レ点腫瘍学ノート

日記/2024年/4月12日/標準治療前からのMSI検査・MMR検査 の履歴の現在との差分(No.2)


#author("2024-04-13T03:21:15+09:00;2024-04-12T22:38:55+09:00","default:tgoto","tgoto")
&tag(腫瘍内科,がんゲノム);
#author("2024-05-01T21:01:49+09:00;2024-04-12T22:38:55+09:00","default:tgoto","tgoto")
&tag(腫瘍内科,がんゲノム,検査);

昨日じなん先生と話していたMSI検査を切除不能一次治療の開始前から実施してよいかという件についていろいろ調べていたところ、どうやら令和3年8月25日付の通達によって標準治療終了見込みと言う縛りが外れているようだと言う文章を見つけた。完全に見落としていた。

#contents

* 変遷 [#yd7d8111]

これについては一見するとわかりにくい変遷があるので、保険承認範囲の変化をずっと厚労省の公式通知を追って確認してみた。

** 2020年4月診療報酬改定以前 [#zf1182b7]

まず令和2年(2020年)4月の診療報酬改定までは、D004-2悪性腫瘍組織検査「1」チとして以下の項目に2100点が付けられていた。

> 家族性非ポリポージス大腸癌又は局所進行若しくは転移が認められた標準的な治療が困難な固形 癌におけるマイクロサテライト不安定検査

** 2020年4月診療報酬改定(ペムブロリズマブコンパニオン検査とリンチ症候群診断補助の検査の分離) [#l189e60e]

これに対して令和2年(2020年)診療報酬改定((https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000604939.pdf))でD004-2悪性腫瘍組織検査の「1」イ(1)および(2)が設定されて点数が区別されるようになっている。すなわち、リンチ症候群の診断の補助を目的とする場合ではないMSI検査は2100点から2500点に増点となった。

> ''D004-2悪性腫瘍組織検査の「1」 イ(1)'' 2500点
- エ 局所進行又は転移が認められた標準的な治療が困難な固形癌におけるマイクロサテライト不安定検査

> ''D004-2悪性腫瘍組織検査の「1」イ(2)'' 2100点
- カ 大腸がんにおけるEGFR遺伝子検査、K-ras遺伝子検査、マイクロサテライ不安定性検査(リンチ症候群の診断の補助を目的とする場合に限る。)

なお、この2種類はペムブロリズマブのコンパニオン検査とリンチ症候群診断補助の検査でそれぞれを1回ずつ実施できる(ただし多くの場合は症状詳記が必要になる)。

** 2020年11月(切除可能大腸癌などへの範囲の拡大) [#o4411245]

そして、2020年秋からは切除可能大腸癌にもMSI検査が実施可能になるという画期的な変更がなされた。2020年11月30日付の保医発1130第5号((https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tokaihokuriku/iryo_hoken/santei/000167874.pdf))「検査料の点数の取扱いについて」では以下のような記載がある。

> 別添1第2章第3部第1節第1款D004-2(1)中「リンチ症候群の診断の補助を目的とする場合又は局所進行若しくは転移が認められた標準的な治療が困難な固形癌の抗悪性腫瘍剤による治療法の選択を目的とする場合」を「リンチ症候群の診断の補助を目的とする場合又は局所進行若しくは転移が認められた標準的な治療が困難な固形癌若しくは手術後の大腸癌の抗悪性腫瘍剤による治療法の選択を目的とする場合」に改める。

この時点で大腸癌では一次治療開始前や切除可能であってもMSI検査が実施可能となり、現在ではstageIIやIIIの大腸癌でもほとんどの場合で、MSI検査が実施されている。すなわち、令和2年11月30日付の通達時点でのMRI検査の保険適用は以下の3つである。

>
- リンチ症候群の診断の補助を目的とする場合
- 局所進行若しくは転移が認められた標準的な治療が困難な固形癌
- 手術後の大腸癌の抗悪性腫瘍剤による治療法の選択を目的とする場合

しかし、胃癌でも一次治療前からの検査を行うことの意義が言われるようになり、いったいどの臓器でどの段階からのMSI検査を行って良いのかが臨床の場でも混沌として施設によってもかなり運用に差があるように思われる。

** 2021年8月(標準治療終了見込みの縛りの削除) [#cb0ab636]

その中で、保険適用の文面を注意深く見ていると、令和3年8月25日保医発0825第1号((https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/000199093.pdf))ではD004−2悪性腫瘍組織検査(2)から「''局所進行又は転移が認められた標準的な治療が困難な''固形癌''又は手術後の大腸癌''におけるマイクロサテライト不安定性検査」の太字部分の縛りが削除されている。つまり保険適用は以下の2つになっている。

>
- リンチ症候群の診断の補助を目的とする場合
- 固形癌におけるマイクロサテライト不安定性検査
- 固形癌の抗悪性腫瘍剤による治療法の選択を目的とする場合(=ペムブロリズマブのコンパニオン検査)

確かにD004-2悪性腫瘍組織検査の(2)エの''令和4年診療報酬点数表((https://shirobon.net/medicalfee/latest/ika/r04_ika/r04i_ch2/r04i2_pa3/r04i23_sec1/r04i231_sub1/r04i2311_cls1/r04i23111_D004_2.html))''と''令和2年診療報酬点数表((https://shirobon.net/medicalfee/latest/ika/r02_ika/r02i_ch2/r02i2_pa3/r02i23_sec1/r02i231_sub1/r02i2311_cls1/r02i23111_D004_2.html))''を比べてみると、表記が下記のように変わっている。
#ref(https://oncologynote.jp/img/84f19648fa_a.png,nolink)

確かにD004-2悪性腫瘍組織検査の(2)エの''令和2年診療報酬点数表((https://shirobon.net/medicalfee/latest/ika/r02_ika/r02i_ch2/r02i2_pa3/r02i23_sec1/r02i231_sub1/r02i2311_cls1/r02i23111_D004_2.html))''と''令和4年診療報酬点数表((https://shirobon.net/medicalfee/latest/ika/r04_ika/r04i_ch2/r04i2_pa3/r04i23_sec1/r04i231_sub1/r04i2311_cls1/r04i23111_D004_2.html))''を比べてみると、表記が下記のように変わっている。

> ''令和2年診療報酬点数表''
- 局所進行又は転移が認められた標準的な治療が困難な固形癌におけるマイクロサテライト不安定性検査

> ''令和4年診療報酬点数表''
- 固形癌におけるマイクロサテライト不安定性検査

やはり令和3年8月25日保医発0825第1号の時点で、MSI検査は標準治療終了見込みの縛りが大腸癌だけでなく全臓器で完全に解除されているというのは間違いなさそうだ。よくよく探してみると、毎週のようにチェックしているGemMedのサイトでもしっかりと標準治療終了見込みの縛りが解除されたことが取り上げられている。気づいていなかった。

#ogp(https://gemmed.ghc-j.com/?p=42825)

** 2022年9月(MMR検査の適応拡大) [#o33e6487]

令和4年9月30日保医発0930第9号「検査料の点数の取扱いについて」((https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/000255470.pdf))でさらにMSI検査だけでなくMMR検査(N005-3(2)ミスマッチ修復タンパク免疫染色(免疫抗体法)病理組織標本作製)がペムブロリズマブのコンパニオン検査として実施できる旨の項目が新設される。検査の適応は以下の3つである。

>
- 抗PD-1抗体抗悪性腫瘍剤の固形癌患者への適応を判定するための補助に用いる場合
- 大腸癌におけるリンチ症候群の診断の補助に用いる場合
- 大腸癌における抗悪性腫瘍剤による治療法の選択の補助に用いる場合

ここでも''局所進行又は転移が認められた標準的な治療が困難な固形癌''の縛りの記載はなく、単に''固形癌''とだけ書かれている。また、一旦MMR検査を実施したのちに、後日ペムブロリズマブのコンパニオン検査として再度MMR検査を行うことも認められているようである。ただし、MMR検査とMSI検査を両方とも行った場合は「主たるもののみ算定する」となっているので片方しか算定できない。保険点数は2700点((https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000989563.pdf))。

上記で3行にわたって記載されているもののうち3つめは、大腸癌においてはMMR検査が抗PD-1抗体だけでなく抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)の適応判定にも使われるので別途記載されているものと思われる。

なお、このMMR検査(免疫組織化学染色法(IHC法)によりがん組織中のミスマッチ修復に関与するタンパク、MLH1、PMS2、MSH2、MSH6の発現状況を調べる体外診断用医薬品4品目)について、2021年の年末にロシュが製造販売承認を取得していた((https://www.roche-diagnostics.jp/media/releases/2021-12-20))が、その際のプレスリリースでは「''がん化学療法後に増悪した''進行・再発のマイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(''標準的な治療が困難な場合に限る'')」という縛りが丁寧に描かれているので、まぎらわしい。検査試薬(ベンタナOptiview MSH6(SP93)など)の添付文書((https://www.info.pmda.go.jp/tgo/pack/30300EZX00103000_A_01_05/))を見てみるとこの縛りは記載されておらず「ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)の固形癌患者への適応を判定するための補助」としか書かれていない。臨床的意義の欄に「標準的な薬物療法を実施中、または標準的な治療が困難な固形がん患者に対して、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を強く推奨する」とは記載してあるものの、添付文書のうち「臨床的意義」の欄は保険診療情報の用法用量を縛るものではないというのが通説なので、やはりここでも標準治療前からの使用を不可とする記載は見つけられない。

MSI検査とMMR検査はかなりの症例で陽性・陰性が一致するが、そこには微妙な不一致が生じやすいケースもあるために米国病理学会のICI適応判断のためのMMR・MSI検査に関するガイドラインを2022年年始に作成してJCOに掲載している((https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.22.02462))。消化管はMSI・MMR検査はどちらでもほぼ同等だが子宮体癌はMSI検査ではなくMMR免疫染色が推奨される。NGSベースMSIはPCRベースMSIを代替置換しうる。TMBはMSI・MMRの代用にはならない。

#ogp(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36603179/)

* まとめ [#j6d7177c]

これによってMSI検査およびMMR検査は現在はかなり縛りが取れている。上記のものをまとめると、現在は下記のようになる。
これによってMSI検査およびMMR検査は現在はかなり縛りが取れている。上記のものをまとめると、2024年4月現在は下記のようになる。

>
- ペムブロリズマブのコンパニオン検査としては、MSI検査とMMR検査のいずれも標準治療終了見込みかどうかは不問であり、治療ラインや臓器の縛りなく全ての固形癌で実施が可能である。
- リンチ症候群の診断補助を目的として1回、固形癌の抗悪性腫瘍剤による治療法選択を目的として1回、合計2回実施することができる。同じ目的でMSI検査とMMR検査を両方行ったときは片方しか算定できない。
- MSI法では前者は2100点、後者は2500点で保険点数が異なる。MMR検査はいずれの目的で実施しても2700点。
- ''ペムブロリズマブのコンパニオン検査として使う場合''
-- MSI検査とMMR検査のいずれも臓器を限定する記載はなく、標準治療終了見込みかどうかも削除されて不問となっており、治療ラインや臓器の縛りなく全ての固形癌で実施が可能である。
- ''リンチ症候群の診断補助として使う場合''
-- MSI検査では臓器や治療ラインの縛りを課す記載はない。
-- MMR検査では大腸癌に限定される。
- ''検査回数''
-- リンチ症候群の診断補助を目的として1回、固形癌の抗悪性腫瘍剤による治療法選択を目的として1回、つまりそれぞれの目的に対して各1回で合計2回実施することができる。
-- 同じ目的の中でMSI検査とMMR検査を両方行ったときは片方しか算定できない。
- ''保険点数''
-- MSI法ではリンチ症候群の診断補助の目的として使用する場合は2100点、ペムブロリズマブのコンパニオン検査の目的で使用する場合は2500点で保険点数が異なる。
-- MMR検査はいずれの目的で実施しても2700点。
- MSI検査とMMR検査は概ね互換性があるが、子宮体癌ではMSI検査よりMMR検査が推奨されるなど、一部の臓器ではその使い分けが必要になる。

#ogpi(https://oncologynote.jp/?10bc5ec0c8)

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