レ点腫瘍学ノート

日記/2023年/6月6日/ASCO2023感想(Day4) の履歴の現在との差分(No.1)


#author("2023-06-07T00:03:43+09:00;1970-01-01T18:00:00+09:00","default:tgoto","tgoto")
#author("2023-06-07T00:24:11+09:00;2023-06-06T20:03:43+09:00","default:tgoto","tgoto")
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いよいよASCOも終盤ですね。前日の記事はこちらです。

#ogpi(https://oncologynote.jp/?9e979ea105)

#ref(https://oncologynote.jp/img/4ea97cbdf3.jpg,nolink)

#contents

* SONIA試験(乳癌) [#w1175c64]

#tweet(https://twitter.com/PTarantinoMD/status/1665762361179766790)

猫も杓子ものCDK4/6i無双に一石投じるSONIA試験です。NSAI+パルボシクリブ→フルベストラント vs. フルベルトラント→NSAI+パルボというように投与順序を逆にしただけでの2次治療までのPFS、OS、QOL指標を比較していますが、それぞれに差はなく、NSAI+パルボシクリブを先行するほうがgr3以上のAEは4割増え20万ドルのコスト増という結果です。

この発表から最初に導き出されるのは、NSAI+パルボシクリブよりもフルベストラントなどの単剤を先行するほうが毒性の面でも費用対効果の面でも優れているであろうという点でしょう。一方で、気になる点がいくつかあるのも確かです。

たとえば、この試験は海外で行われたものですが本邦では米国などで既に使えるようになっているリボシクリブやアルペリシブの選択肢がありません。フルベストラントはありますがエラセストラントもありません。特に上記の2治療が療法とも不応になった後の選択肢はやや心許なく、海外に比べると早期にパクリタキセルやエリブリンなどの化学療法へ移行を余儀なくされることも予想されます。となると、この結果が日本に直ちに外挿できるかどうかは不明です。

本当はホルモン感受性乳癌も画一的治療ではなく(oncotypeDXみたいなリスクの数値化するアッセイで)もう少し再発予測に応じた治療を最適化しなきゃならない時期にきてるんじゃないかと思います。再発リスクが低い患者には、より軽度の治療を検討することが可能であり、逆に再発リスクが高い患者には、より強力な治療を選択することができます。これにより、過剰治療を回避しながら、より効果的な治療を提供することが期待されます。個々の患者の再発予測に応じた最適な治療を行うことで、治療効果の最大化や副作用の最小化が可能になると考えられています。

* TALAPRO-2試験(前立腺癌) [#le827882]

#tweet(https://twitter.com/neerajaiims/status/1665364920911683585)

転移性去勢抵抗性前立腺癌に対するエンザルタミドに最強PARP阻害剤タラゾパリブを上乗せしたという大規模比較試験です。PARP阻害剤でありながらBRCAなどのHRR関連遺伝子で層別化せず前立腺癌全体を対象にしているという野心的な試験設計。HRR関連遺伝子変異の有無での層別化もされています。
転移性去勢抵抗性前立腺癌に対するエンザルタミドに最強PARP阻害剤タラゾパリブを上乗せしたという大規模比較試験が行われました。この試験では、PARP阻害剤であるタラゾパリブがBRCAなどのHRR関連遺伝子で層別化せず、前立腺癌全体を対象にしているという野心的な試験設計がなされています。さらに、HRR関連遺伝子変異の有無による層別化も行われています。

今回の結果は最終解析ではないのでまだcensoredが多く、今後の長期フォロー解析の結果発表がまだ楽しみではありますが、現時点ではrPFS HR 0.45、OS HR 0.69とかなりの好成績。censoredを追跡してゆくことでさらにこの差が開く可能性も十分あります。
現時点ではまだ最終解析ではないため、censoredデータが多く残っており、今後の長期フォロー解析の結果発表が待たれますが、現時点ではrPFS HR 0.45、OS HR 0.69というかなり優れた成績が報告されています。さらなる追跡調査によって、この差がより広がる可能性も考えられます。

#tweet(https://twitter.com/Dr_RaviMadan/status/1665450654788210691)

なおこのTALAPRO-2試験のタラゾパリブのPFS HR 0.45とBRCAアームにおけるOS HR 0.20の数値を、別のPARP阻害剤であるオラパリブのPROpel試験とニラパリブのMAGNITUDE試験と比較した上記のツイートを見てみても、タラゾパリブの性能の高さが際立っています。
なお、このTALAPRO-2試験のタラゾパリブのPFS HR 0.45とBRCAアームにおけるOS HR 0.20の数値を、別のPARP阻害剤であるオラパリブのPROpel試験とニラパリブのMAGNITUDE試験と比較した結果もあります。上記のツイートからもわかるように、タラゾパリブの性能の高さが際立っています。

この試験はLANCETに同時掲載となっています。
この試験結果は、『The Lancet』に同時掲載されました。

#ogp(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(23)01055-3/fulltext)
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(23)01055-3/fulltext

# UCBG-UNIRAD #546(乳癌)
* UCBG-UNIRAD #546(乳癌) [#k40c083d]

#tweet(https://twitter.com/dr_yakupergun/status/1666059790835933186)

じなん先生に教えてもらったポスター発表ですが、非常に興味深い結果です。ホルモン感受性乳癌の内分泌療法でホルモン剤の服用をどの時間帯に行うかを比較したランダム化試験です。この着眼点自体が 非常に珍しく、斬新。内服時間は朝、昼、夜の3群に分けており、無再発期間(DFS)および転移出現抑制期間(MFS)を検討しています。 いずれの解析においても、夜に内服をした群で予防が良好で、内分泌療法は夜に服用を進めるのが良いという結果を導き出しています。
じなん先生に教えてもらったポスター発表ですが、非常に興味深い結果が発表されました。この試験は、ホルモン感受性乳癌の内分泌療法において、ホルモン剤の服用をどの時間帯に行うかを比較するランダム化試験です。この試験の着眼点は非常に珍しく、斬新です。服用時間を朝、昼、夜の3群に分け、無再発期間(DFS)および転移出現抑制期間(MFS)を検討しました。解析の結果、夜に内服をした群では予防効果が良好であり、内分泌療法の服用を夜にすることが有益であるという結論が示唆されました。この服薬時間によって効果が変わるというのは、素晴らしい着眼点の研究ですね…。

# CONTACT-03試験(腎癌)
* CONTACT-03試験(腎癌) [#n5d9d768]

#tweet(https://twitter.com/urotoday/status/1665825957280620545)

腎細胞癌の後方治療におけるアテゾリズマブ+カボザンチニブのカボザンチニブ単剤に比較しての優越性を見ようとした試験ですが、 本試験の注目点は単純にアテゾリズマブの有用性を見るというのではなく、 免疫チェックポイント阻害剤のリチャレンジの有用性があるかどうかを検証しようとした点です。
この試験は、腎細胞癌の後方治療において、アテゾリズマブ+カボザンチニブの併用療法がカボザンチニブ単剤と比較してどれだけ優れているかを検証するために行われました。ただし、本試験の注目点は単純にアテゾリズマブの有用性を確認するだけではなく、免疫チェックポイント阻害剤のリチャレンジの有用性を調べるという点にありました。

適格基準に、術後療法・一次治療・二次治療のいずれかのラインにおいて免疫チェックポイント阻害剤を使用しているという条件が入っています。つまりこの試験に参加している患者はみな免疫チェックポイント阻害剤の既治療例と言うことになります。術後療法で使用するのは転移再発後の一次治療・二次治療で使用するのとはわけが違いますから、ここもちゃんと層別化して解析されています。
参加条件には、術後療法、一次治療、二次治療のいずれかのラインで免疫チェックポイント阻害剤を使用しているという条件があります。つまり、この試験に参加している患者はすべて、免疫チェックポイント阻害剤の治療経験があるということです。術後療法で使用するのと転移再発後の一次治療や二次治療で使用するのでは状況が異なるため、それぞれのグループに分けて解析が行われています。

結果は主要評価項目のPFSでは10.8→10.6ヶ月でHR 1.03、OSではカボザンチニブ単剤が中央値未達ですがアテゾリズマブ併用群で25.7ヶ月で0.94(p=0.690)で生存曲線はほぼぴったり重なっており、ネガティブ試験です。どうやら免疫チェックポイント阻害剤の前治療歴がある場合は、そのリチャレンジにはほとんど有効性は認められないようです。
結果として、主要評価項目であるPFSでは、カボザンチニブ単剤群とアテゾリズマブ併用群での差はほとんど見られず、OSにおいても生存曲線がほぼ重なっていることから、免疫チェックポイント阻害剤のリチャレンジにはほとんど有効性が見られないというネガティブな結果となりました。

腎癌での臨床試験ではありますが、免疫チェックポイント阻害剤での効果が比較的期待しやすい腫瘍でこれなのですから、他の臓器でも免疫チェックポイント阻害剤のリチャレンジを進める根拠は無さそうですね。
この試験は腎癌に関するものですが、免疫チェックポイント阻害剤の効果が比較的期待できる腫瘍であるにもかかわらず、リチャレンジの有用性については根拠が見つかりませんでした。したがって、他の臓器でも免疫チェックポイント阻害剤のリチャレンジを推奨する根拠はないと考えられます。

なおこの試験も上述のTARAPRO-2試験と同様にLANCETに同時掲載となっています。
この試験も前述のTALAPRO-2試験と同様に『The Lancet』に同時掲載されています。

#ogp(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(23)00922-4/fulltext)
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(23)00922-4/fulltext

# JCOG1017試験(乳癌)
* JCOG1017試験(乳癌) [#w9cbc989]

#tweet(https://twitter.com/shimoi_oncology/status/1665759013705744396)

de novo stage4乳癌、つまり初期診断時ですでに転移が生じている乳癌でも原発巣切除をする意義があるかどうかという臨床試験。大腸癌や乳癌では定期的に話題に上るテーマではあり、乳癌でも過去にTata試験やECOG2108試験などが実施されています。最近はどの癌腫でも原発切除をしても予後は改善しないという傾向が強いようですが、JCOGで本邦の乳癌患者に対しても前向き検証的に試験が行われました。
この試験は、de novo stage4乳癌(初期診断時に既に転移がある乳癌)において、原発巣切除の意義を検証する臨床試験です。大腸癌や乳癌においては、このテーマが定期的に取り上げられており、過去にはTata試験やECOG2108試験などが行われてきました。最近では、どの癌でも原発切除をしても予後は改善しないという傾向が強まっていますが、JCOGでは本邦の乳癌患者に対しても積極的に試験が行われました。

本試験は初期治療として全身化学療法を先行してから、無増悪で推移した症例を対象に割り当てを行っています。5年生存率では手術介入群が62.5%に対して非手術群が55.4%、HRは0.84ですが信頼区間が0.70-1.10と1をまたいでいます。OS中央値で見ても68.7ヶ月→74.9ヶ月と伸びてはいるものの、有意な結果ではないとの結論のようです。統計学的有意とは言えませんが、この差は悪くない気はしますね。
この試験では、まず全身化学療法が先行し、無増悪で推移した症例を対象に手術介入の割り当てが行われました。5年生存率では手術介入群が62.5%、非手術群が55.4%であり、HRは0.84ですが、信頼区間は0.70から1.10と1をまたいでいます。また、OSの中央値においても手術介入群は68.7ヶ月から74.9ヶ月に延びていますが、有意な結果ではないとの結論が出ています。統計学的に有意とは言えないものの、この差は悪くないと感じられるでしょう。

#ogp(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/news/202306/579950.html)

大腸癌のJCOG1007試験の時にも同じ話が出たと思いますが、この試験では手術介入をしても有意な差が無かったので手術介入に意味は無いという結論につなげるのではなく、手術をしてもしなくても予後に大きな差は無いので個々の患者の状況や価値観や症状に応じて、手術をするもしないも臨機応変に判断してよいと考える方が現場は動きやすく、本来の臨床家のあるべき姿のように思えます。
大腸癌のJCOG1007試験の時にも同じ話が出たと思いますが、この試験では手術介入をしても有意な差が無かったので手術介入に意味は無いという結論につなげるのではなく、手術をしてもしなくても予後に大きな差は無いので個々の患者の状況や価値観や症状に応じて、手術をするもしないも臨機応変に判断してよいと考える方が現場は動きやすいでしょう。これこそ本来の臨床家のあるべき姿のように思えます。

# TROPiCS-02試験(乳癌)
* TROPiCS-02試験(乳癌) [#bb60b685]

#tweet(https://twitter.com/PTarantinoMD/status/1665776038767411201)

この結果はもう既によく知られているような気がしなくもありませんが、サシツズマブ・ゴビテカンのOS解析結果はHR 0.79で有意にOS改善という結果でした。

# X-7/7試験(乳癌)
* X-7/7試験(乳癌) [#bb827242]

#tweet(https://twitter.com/JAMouabbi/status/1665796560825851905)

乳癌のカペシタビンを、1250mg/m2×2回で14日服用・7日休薬とするか、1500mg×2回で7日服用7日休薬とするかという臨床試験です。服用日数も減り、1日あたりの容量も体表面積によって変わるものの減少する傾向ですから、RDIは半分近くまで低下してしまいますが、PFSは以外にも落ちずHRはちょうど1.00とのこと。
この試験は乳癌の治療においてカペシタビンの服用方法に関する臨床試験です。カペシタビンの投与方法を1250mg/m2×2回で14日服用・7日休薬とする群と、1500mg×2回で7日服用・7日休薬とする群を比較しました。服用日数が減少し、1日あたりの容量も体表面積によって変わるため、RDI(推奨投与量)は半分近くまで低下しますが、意外にもPFSはほとんど変わらず、HRは1.00と報告されました。

昔の胃癌((https://link.springer.com/article/10.1007/s10147-017-1157-3))や膵癌((https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28251282/))でS-1で確実投与が通常投与法に比べて予後を悪化させたということがあったはずなので、今回も類似の結果を想像してしまいましたが、今のところはそこまでひどいことにはなっていないようです。ただ、この試験1本だけでカペシタビンの飲み方が大きく変わるところまでは行かないでしょうね。再現待ちでしょうか。
過去には胃癌や膵癌においてS-1の確実投与が通常投与法に比べて予後を悪化させる結果が報告されたことがありますが、今回の試験ではまだそのような深刻な結果は出ていないようです。ただし、この試験結果1つだけでカペシタビンの服用方法が大幅に変更されることはないでしょう。今後の再現性の確認が待たれるところです。

# D-TORCH試験(支持療法)
* D-TORCH試験(支持療法) [#n7c82a47]

#tweet(https://twitter.com/dr_yakupergun/status/1665801614500962304)

カペシタビンを 使う上で困った副作用の1つは手足の皮膚障害です。これに対してジクロフェナクの塗り薬を使用することで皮膚障害を大きく低減できると言う発表がありました。手足症候群のGr2以上が15.0→3.8%で約4分の1とびっくりするほどの差で、これが本当だとすれば画期的。
カペシタビン治療における副作用として厄介なものの一つに、手足の皮膚障害があります。それは痛みや不快感を伴い、日常生活や治療継続に影響を及ぼすことがある重要な問題です。それに対する解決策として、最近行われたD-TORCH試験では、ジクロフェナクの塗り薬が皮膚障害の大幅な軽減に寄与することが示されました。具体的には、手足症候群のGr2以上の副作用が15.0%から3.8%へと減少しました。これは約4分の1の差で、まさに驚くべき結果です。

なんとなく消化管での粘膜障害で潰瘍できたりするイメージから、カペシタビンで皮膚がめくれて皮下組織が見えて滲出液が出たりする病態にジクロフェナクを塗るなんてむしろ逆効果じゃないのかと、なんとなく直感に反するようにも見えるので、なおさら不思議な気がしますね。

もしジクロフェナクの塗り薬がカペシタビン治療における手足の皮膚障害を予防することが確認されれば、これは治療の質を大きく向上させる可能性を秘めていると言えます。

#navi(日記/2023年)

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