レ点腫瘍学ノート

神経内分泌腫瘍 の履歴の現在との差分(No.3)


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#author("2022-12-01T00:43:12+09:00;2019-09-05T07:51:39+09:00","default:tgoto","tgoto")
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*膵神経内分泌腫瘍におけるNET G3と低分化型NECの区別
*膵神経内分泌腫瘍におけるNET G3と低分化型NECの区別 [#w2baf06d]

**NET G3とNECは全く別の疾患概念である
**NET G3とNECは全く別の疾患概念である [#u290451f]

2010年頃以前までは、NETのうちki67 indexが高いものがNECであるというような疾患概念で考えられていたが、現在はNET G1-G3とNECは全く別の疾患群と考えるべきである。臨床的にも、病理学的にも、分子遺伝学的にもNET G3とNECの間には明確な違いがあると認識されている。

G1/G2の膵臓NETに対してはエベロリムス・スニチニブが抗腫瘍効果を示す。一方でNECに対してはプラチナベースの化学療法が重要である。WHO2010年分類ではNET G1/G2は高分化型、NECは低分化型と定義されていたが、実際にはNECと診断された腫瘍の中にもKi-67 labeling index値は高いが組織学的には高分化型を示すものが含まれることが明らかになってきた。低分化型NECと比べてもNETの予後は良好であり、また治療選択においてもNECに推奨されるプラチナ系薬剤よりはエベロリムスなどの標的治療の有効性が高いことが明らかになってきた。これらのことから、神経内分泌腫瘍のうちKi-67 indexが高値のものの中でも低分化のNECと高分化のNET G3は峻別されるべきという考え方が広まってきた。

**WHO分類でのNETとNEC
**WHO分類でのNETとNEC [#vd381ce9]

2017年に発表された膵NETの病理組織学的分類(WHO2017分類)では、ki-67 indexを見るよりも先にまずは組織形態学的に高分化型のNETと低分化型のNECに分けて、さらに高分化型のNETの中でki-67標識率に基づいてNET G1/G2/G3に分類されることが提唱された。なお、この分類は膵NETにおける分類であり、2018年時点では消化管神経内分泌腫瘍においてはNET G3とNECについて明確な区分が確立されていない(WHO 2015年分類が生きている)。

G3 NETの治療選択については種々の意見が見られるところではあるが、近年はG3であってもNETはNECとは分けてG1/G2と同じ治療を選択する事が多い。

*NET G3とNECの免疫組織学的および遺伝学的鑑別
*NET G3とNECの免疫組織学的および遺伝学的鑑別 [#c3d04229]

両者の鑑別は検体量が十分得られているときは組織形態学的に区別できるが、検体量が少ない場合などは免疫組織化学染色を併用することで診断率を向上させることができる。

/Clin Cancer Res 2017 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28455360

||NET G3|SCNEC|LCNEC|
|クロモグラニンA陽性|100%|88.5%|88.9%|
|シナプロフィジン陽性|95.2%|96.8%|88.9%|
|Ki-67標識率中央値|28.5%|85.0%|70.0%|
|Rb発現消失|0%|59.2%|47.0%|
|KRAS変異陽性率|0%|48.0%|50.0%|

*膵NENと膵癌の遺伝子変異率
*膵NENと膵癌の遺伝子変異率 [#h114d406]
/Science 2011 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21252315
/Science 2008 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18772397

それぞれの遺伝子変異の陽性率は下記の表の通りである。

||膵NEN|膵癌|
|MEN1|44%|0%|
|DAXX,ATRX|43%|0%|
|mTOR関連遺伝子|15%|0.8%|
|TP53|3%|85%|
|KRAS|0%|100%|
|CDKN2A|0%|25%|
|TGFBR1,SMAD3,SMAD4|0%|38%|

-DAXX/ATRXやmTOR関連遺伝子に変異を要する膵NENは予後が不良である。Nature 2017 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28199314

*膵NETに対する標的治療とSSA治療
*膵NETに対する標的治療とSSA治療 [#j983c19f]

オクトレオチドはガストリノーマやカルチノイド症候群では有効性が高いがインスリノーマには有効性が低い。この場合にはオクトレオチドによってグルカゴン分泌が抑制されるため低血糖発作が増悪する可能性があるので注意が必要である。

**CLARINET試験:膵臓NET(G1/G2)に対するランレオチド単独療法(第3相)
**CLARINET試験:膵臓NET(G1/G2)に対するランレオチド単独療法(第3相) [#h2a37d47]
/NEJM 2014 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25014687

-ランレオチド群101例とプラセボ群102例の比較を行った。
-ランレオチド群は膵臓NET 42%、中腸NET 33%、後腸NET 11%。G1が68%、G2が32%。
-プラセボ群に比べてランレオチド群は24ヶ月生存率は33.0%→65.1%に改善した。
-PFSはプラセボ群18.0ヶ月に対して実薬群は中央値未到達。

**消化管・膵NECに対するCDDP+CPT-11療法後のオクトレオチド維持療法(第2相・単アーム)
**消化管・膵NECに対するCDDP+CPT-11療法後のオクトレオチド維持療法(第2相・単アーム) [#l432fe2c]
/Oncotarget 2017 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27788498
-先行して40人の患者に対して合計155サイクルのIP(CDDP+CPT-11)療法を実施した。
-原発部位は胃15例、食道8例、膵臓6例、大腸4例、小腸2例、原発不明5例であった。
-組織学的には小細胞NEC 20例、大細胞NEC 8例、MANEC 7例、high proliferation NET 5例。Ki-67値は21例が75%以上、9例が50〜74%。
-IP療法のサイクル数の中央値は4サイクルで、25%の患者は1サイクルしか実施できなかった一方で42.5%の患者は6サイクルのIP療法が実施できた。その後に16症例がオクトレオチドLARの投与を受けた(12例はプロトコル通りIP療法を受けた症例。4例はIP療法が毒性中止となった症例)。
-全体ではIP療法に対して45%がPR、25%がSD、10%がPD、20%が評価不能であった。
-オクトレオチドLARの投与に進んだ16症例はIP療法がPRであった症例が11例。
-オクトレオチドLARのの投与継続期間は1サイクルの症例2例を含めて11症例が4サイクル以内だが、25サイクルも継続できた症例1例を含め、8サイクル以上継続できた症例が3例あった。
-全体でPFS中央値は5.7ヶ月、OS中央値は12.9ヶ月であった。

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