レ点腫瘍学ノート

胃癌/2020/HER2陽性胃癌のHER2陰性化の問題 の履歴差分(No.4)


#author("2021-06-28T14:54:21+09:00;2020-10-28T11:29:14+09:00","default:tgoto","tgoto")
#ogpi(https://oncologynote.com/?d9f4c79ff8)

#tweet(1312015853584437249)

*二次治療以降のHER2陽性胃癌に対する臨床試験ではエントリーされた症例でもHER2が陰性と判定される症例が少なくない [#z014a83b]

胃癌のトラスツズマブbeyond PD(つまり一次治療でトラスツズマブが不応となった後も二次治療でトラスツズマブを継続する意義があるか)を検証してネガティブだったJCOG7112G(T-ACT)試験ではHER2陽性胃癌を対象に計画した試験だったはずですが、一次治療前に全例HER2陽性だったはずが二次治療時に31%しかHER2陽性を維持してなかったという話がありました。つまり、胃癌ではHER2陽性であったとしても抗HER2療法を行っているうちにHER2が陰性化することがしばしばあるということが言えそうです。

#ogp(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32208960/)

またT-ACT試験以外でも、T-DXd(トラスツズマブデルクステカン)の胃癌の治験もまたHER2陽性を対象としてエントリーさせた臨床試験ですが、HER2ステータスを中央判定すると全体の4割の症例でHER2の陰陽が中央判定と乖離したという話もありました。

#tweet(https://twitter.com/m0370/status/1312016808715579392?s=20)

これも、各施設判定は一次治療前のHER2ステータスを流用しているのに対して中央判定は(この試験は3次治療以降を対象とした試験なので)3次治療の時点でのサンプルを使ってHER2を再判定したところHER2が陰性化していたということなのかもしれません。

#ogp(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32208960/)

#tweet(1312017223850942464)

乳癌では術前術後にトラスツズマブやペルツズマブを使い、再発後もトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン、その後にT-DM1、さらにT-DXd、また将来的には状況によって(たとえば脳転移があって)HER2-TKIを使用することも出てくるかも知れません。抗HER2療法を継続するということは乳癌では一般的になっています。もちろんHER2陽性乳癌でも治療経過中にHER2が陰性化してトリプルネガティブ乳癌になっているようなケース((https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24013581/))((https://clincancerres.aacrjournals.org/content/15/23/7381))はしばしば目にしますが、それでも抗HER2療法のbeyond PDでの継続の有用性はコンセンサスを得ています。それに対して胃癌では同じような治療戦略が成り立たないのは、やはりHER2ステータスの陰性化の関与があるのではないかと考えてしまうわけです。

*胃癌のHER2陰性化の頻度に関する報告 [#z41aed2d]

九州大学を中心とするKSCCからの報告では、3ヶ月以上のトラスツズマブによる治療を受けたHER2陽性胃癌33例の検討でおよそ6割にHER2の消失を認めたようです。なお、生検検体の固定方法によってもHER2ステータスに若干の変化が起こることも言及されています。

#ogp(https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0959804918313947)

こちらの海外からの報告でもおおむね30%強の症例でトラスツズマブの治療後にはHER2ステータスが陰性化するというように報告されています。なお、HER2の欠失とHER2過剰発現の消失とを別個に評価されていますがいずれも頻度は3割程度であまり差が無いようです。

#ogp(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27578417/)

こちらの文献は症例数は少ないものの、HER2陽性胃癌に対するトラスツズマブの治療前後でのHER2ステータスの変化について検討され、7例中の3例でHER2が陰性化したと述べられています。

#ogp(https://ar.iiarjournals.org/content/40/1/75)

これらで示されたようにHER2陽性胃癌に対するトラスツズマブの治療中にHER2が陰性化するというのは30〜60%程度の症例では見られることのようです。もともと胃癌のHER2ステータスは非常に腫瘍内ヘテロ性が高いため、ひとつの腫瘍組織内にもHER2がつよく発現している細胞もそうでない細胞も混在した状態になっています((https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0959804912008404))。このような腫瘍に対して抗HER2療法を行うとHER2が過剰発現していない腫瘍細胞に生存セレクションがかかり、全体としてHER2陰性の腫瘍に置き換わってゆくような選択圧が最終的なトラスツズマブ耐性を招くのだと考えられています。

もちろんEGFR増幅やc-met増幅、PIK3CAなどのPI3K経路の変異などのトラスツズマブ耐性機序も存在しますが、こと胃癌に関してはHER2の陰性化の影響は無視できなさそうです。

#ogpi(https://oncologynote.com/?652437256b)