レ点腫瘍学ノート

PARP阻害剤/二次性悪性腫瘍 の履歴差分(No.2)


#author("2019-12-09T15:08:27+09:00","default:tgoto","tgoto")
オラパリブを含むPARP阻害剤の副作用として有名なのは貧血と悪心嘔吐であり、それらに対しては減量休薬あるいは制吐剤(メトクロプラミド、ドンペリドン、プロクロルペラジン等)などで対処するのが一般的です。そのほかに下痢や疲労などの頻度が高いほか、頻度が低いものの間質性肺炎があります。
#author("2019-12-09T17:53:31+09:00;2019-12-09T15:08:27+09:00","default:tgoto","tgoto")
オラパリブを含むPARP阻害剤の副作用として有名なのは貧血と悪心嘔吐であり、ときに下痢や疲労などがあるほか、頻度が低いものの間質性肺炎があります。

-オラパリブの貧血:全gradeでSOLO1試験で38.1%、SOLO2試験で43.6%
-オラパリブの悪心:全gradeでSOLO1試験で77.3%、SOLO2試験で75.9%
-オラパリブの嘔吐:全gradeでSOLO1試験で40.0%、SOLO2試験で37.4%
一方でPARP阻害剤でしばしば注意喚起される有害事象として二次性悪性腫瘍、とくにMDS/AMLのリスクが挙げられます。しかし、PARP阻害剤の投与があるかどうか以前にBRCA変異自体が血液腫瘍の発生リスク因子です。このMDS/AMLがPARP阻害剤そのものによって誘発されていると考える前に、少し背景に踏み込んで考えて見る必要があるように思います。

一方でPARP阻害剤でしばしば注意喚起される有害事象として二次性血液腫瘍、とくにMDS/AMLのリスクが挙げられます。しかし、このMDS/AMLがPARP阻害剤そのものによって誘発されていると考える前に、少しその背景に踏み込んで考えて見る必要があるように思います。

*PARP阻害剤の投与歴のある患者のMDS/AMLの発生頻度

PARP阻害剤には二次性悪性腫瘍、とくにMDS/AMLとの関連の可能性が示唆されています。卵巣癌のSOLO1試験、SOLO2試験、Study19試験では合わせて2,258例中で26例(1.2%)にMDS/AMLが見られています。この26例中、臨床試験の追跡期間中に20例が死亡していますが16例はMDS/AMLが主要死因または二次的死因と報告されていて、発生すれば予後に大きく影響する有害事象であることは確かなようです。

骨髄細胞へのPARP阻害剤の細胞毒性が確認されており、PARP阻害剤による血液腫瘍発生というメカニズムは理解できます。BRCAなどの相同組み換え修復機構に異常がある場合はPARP阻害剤により一本鎖DNA切断の修復が阻害されるために二本鎖DNA切断の修復負荷が増大し、確率論的に突然変異誘発リスクが上昇するという理屈などが考えられます。しかし、PARP阻害剤の投与を受ける患者群がそもそも(PARP阻害剤の投与を受けなくても)血液腫瘍を発生しやすいという背景を持っていることから、この1.2%がPARP阻害剤そのものによるリスクなのかどうかは慎重に判断する必要がありそうです。

**gBRCA変異自体が血液腫瘍のリスク?

SOLO1試験はgBRCA変異を有する患者を対象にしています。SOLO2試験はgBRCA変異の有無を問わずプラチナ感受性卵巣癌を対象にしていますが参加者の大部分はgBRCA変異を持っていました(オラパリブ群でBRCA1は67%、BRCA2が30%)。BRCAはそれ自体がファンコニ貧血の原因遺伝子となりえるほか、FANCタンパク質の挙動にも密接な影響を及ぼします。したがってPARP阻害剤による働きの血液腫瘍発生への影響のほかに、PARP阻害剤を投与される患者群はそもそも血液腫瘍を来しやすい素因を持っているという影響も加味しなければならないでしょう。
SOLO1試験はgBRCA変異を有する患者を対象にしています。SOLO2試験はgBRCA変異の有無を問わずプラチナ感受性卵巣癌を対象にしていますが参加者の大部分はgBRCA変異を持っていました(オラパリブ群でBRCA1は67%、BRCA2が30%)。

BRCAはそれ自体がファンコニ貧血の原因遺伝子となりえるほか、FANCタンパク質の挙動にも密接な影響を及ぼします。したがってPARP阻害剤による働きの血液腫瘍発生への影響のほかに、PARP阻害剤を投与される患者群はそもそも血液腫瘍を来しやすい素因を持っているという影響も加味しなければならないでしょう。

#ogp(https://www.natureasia.com/ja-jp/reviews/highlight/15245,amp)

**細胞障害性化学療法の前治療歴
**細胞障害性化学療法の濃厚な前治療歴も二次性血液腫瘍のリスク?

SOLO1試験、SOLO2試験はいずれも少なくともプラチナ系抗癌剤とタキサン系抗癌剤の投与歴があります。OlymipiAD試験は少なくともアンスラサイクリン系抗癌剤とタキサン系抗癌剤の投与歴があり、また多くの患者はシクロフォスファミドの投与歴もあるはずです。濃厚な細胞障害性化学療法の前治療歴は、二次性血液腫瘍の発生頻度を増加させるリスクがあります。

**各試験のプラセボ群での二次性血液腫瘍の頻度
**PARP阻害剤群とプラセボ群での二次性血液腫瘍の頻度に差はない?

これらgBRCA変異自体のリスクや細胞傷害性化学療法の前治療歴の影響を同じ程度に受けたと思われるプラセボ群でも、二次性血液腫瘍は見られています。MDS/AMLの発生頻度は、オラパリブ群で1.2-2.1%であるのに対してプラセボ群で0.8-4.0%となっています。もともとMDS/AML自体が発生頻度の非常に低い有害事象であることからそれぞれの臨床試験を統合的に解析したとしても極めて少ないn数にならざるを得ず、この値が統計的に有意なものかどうかの判断はできませんが、値だけを見るとプラセボ群でも二次性血液腫瘍の発生頻度は決して低くはなく、PARP阻害剤の影響のみによってMDS/AMLが生じているというよりは、gBRCA変異を有し細胞傷害性化学療法の濃厚な治療歴を有するという患者背景そのものがMDS/AMLをきたしやすい状況を生んでいたと考えるほうが自然のように思われます。
これらgBRCA変異自体のリスクや細胞傷害性化学療法の前治療歴の影響を同じ程度に受けたと思われるプラセボ群でも、二次性血液腫瘍は見られています。MDS/AMLの発生頻度は、オラパリブ群で1.2-2.1%であるのに対してプラセボ群で0.8-4.0%となっています。

もともとMDS/AML自体が発生頻度の非常に低い有害事象であることからそれぞれの臨床試験を統合的に解析したとしても極めて少ないn数にならざるを得ず、この値が統計的に有意なものかどうかの判断はできませんが、値だけを見るとプラセボ群でも二次性血液腫瘍の発生頻度は決して低くはなく、PARP阻害剤の影響のみによってMDS/AMLが生じているというよりは、gBRCA変異を有し細胞傷害性化学療法の濃厚な治療歴を有するという患者背景そのものがMDS/AMLをきたしやすい状況を生んでいたと考えるほうが自然のように思われます。

*PARP阻害剤の持続する血液毒性の管理

ちなみに、PARP阻害剤で持続する貧血が見られた場合の対処については適正使用ガイドにも具体的な記載があります。Grade 3以上の貧血が見られた場合は、まずは2週間以上の休薬を行いますが、4週間の休薬を行っても血液検査に臨床的異常が持続する場合は血液専門医を紹介して血液腫瘍に関する精査を検討すべきと記載されています。

*乳癌と卵巣癌での二次性血液腫瘍頻度の違い

なお、乳癌のOlympiAD試験ではMDS/AMLの発症数は0例でした(ただしOlympiAD試験での観察期間は投与中および投与終了後30日と短く、年単位で遅れて出現するようなリスクまでは評価されていません)。卵巣癌と乳癌で好発年齢の違いや卵巣癌ではBRCA2の関与が大きいなど背景因子の違いは考慮する必要があるかもしれません。

いずれにせよこれらの数本の臨床試験だけでオラパリブの二次性血液腫瘍のリスクを判断することは難しいのですが、PARP阻害剤のみによってMDS/AMLが誘発されているわけではなさそうであるということを知っておくことは悪くないのではないでしょうか。
いずれにせよこれらの数本の臨床試験だけでオラパリブの二次性血液腫瘍のリスクを判断することは難しいのですが、PARP阻害剤のみによってMDS/AMLが誘発されているわけではなさそうな印象です。