有効化されるケースもあるということのようです。まあ、数は少なそうではありますが…。

もう少しこれの詳しいデータを教えてもらって、ああでもないこうでもないとディスカッションすると盛り上がりそうなテーマですね。Best of ASCO japanの演題に選ばれたりしたら面白いのですが。

# PROSPECT試験(直腸癌術前)
* PROSPECT試験(直腸癌術前) [#wde75c5c]

PROSPECT試験では、T2リンパ節陽性またはT3の直腸癌の術前治療において、FOLFOXが放射線併用療法(CRT)に対して非劣性であることを示す結果が得られました。ASCOのタイミングでNEJMにも掲載されました。この結果を見る限り、術前の治療にはFOLFOXが有望な選択肢のようです。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2303269

どちらかというと治療をもっと多剤併用・マルチモダリティにする方向へ治療が進化してきたのがこの10年なので、ここでCRTに対して化学療法が遜色ない結果を示したというのはそれなりに一石を投じる結果のように思えます。だからこそNEJMに掲載されたんでしょうけれど。

直腸癌は非常に複雑化している上に、放射線治療は薬物療法に比べて施設間格差が大きい(設備的な点で均てん化がされにくいとも言える)ので、このPROSPECT試験の結果だけを重く評価しすぎるのも考えものです。直腸癌は国内と海外でけっこう標準治療そのものが異なるので(たとえば側方リンパ節郭清)、海外の臨床試験結果を国内に外挿するには内科外科および放射線治療科でよく相談して、施設内のコンセンサスを再確認しておく必要がありそうです。

https://twitter.com/RenoHemonc/status/1665417380061929472
#tweet(https://twitter.com/RenoHemonc/status/1665417380061929472)

# DESTINY-CRC02試験(HER2大腸癌)
* DESTINY-CRC02試験(HER2大腸癌) [#c9d55ed3]

大腸癌におけるT-DXdの至適用量模索試験。肺癌のDESTINY-Lung02と同じように、5.4mg/kgと6.4mg/kgを比較する無作為化第2相試験です。5.4mg/kgというのは現在の乳癌で承認されている用量、6.4mg/kgというのは現在の胃癌で承認されている用量ですが、この2つの用量での毒性(特に消化器毒性)はかなり差がある印象です。今回のDESTINY-CRC02を見てもPFSには差が無くORRはむしろ5.4mg/kgのほうが良さそうで、症例数は少ないものの、5.4mg/kgのほうが現実的な治療に見えてきます。

https://twitter.com/ArndtVogel/status/1665350466316783616
#tweet(https://twitter.com/ArndtVogel/status/1665350466316783616)

# MORPHEUS試験(肝細胞癌)
* MORPHEUS試験(肝細胞癌) [#j46703f3]

肺癌では第1相・第2相で素晴らしい成績を見せたのに第3相のSKYSCRAPER-1試験でずっこけて以来すっかり姿を見なくなっていた新規免疫チェックポイント阻害剤チラゴルマブ(抗TIGIT抗体)が、以外にも肝細胞癌で復活です。既存の標準治療であるアテゾリズマブ+ベバシズマブに、さらにチラゴルマブを上乗せするという試験です。
肺癌では第1相・第2相で素晴らしい成績を見せたのに第3相のSKYSCRAPER-1試験でずっこけて以来すっかり姿を見なくなっていた新規免疫チェックポイント阻害剤チラゴルマブ(抗TIGIT抗体)が、意外にも肝細胞癌で復活です。既存の標準治療であるアテゾリズマブ+ベバシズマブに、さらにチラゴルマブを上乗せするという試験です。

https://twitter.com/ArndtVogel/status/1665507867263221761
#tweet(https://twitter.com/ArndtVogel/status/1665507867263221761)

HCCでアテゾベバを対照群にしてPFS HR 0.42ってすごくない?令和になっても15年前のSHARP試験のソラフェニブに勝てない治療が少ない中で、ソラフェニブをフルボッコにしたアテゾベバを楽々とフルボッコにしている。

しかし免疫療法の「約束の地」の非小細胞肺癌で勝てずに免疫療法「不毛の地」だった肝細胞癌で勝つって不思議な挙動だ。今後、IMbrave152/SKYSCRAPER-14試験などに繋がってゆく期待を持たせる試験のようです。

# INDIGO試験(グリオーマ)
* INDIGO試験(グリオーマ) [#a9dcdc52]

https://twitter.com/NEJM/status/1665328797736919042
#tweet(https://twitter.com/NEJM/status/1665328797736919042)

IDH1/IDH2変異の低悪性度神経膠腫(グリオーマ)に対する経口IDH1/IDH2阻害剤ボラシデニブのINDIGO試験です。PFSの中央値が11ヶ月→27.7ヶ月でHR 0.39とかなりの好成績です。IDH1/IDH2はグリオーマだけでなく胆道癌などでも見られますので、今後他癌腫への適応拡大にも期待が広がりますね。NEJMにも同時掲載です。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2304194

#navi(日記/2023年)

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