レ点腫瘍学ノート

書籍/Her-2 画期的乳がん治療薬ハーセプチンが誕生するまで の履歴差分(No.3)


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<div class="ogp-title amp">Her-2 画期的乳がん治療薬ハーセプチンが誕生するまで</div>
<div class="ogp-description amp">ロバートバゼル、中村清吾、篠原出版新社、2009年7月</div>
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**登場後20年経っても存在感が色褪せないハーセプチン
**登場後20年経っても存在感が色褪せないハーセプチン [#e8d6c2c4]

がん薬物療法の現場で何十種類もの分子標的治療薬が駆使される2018年になっても、この薬は20年も前に登場したとは思えない輝きを放っている。

21世紀のがん治療薬開発の方向性に多大な影響を与えたハーセプチン(トラスツズマブ)は、今では世界中で使用される「あって当たり前の必須薬」の一つであるが、あまりにも「あって当たり前」であるがゆえにハーセプチンが登場するまでの苦難の道のりが意識されることが少ない。若手の医師・看護師・薬剤師のみならず、もはや中堅世代でもハーセプチン登場以前のがん診療の光景を知らない人が増えているのではないだろうか。

**ハーセプチン実用化までの苦難の道のり
**ハーセプチン実用化までの苦難の道のり [#j87c3f27]

ハーセプチンが実用化されるまでの過程には、数え切れないほどの腫瘍生物学者や腫瘍内科医の努力、巨大製薬企業とバイオベンチャーの駆け引き、市民団体の後押し、そして患者や家族の願いがあった。

この本では、HER2が発見され、ハーセプチンが創薬され、臨床試験が計画されてその成功が1998年5月18日にロサンゼルスの米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表されるまでの道のりを記している。その道のりは決して平坦なものではなく、HER2発見の立役者との幸運な出会いや開発プロジェクトが会社の経営問題に翻弄されたときに手を差し伸べてくれた支援者の存在など、たくさんの偶然のボタンがたった一つでもかけ違っていればこの画期的な新薬が生まれなかったかもしれない。

小さな偶然がいくつも重なってようやくハーセプチンの開発が成功に至った過程を見てゆくと、臨床の場で当たり前のようにハーセプチンを使用していることは現代の奇跡のようにも思える。

**ハーセプチンとともにがんと闘った多くの女性達
**ハーセプチンとともにがんと闘った多くの女性達 [#nbe0772b]

本書には乳がんを患った女性患者が何人も出てくる。従来の治療がほとんど効かず有望な新薬の登場を待ち望みながら亡くなっていった女性、小さい子を抱えてまだ死ぬわけには行かないと藁にもすがる思いでハーセプチンの臨床試験に参加するためにはるばるやってきた女性、治療室で毎週一緒に点滴を受けてきた戦友を乳がんで失った女性。

画期的な新薬開発の最前線でも、そこにいた1人1人の乳がん患者は我々が普段病棟や外来で接している乳がん患者たちと何も変わらない生きた女性だったことがわかる。

もちろんハーセプチンは乳がんにまつわる全ての問題を一挙に解決してくれる魔法の薬ではない。画期的な乳がん治療薬が誕生してからも(今まさにがん臨床に関わっている我々が知っているとおり)乳がん治療に関する探求は終わることなく続いている。

ハーセプチンの開発が大成功に終わった後に、その代表的な臨床試験である648試験に参加した乳がん患者カシー・クルックスが述べた言葉が印象深い。「私はこの薬に出会えて非常に幸運でした。しかし、ハーセプチンに究極の乳がん治療薬として希望を託す女性が増えることにも、懸念を抱いています。人々は、この薬を受けるための条件を満たす割合(乳がんのうちでHER2陽性の割合)の低さを理解していません。それに、薬を投与されても効果が出るのは一部のケースに過ぎないことも。」

画期的な治療薬が誕生してもなお、乳がん治療はまだまだ発展途上で、私たちが日頃から目にしているがん治療の現場はその歴史の流れの中のワンポイントなのだということを感じる。

**これからも乳癌とたたかう人とともにあるハーセプチン 
**これからも乳癌とたたかう人とともにあるハーセプチン [#o2062ebd]

乳がんは今や本邦の女性のがん罹患者数第1位であり、またハーセプチンが有効性を示したもう一つの悪性腫瘍である胃がんも一時期より減少したとはいえ依然として日本のがんの中で主要な位置を占めている。そのような主要な疾患のキードラッグであるから、大都会のがん拠点病院から地域の市民病院まで様々な場面で、きっと今日もたくさんの方がハーセプチンの点滴を受けたことだろう。私も地方都市の小さい外来化学療法センターの点滴当番として、まさに今日も何人もの乳がん患者に会い、その腕に末梢ルート確保を行い、ハーセプチンの点滴をしてきたところだ。

もちろんハーセプチンの投与を受けた全ての人に効果があったというわけではないが、ハーセプチンが著効しこの薬のおかげで命をつないで今日も平穏な暮らしを送ることができているという人も数多く見てきた。

ハーセプチンに限らず画期的な新薬開発の背景には、その薬を生み出すために多くの人が人生をかけた挑戦があった。その物語は、本書の原作(Her-2: The Making of Herceptin, a Revolutionary Treatment for Breast Cancer. Robert Bazell 1998)が出版されてから20年経った今もまだ色褪せない。この本は、そういう当たり前のことに今一度気づかせてくれる一冊の書籍である。

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