レ点腫瘍学ノート

非小細胞肺癌/CQ/セツキシマブの立ち位置 の履歴ソース(No.2)

#author("2019-12-29T11:10:07+09:00;2019-12-29T11:09:27+09:00","default:tgoto","tgoto")
肺扁平上皮癌に対するセツキシマブの位置付けは微妙なポジションです。小分子化合物のEGFR-TKIは、ゲフィチニブ(イレッサ)に始まりエルロチニブ(タルセバ)、アファチニブ(ジオトリフ)、オシメルチニブ(タグリッソ)などがEGFR変異陽性非小細胞肺癌で欠かすことのできないキードラッグの立場を確立していますが、同じEGFRをターゲットにしていても抗EGFRモノクローナル抗体の立ち位置は微妙です。

抗EGFR抗体といえばセツキシマブ(アービタックス)、パニツムマブ(ベクディビックス)、ネシツムマブ(ポートラーザ)。セツキシマブは頭頸部癌や大腸癌で、パニツムマブは大腸癌ですでに承認されて頻用されています。

頭頸部癌と似たゲノムプロファイルを示すこともある肺扁平上皮癌はセツキシマブの良い対象になりそうですが、その開発はあまりうまく行っていないようです。一方で肺扁平上皮癌ではネシツムマブが有力な候補になっていますが、ペムブロリズマブも大きな存在感を発揮している領域なので抗EGFR抗体の使い所が難しいかもしれません。

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*セツキシマブ+プラチナダブレット

**FLEX試験

肺扁平上皮癌の一次治療において、CDDP/VNRにセツキシマブの上乗せの有無で比較した第3相RCT。セツキシマブ上乗せ群でOSが10.1→11.3ヶ月にわずかに伸び、HR 0.87でしたがPFSは統計学的有意差なしの微妙な結果です。

#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19410716,amp)

しかもgrade4の全有害事象が62%、grade4の好中球減少が4割とかなりの毒性です(ただしセツキシマブを上乗せしないCDDP/VNR単独でも全有害事象が52%と高い)。

結局、OSの延長はわずかなのに対して毒性があまりに強いために推奨される事はないとの判断になりました。NCCNガイドラインでも現在は非推奨であることが明記されています。

#ref(https://www.oncologynote.com/img/cc56232582-b.jpg,nolink)

** SWOG S0819試験

SWOGS0819も全体ではOS有用性無しで、層別化解析でEGFR-FISH陽性群に限ればOS HR0.58と優秀な成績なのですが、結局は肺扁平上皮癌でEGFR-FISHの検査自体もその後のセツキシマブも承認されていません。

#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29169877,amp)

**KRAS変異はセツキシマブの効果予測因子にならない

大腸癌ではKRASを含むRAS変異が陽性だとセツキシマブの有効性が大きく落ちることがわかっており、RAS変異陽性はEGFR抗体の適用外です。しかしこれは大腸癌だけの傾向のようで、頭頸部癌ではKRAS変異はセツキシマブの有効性予測因子としては確立されていません。肺扁平上皮癌においてもFLEX試験のあとでバイオマーカー解析が行われており、KRAS変異は効果予測因子にはならないことが確認されています。世界肺癌学会の報告では皮疹の有無が唯一のマーカーで、KRAS変異は有効性の予測にはならないとのこと、またEGFR変異が陽性だと予後がよいがこれは抗EGFR抗体の有効性とは関係なくEGFR変異陽性肺癌そのものが予後が良い傾向にあるものだとコメントされています。

#ogp(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/iaslc2009/200908/511794.html,amp)

他のセツキシマブの有効性に関する4試験の統合解析でもKRASは予後予測因子としては記載されていません。FLEX試験とは別にBMS099試験(こちらは試験自体がネガティブだった)でも同様でした。

#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4367590/,amp)

**欧州での承認申請取り下げ

なお、これらの複数の試験のあとで2012年秋に独メルクは欧州医薬品庁(EMA)でのセツキシマブの肺扁平上皮癌への承認申請を取り下げたとの報道がありました。その他の国でも同様の動きになっていると思われます。

#ogp(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/201209/526869.html,amp)

*セツキシマブ+EGFR-TKI

NCCNガイドラインではアファチニブ+セツキシマブも少し出ていました。EGFR-TKIが耐性になったあとの選択肢の1つみたいです。(第1b相試験と第2相試験はあるが第3相試験は実施されていない?)

#ref(https://www.oncologynote.com/img/cc56232582.jpg,nolink)

*ネシツムマブ

**SQUIRE試験

非小細胞肺癌でもっとも開発が順調なのがネシツムマブです。米国では第3相SQUIRE試験でCDDP+GEMへの上乗せでOSが9.9→11.3ヶ月に延長(HR 0.84)という成績で2015年にFDA承認を受けています。ネシツムマブで頻度の高い有害事象は低マグネシウム血症や挫創様皮疹や嘔吐・下痢でセツキシマブと似た印象です。

気になるのは538例中15例(3%)に心肺停止又は突然死が発生がしているというものです。プラセボ群ではその頻度は3例(0.6%)なので明らかに高い数字という印象です。その15例のうち12例はネシツムマブの最終投与から30日以内に発生しており、冠動脈疾患、低マグネシウム血症などの関連の可能性についても検討されていますが直接死因が不明のものも少なくありません。なお、このSQUIRE試験では顕著な冠動脈疾患、心筋梗塞(6ヵ月以内)、コントロール不良の高血圧、コントロール不良のうっ血性心不全を有する患者は試験前に除外されています。このためFDAのネシツムマブの添付文書では電解質不均衡の有無のモニタリングなどが支持されているとのことです。/Lancet Oncol

#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26045340,amp)

**ネシツムマブ日本人対象第Ib/II相試験

#ref(https://www.oncologynote.com/img/cc56232582-c.png,nolink)

SQUIRE試験には日本人が含まれていませんでしたが、日本でも第Ib/II相試験が実施されて2019年にLung Cancer誌に発表されました。OSは10.8→14.9ヶ月と大きく延長(HR 0.66)。PFSは4.0→4.2ヶ月とわずかにしか伸びていませんが、これは両群とも4ヶ月の時点で大きく曲線が落ち込んで中央値が50%を割ってしまったことによるもので、生存曲線を見ると差はしっかり開いている印象です。

この日本人対象の試験では発熱性好中球減少症の発生頻度が3→12%に増加するという有害事象はあるものの、grade5の有害事象は報告されていないようです。

#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30797492,amp)

*ペムブロリズマブの大きな存在感が壁に

**ライバルになるペムブロリズマブのKEYNOTE-407試験

#ref(https://www.oncologynote.com/img/cc56232582-d.png,nolink)

ネシツムマブなど抗EGFR抗体も良い成績を出しています。しかし、プラチナダブレットへの上乗せという点ではペムブロリズマブなど免疫チェックポイント阻害薬の存在感が急速に大きくなっています。肺扁平上皮癌に関して言えば、CBDCA+PTXまたはCBDCA+nabPTXにペムブロリズマブを上乗せしたKEYNOTE-407でOSが11.3→15.9ヶ月と大きく伸びています(HR 0.64)。

#ref(https://www.oncologynote.com/img/cc56232582-e.png,nolink)

これはサブ解析を見てみるとPD-L1発現の陰性群でも有意にOS延長を示していて、PD-L1発現ステータスによらずペムブロリズマブが強い上乗せ効果を示した結果でした。これらを見ると、今のところネシツムマブよりもペムブロリズマブのほうが大きな存在感を発揮している印象です。

#ogp(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30280635,amp)